ククミン
勇者・ノアのターン。
その頃宮殿では……
書を携えた男が姿を見せる。
普通こう言う場合は他国の使者のはずだが何かおかしいと騒めき立つ。
事情を知っている俺はどう振る舞えばいいのやら。
とにかく陰ながら見守るしかないかな。
「お急ぎで国王様に! 」
例の男が息を切らし焦った様子で戻ってきた。
なぜ彼だけが戻って来たのか? 誰一人理解できないでいる。
謁見の間の扉が開かれ男が中へ。
「申し上げます! 姫様は何者かに襲われたものの撃退。その際に姫様は負傷。
馬車を失い負傷したため近くの魔女の家で完治するまでお世話になるとのこと。
どうぞ国王様。この書をお受け取りください! 」
そう言って跪く。
「書だと? 姫はどうした? 我が娘アーノ姫はどうしたと言うんだ! 」
怒り狂った国王の叫びが響き渡る。
「おおこれはまさに姫様のものですよ」
爺さんが代わりに書を受け取る。
「ふざけるな! そんな危険なところに姫一人にするとはただでは済まんぞ! 」
ひいい……
いつもは温厚で笑顔を絶やさない国王が怒り狂うのだからそれはもう相当なもの。
「まあまあ。落ち着いてください」
爺さんが宥めて収めようとするがうまく行かない。
「ほんの軽い怪我。身を隠すには丁度いいと言って聞かないんです」
男から姫様の悪口がついぽろっと。決して悪気はないような気もするが。
「何だと! 姫を侮辱する気か? 姫を侮辱するは国王を侮辱するも同じだぞ!」
滅茶苦茶な国王。取り乱して男に八つ当たり。これでは話にならない。
国王の怒りを静めるにはここは再び姫様として舞い戻るしかない?
でもそれが容易でないから苦労している。
「お怒りをお静めください! 冷静に! 冷静に! 」
外にまで聞こえる国王の叫び。
これではいつまで経っても謁見できそうにない。
「あのそれで国王様。これから謁見の間で勇者たちへのご挨拶を…… 」
爺さんがよせばいいのに余計なことを。
「取りやめだ! 今はそんな時ではないわ! 」
うわ…… それはないよ。せっかくここまで来たのに……
姫が心配なのは分かる。でも無事は確認できてるはずなんだしさ。
「ですが国王様。それでは…… 」
「よいのだ。姫が消えた今いても立ってもいられない。あーどうしたらいい? 」
国王は聞き入れようとはしない。
「失礼します! 」
ここはどうにか国王を説得しないとどうにもならなくなるぞ。
「何だお前は? 勝手に入るな! 謁見は中止だ! 」
冷静さを欠いた国王は誰彼構わずに罵る。
「ボクは勇者ノア。姫様なら無事ですよたぶん。ご安心ください」
「勇者だと? お前に何が分かると言うんだ? いい加減なことを抜かすな! 」
これ以上は本当にまずい。国王乱心で民を不安にさせることに。
「御免! 」
一撃を喰らわせて眠ってもらうことに。
少々手荒だがこれも国王のため。
「お前何をしとるか! 」
今度は爺さんがうるさいことを言う。
「ほらあんたも国王様を運んで。早くしろ! 」
冷静さを欠いた国王が何を仕出かすか分からない。
これで少しは落ち着いただろう。
ではここらで一息つくとしましょうか。
魔女の家。
「きゃあああ! うぐぐぐ…… 」
魔女が豹変したのでつい大声が。
「姫様? 姫様? 」
何ごとかと驚いたお付きが駆け込んでくる。
「ごめんなさい。クモがいたものですからつい大声を」
「そうですか。何ごともないならそれで。クモはどこに? 」
「驚いて姿を消したみたい」
「しかし変ですね。姫様は大のクモ好きのはず。幼い頃から手掴みで。
いくら言っても悪ふざけをやめない。手に負えない子だったはずですが…… 」
言い過ぎましたと俯く。
「ボクももう立派な姫ですからね。クモだって苦手にもなりますよ」
「そうでしたね。では何かありましたら遠慮なくどうぞ」
そう言って周りの見回りに戻る。
熱心で頼りがいのある。冷静で下手な嘘もすぐに見破る眼力を持っている。
こうしてどうにか大ごとにならずに済んだ。
「もうあんたいい加減にしなさいよ! 悪ふざけが過ぎるでしょう! 」
魔女に口を塞がれて一時はどうなることかと。
「大人しく言うことを聞くんだよ。その美しい顔がどうなってもいいのかい? 」
魔女はなおも怖がらせようと。実際この魔女が襲い掛かってきた訳ですが。
「あんた妖精の使いでしょう? 分かってるんだから! 」
助けてくれた彼女が敵のはずがない。そしてこんなタイミングよく助けもしない。
だったら彼女は妖精が言ったこちら側の人間。
お助けキャラの魔女と言ったところ。
「ははは…… ちょっと悪ふざけが過ぎましたかねアーノ姫?
私は魔女のクク。ククミンとでも呼んでください」
おどける魔女。
もう少し時と場所とついでに年齢を考えなさいよね。
こうして魔女と合流を果たす。
続く




