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新館へ

ついに愚か者一号の居場所が判明した。

しかし相変わらず個人情報の壁に阻まれどうすることもできない。

これはファンタジーなんだからそこまで厳しくなくてもいい気も。


現世とはそれはそれは息苦しいところ。

これ以上ここにいればどうにかなりそう。

それでなくてもどんどん穢れて行く気が。もうこれ以上はダメ。

現世に染まって戻れなくなる前に見切りをつける必要がある。

無責任と言われようが仕方ないこと。

もって一日。それ以上は危険が伴う。


異世界・ザンチペンスタンが消滅すればすべてが無に帰す。

もし女神様が元の世界に戻れなければ損失はザンチペンスタンだけではない。

新世界・スクイーラにも。またはその周辺の世界にも及ぶ。

それだけではなく転生者のその後の人生にも影響が出てしまう。

女神様がいなければ支障がでるのは当然のこと。

決して諦めるのではなく一旦戻ることを優先させる。

ですが今は消滅危機を回避することに全力で臨むしかない。


建てられて間もないのか清潔でお洒落な雰囲気のある新館。

どうやらここに例の愚か者も入院してるようだ。

さあ急ぎましょう。早く……

ここで押し問答してる暇にも診断書にサインされては終わり。

今までしてきたことが水の泡になる。当然異世界も消滅してしまう。


「早く! 早く! 」

微笑みを絶やさずに願う。ちょっと不気味だったでしょうか?

ですが女神様の微笑みは貴重。祝福と加護を与えることになるのですから。

「申し訳ありません。どうぞお引き取りください」

相手にされない。これで何もかもが終わった。長かった短かった。でも……


「分かりました! 特別に祝福を。さればきっとこれからよいことが…… 」

「何を言ってるんですか? 壺でも買わせるつもり? いい加減にして! 」

信じてもらえないらしい。どうしてここまで本気で訴えてるのに共鳴しない?

まったく情けない。悲しい。これも女神様の至らなさからくるもの。


「まさかあなた女神様を疑うつもりですか? 呪われますよ? 」

脅しを掛ける。しかし祝福の女神様である以上そのような能力持ち合わせてない。

残念ですがハッタリと言うことになる。

「もういい加減にしてよ! 何が女神様よ? 誰が信じるの? 」

のらりくらりとかわしていた受付もいつの間にか感情的に。

当然でしょうね。それだけ余裕がないことに。これ以上は真実を隠せない。


「だからどっちでもいいんだって。呼び出してくれよ! 」

加賀が頼み込む。それでも応じることはなさそうだ。

「だから無駄なの! 意識不明で面会謝絶なのよ? 呼び出してどうやって…… 」

ついに受付が吐いた。粘りに粘った甲斐があった。

それに気づいて口を塞ぐがもう遅い。一度口にしたらもう取り消せない。

どんなに違うと言ったところで無意味。


「やはり被害者はこの病院に入院してるんですね? 」

女神様が哀れな子羊を導く。

「違うの…… 誤解で…… 」

あれほどはっきりしていたのに分が悪くなるとしどろもどろになる。

「いえ違いません。あなたは今決定的な事実を漏らしてしまった」

「ううん。これは一般論。あれだけの事故なら当然そうでしょう? 」

汗を拭ってどうにか言い繕う。それでどうにかなると本気で思ってるの?

「おかしいですね。知らないとさっきまで言ってませんでしたか? 」

相手を追い込む。本来女神様がするようなことではありません。

しかし何度も言うように異世界消滅の危機に追い込まれている。


そんなとんでもないタイムリミットギリギリの今とても冷静になどいられません。

もちろん冷静沈着に努めてはいますがそれでも理想の女神像とはかけ離れている。

現世に降り立ち穢れて行く自覚がある。

やはりもうこれ以上ここにいるのは危険。

急いで解決して早く元の世界に戻る必要がある。


「ああああ…… 」

受付は放心状態。自分のせいでとんでもないことになったと頭を抱える。

「心配無用。当然配慮しますし祝福も。女神様は嘘を吐きません」

これくらい言えば相手だって納得してくれるでしょう。

ただもう本当に時間がない。タイムリミットは医者の気持ち次第。

現実的にも社会的にもお亡くなりになりそれが確定すればいくら女神様でも不可能。

蘇らす能力はありませんから。できるとしたら魔女の大魔法に頼るぐらい。

でもその時間すらない。


「ふふふ…… 責任は取りませんよ。

そもそも漏らしたのはこの病院の関係者のようですからね」

開き直り決心する。

「はい。責任はすべてこの女神様が取ります。それが無理な場合は加賀が」

安心させる。こちらが敵でも悪人でもないことをいち早く知らせる。

逆に味方になり得る存在。

時間もないのでゆっくりしつつも急かす。


「ええ女神様? 自分が? 聞いてないよ」

「はい。加害者ですから。失敗すれば当然責任がある」

加賀にも現実を受け入れてもらう。協力するとはそういうこと。

「それで愚か者はどちらに? いえ今日転落事故で運ばれた患者さんはどこへ? 」

もうこれ以上は隠せない。そろそろ楽になりたい頃だろう。

「現在新館の三階の一番奥の集中治療室に」

「まだ生きている? 」

「はい。酸素を送り続けてる限り。ですが医師が判断した場合残念ですが…… 」

急げと言うことらしい。ノロノロなどしてはいられない。


新館へ直行する。

新館は最新の設備が整っており急患特に症状の重い患者が担ぎ込まれていく。

「ほら走らない! 」

注意を無視して受付へ。

「どうされましたか? 」

「その…… あの…… 」

ダメ。正直に言っても通してくれない。

「お見舞いに参りました」

「はあ何を言ってるの? ここは面会謝絶だよ。

何人たりとも許可なく入ることは許されない! 」

面倒だと言わんばかりに必殺のワードで威嚇する。


「申し訳ありません。今日担ぎ込まれた…… 」

「ああ…… あんたら家族かい? 」

首を振る加賀。

「まさか警察の方? 」

「いえ。ただの加害者です。それでお見舞いにと思いまして」

「花も持たずにかい? ああ生花は禁止。世話が大変だから。

ドライフラワーが好まれるよ」

うんうんとメモを取る。ですが今はそんなところではない。急いでいるのです。


「三階の…… 」

「ごめんね。申し訳ないけれど関係者以外立ち入り禁止なんだ。

だからお引き取りください」

欠伸をして目をこする。寝不足らしい。

おかしなのにつき合うつもりはない。


                  続く

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