手掛かり
愚か者一号の臭いを頼りに遠方から駆けつける親族を探す作戦。
目の前を通れば確実に察知できる。しかしこの作戦は雲を掴むようなもの。
限りなくゼロに近い可能性。とは言えそれに懸けるしかない。
ただやはり簡単ではなかった。諦めて最寄りの駅へ戻る。
そこで例の男と再会。
「待ってくれ! 俺がどうかしてた。反省してるんだ。罪を償わせてくれ」
どうやら女神様に触れ善の心を取り戻したらしい。
だからと言って昼間のことは許せない。たとえ慈悲深い女神様だとしても。
余計なことをせず大人しくしてくれるといいのですが…… うまく行かないもの。
今は彼につき合ってるほど暇ではありません。
そもそもこんなところでのんびりしていられない。急がなければ。
「俺は…… お前のためにしたいんだ! 」
男が叫び出す。これ以上は他の方に迷惑なので一旦落ち着かせる。
うーん。どうやら臭いから親族を探るやり方は無理があったよう。
「おいおいまさかこいつがお前の男か? 」
また余計な。本当にロクな男がいない。この現世はどうしようもない。
もう祝福しませんよ。加護だって与えませんよ。
「いいですからお帰り下さい」
突き放す。今は忙しい。彼につき合っても構ってる暇もありません。
それでもまったく動じない男。一体何を考えてるのでしょう?
慈悲深い女神様としてはこれ以上どうすることもできない。
「いい加減にしないか! 」
男のあまりに失礼な態度についに加賀がキレてしまう。
「おいおい何だお前? まさか新しい男か? ははは…… お前には無理だって」
どうやら二人がつき合ってると勘違いして嫉妬してるらしい。
確かに女神様ですからね。気持ちも理解しなくてはいけません。
男にはどう映っているのでしょう? ああどうしても人を引きつけてしまう。
どんなに拒絶しようと引き寄せてしまう。許して欲しい。それが女神様。
だからなるべく人とは関わるべきではない。
しつこいといくら女神様でも豹変しますよ。
今は居所が掴めずにイライラしてますからね。
おっと…… 女神様としてあるまじき言動。もっと冷静に。落ち着かなければ。
いい案だって浮かんでこない。
「何だと? さっきから失礼な奴だな! 」
いつの間にか二人が女神様を巡って対立する。
ダメ…… どうかお願い。争わないで!
分かってはいたんです。魅力的だから危険だって。しかし今は非常時。
猫の手も借りたいところ。人は多いに越したことがない。
「二人とも仲良くお願いします」
「私は別に。この失礼な男に注意してやっただけで…… 」
加賀は紳士に振る舞おうとしているが女神様に引き寄せられている気がする。
「そして俺は相手にしてないと」
「何だと? この付きまとい野郎! 」
「ああん? それはお前だろうが! 」
ダメだ。この二人は根本的に合わないのでしょう。
性格が違うのでどうしても対立してしまう。
「知ってるぞお前。加害者だって。マスコミに撮られていたもんな」
うわ…… この最低男さんは人を焚きつけることしか考えてないらしい。
一体どうなってしまうの?
「俺も知ってるぞ! お前はしつこいストーカー野郎だ! 」
断定してはいけない。たとえそれが正しくて。誰の目にも明らかでも。
「だったらお前は犯罪者だ! 」
「それはお前だろうが! 」
ダメだ。どんどん悪化していく。
何だ何だと人が集まって来る最悪の展開。
うわ…… どうしてこうなったの?
「はーい! 待った? 」
そこに突如派手な格好の女性が。最悪の雰囲気を振り払う。
どうやら男の知り合いのようですね。まさか娘?
「おお? 来てくれたのか? 」
そう言えば待ち合わせしてると言っていたな。それがこの女性?
どうにかトラブルを回避できた。
「あああ? この人誰よ? 」
こちらを睨む。明らかに誤解してる様子。
またなの? 女神様がいくら美しくてもあまりにも無理がある。
誰がこんな男と嫉妬するような関係になるものですか。
あまりにも見る目がなさ過ぎて呆れてしまう。どうしてこんな男と?
「気にしないでくれ。それより何で遅くなったんだよ? 」
「ああごまかした? 一体誰よこの女? 悔しい! 」
意外ときれいな女性。この男にはもったいない。
ただ娘の可能性もまだ否定できませんが。
「誰だっけ? 」
馴れ馴れしい。なぜ答えなければいけないのでしょう?
「女神様。慈悲深いあなたの女神様です」
「そうそう。女神様だってさ」
「ふざけないで! どうせ適当なこと言って連れて来たんでしょう? 最低! 」
激高する女性。どうやら彼女らしい。まったく信じられないこともあります。
誰が好き好んでこの男とつき合うの?
「待ってくれよ! 俺が悪かったって…… 」
どうやらしつこい男は現を抜かしているよう。ではこのへんで。
「なあ待ってくれよ! 俺が悪かったって! そろそろ機嫌を直してくれよ」
痴話喧嘩を見ているほど暇ではありません。そろそろ離れますか。
「行きましょうか女神様」
加賀も冷静さを取り戻した。
「もう今日は散々だったんだから! うちの病院にさ転院して来たんだけど。
マスコミが来ちゃって。知らないで通してようやく収まったんだから。
その対応でヘトヘト。もう疲れた! 」
愚痴を零す女性。それってまさか?
「どうした女神様? 俺が恋しいか? ははは…… 」
「冗談はそれくらいで。この方は? 」
「はい。潮夜って言います。病院事務やってます」
元気なお姉さんだ。これですべてが繋がった。
この男の存在は決して無駄ではなかった。
さっそく話を聞こうとするが……
「それは言えません。個人情報ですから。無関係な方に教えられないんです」
あれだけベラベラ喋っていたのに病院名は教えられないと言う。
意外にもしっかりしている。
「そろそろお食事にしましょうか」
男の趣味がおかしい女性は呑気に夕食の話をする。
ですがそれは待って欲しい。
続く




