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病院へ

ついに愚か者一号の居場所を掴んだ。

マンホールの転落事故を引き起こした加賀と共に病院へ。


「これがタクシー? 便利な乗り物ですね」

「女神様はこんなものを使わずともスイスイ行けるんでしょう? 」

恐る恐る確認。まだ完全には信じていない様子。

あれだけ説明しても半信半疑。困りましたね。

女神様なんですよ? 当然これくらい。


「詳しいことは教えられません」

危ない危ない。つい気が緩んで漏らしそうになる。

余計なことを言えば記憶を消さなければならない。

そうならないためにもなるべく慎重な行動を心掛ける。


「それでなぜマンホールのフタを閉め忘れたんですか? 」

純粋に気になったので聞いてみることに。普通はこんなことあり得ないはず。

あの日何が起きたのか? 

元凶は彼の閉め忘れ。愚か者一号が異世界に転生することもなかった。

それだけにどうしても強い口調になる。

「うっかりと言うかつい閉めたと勘違いして。ついでに確認も怠った。

だから後悔してるんですよ」

そう言って頭を掻く。真面目に答えてはいるがちっとも言い訳になってない。


ハアとため息で返す。

「女神様? 」

「分かりました! よく分かりました! もう結構です」

もっと別の止むに止まない事情があるとばかり。でもどうやら違った。

彼もやはり愚か者の称号を与えるに相応しい人物。


タクシーに乗ること三十分。ようやく加賀の言う総合病院に到着。

さあこれで再会できる。もうここまで来れば問題ないでしょう。

異世界消滅までにはどうにか間に合いそう。

「うわ降って来やがった! これはまずい」

降りると小雨がパラパラと。空はどんどん暗くなっていく。

風も強くなってきた。これは怪しくなってきました。

何だか嫌な感じ。この後のことを暗示しているかのよう。

おっと…… 女神様がこんなことでどうするのでしょう? 気を取り直して中へ。


加賀を伴い院内へ。

「ではそこにいてください。手続きを済ましてきますので」

受付に向かった彼をよそにロビーで一休み。

彼にすべて任せておけば大丈夫。ゆっくりしてましょう。


さあこれで心配事も終わる。あの愚か者が招いた消滅危機をどうにか乗り越えた。

それにしても妖精に留守を任せたが大丈夫だったでしょうか?

今回のことも元をただせばあの妖精のミスがあったから。

まだ一人で任させられない。いくら非常事態でも。


ふふふ…… でもきっと大丈夫。心配のし過ぎ。

戻って来るまでの短い間なら何も起こりはしないでしょう。

侵入者も転生者もいるはずがない。

待って…… ヒサンがいた。

彼が運悪く命を落とし転生することになれば始まりの地へ来ることに。

ですが彼は大人しいので問題ない。

どちらかと言えばこの女神様の不在を嗅ぎつけた者による脅威。

もう間もなく解決となるとどうしても余計なことを考えてしまう。

きっと大丈夫。始まりの地も異世界も現世もうまく行く。


突然怒鳴り声が。どうやら緊急事態らしい。困りましたね。

「いない? どう言うこと? 」

声の主は加賀だ。興奮して一人で騒いでいる。

ここは一旦落ち着かせなければなりません。

一体何をそんなに騒いでいるのでしょう? 

怒るようなタイプには見えなかったのですが。

どうも罪悪感からか早く解決しようと焦って感情的になっている。


「済みません。詳しいことは個人情報ですので」

受付がどうにか加賀を宥める。しかし納得が行かないようだ。

まずい。嫌な予感。

「だが俺は加害者で…… 一度謝罪を…… 」

「何を言ってるんですか? 意識不明でそもそも面会謝絶。

あなたは家族ではありませんよね? ではご遠慮ください」

受付では埒が明かないと院長を呼べと騒ぎ立てる。

これはまずい。トラブルを起こしても何の解決にもならない。


「何をしてるんですあなたは? 」

「いや…… いないって言うからどこに行ったか聞いたんだけど…… 」

しつこく粘れば根負けして教えてくれると言うがうまく行くはずがない。

「もういいから。代わって! どうにかしますから」

加賀は腰を下ろして後ろから見守ることに。

最初からこうすればよかった。


「あなたはどのようなご関係でしょうか? 」

「転生先での責任者。育ての親と言ったところです」

もうここまで来て隠す必要はないでしょう。不都合になれば記憶を消せばいい。

「はあふざけてますか? 」

「いえ女神様でして。現世の方を迷わないように温かく包み込みます」

「はあ…… お帰り下さい」

ダメみたい。どうしてこうなるのでしょう? もはやどうすることもできない。


「あの今日中にどうしても会いたいんですが」

無理を承知で一応は要求する。

「通常は無理です」

「通常は無理だと? では緊急事態では? 」

「うーん。それくらいでは…… 」

「だったら非常事態では? 」

「それでしたら恐らく。しかし焦ってるようには見えませんが」

こっちの動きを見て反論する小賢しい小娘。

おっと…… 女神様がこのような考えに囚われてはいけませんね。


「今まさに非常事態なのです! 」

「どの程度の? 」

一応は聞いてくれるので可能性はまだある。

「世界が消滅するほどの。早くしないと本当に消滅しますよ。もう時間がない!」

つい真実を語ってしまう。ただ世界と言っても異世界ですがこの際どちらでも。

細かいことは気にしない。さあこれでうまく行くでしょう。


「失礼しました。では責任者に繋ぎます」

こうして第一関門を突破。


「はいあなたは加害者の方? まさか止めを刺すつもりですか? 」

眼鏡を輝かせ冷静に質問。

「違う! 俺は一度お詫びに」

「はあそちらは? ああはいはい。では今メモを渡しますので」

こうしてついにあの愚か者の元へ。


急いで向かう。

だがたどり着いたのは昔病院であったであろう廃墟。

どうやら廃病院を紹介されたらしい。

やはりしつこかったのが仇になったのでしょう。


これからどうすればいいのか途方に暮れる。


                 続く

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