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犯人は現場に戻って来る

異世界・ザンチペンスタンの命運は三人に託された。

だが最悪なことに勇者・ノアはそのチャンスを自ら放棄。

アーノ姫に任せるも力及ばずにタイムアップ。

残るは魔王様のみ。果たして彼にすべてを任せていいものか?

異世界・ザンチペンスタンの消滅の瞬間が刻一刻と迫っている。

もう正直どうにもならない。最悪の展開。


始まりの地。

「無駄話をしてる時間はない。お客様がお越しになる前にきれいにしておくわよ」

「ハイ姉様! 」

こうして妖精と魔女とで大掃除開始。

ゴシゴシ

ゴシゴシ

無心で拭く。これで少しは気が紛れたかな?


「ほら急いで! 徹底的にきれいにするのよ」

「もう姉様ったら人使いが荒いんだから」

「いいから急いで! 時間が無くなるでしょう? 」

「はあ…… 女神様の代わりとは言えなぜこのようなことを? 」

「そこが終わったら次は入り口をきれいに。それが終わったら布団周りも」

「はいはい。分かりましたよ」

ちょうどいいお手伝いが見つかって満足。

それにしても女神様は今どうしておられるのでしょうか?



転落現場。

犯人は再び現場に現れると言うのがどうやら本当のようですね。

「おいクヨクヨするなよ。何もお前が…… これはただの閉じ忘れ。

重過失で民事はどうか知らないが刑事は問題ないさ。

書類送検か数年喰らうか執行猶予かだ。もう済んだこと。気を落とさずによ」

現場で号泣している男を発見。あの愚か者の家族でしょうか?

 

「済みません。あなたは被害者の関係者? 」

さすがに遺族とは聞き辛い。まだ辛うじて息があるのだから。

でも急がなければそれだって医師の確認が済めばお終い。

「はあ姉ちゃんは記者かい? 大事件だもんね。だがこいつは加害者の方だ」

二人組の冷静な方が答える。

どうやら彼らはこの付近で工事をしていた者なのでしょう。

未だに立ち上がれないでいるのは後悔かあるいは罪の意識に苛まれて。


仕方ありませんね。彼のために祈りを捧げましょう。

罪深き子羊よ。迷いの彼方より救われ給え。

こうして少しでも罪を軽くする。


「うん? 何だか心が安らいだ気がする」

「そうか。だが笑顔はまずいぞ。神妙にしてろ。さあ行こうか」

罪の意識に苛まれた者に笑顔が戻る。どうにか立ち直ったらしい。

うんうんそれでいいのです。大変喜ばしいこと。


「ちょっと…… 」

「何だまだいたのかよ姉ちゃん。取材ならお断りだって言ったろ? 」

「気が楽になったでしょう? すべてはこの女神様の聖なる力によるものです」

ついまたしてもたかが人間に正体を晒してしまった。

どうしてこう無警戒なのか自分でも不思議なぐらい。

次は必ず気をつけますからね。


「女神様? あなたが女神様で罪をお許しになられたと? 」

加害者の男は素直に話を聞き感謝の言葉を述べる。

「はい。あなたはもっと気を休めたいとは思いませんか? 」

「お願いします! どうぞこの苦しみから解き放ってください! 」

加害者は堪らずに土下座をする。

まさかそこまでしてもらうとは思いもしませんでした。

ですがその気持ちに応えるのが女神様の役目でしょう。

「おいあんたいい加減なこと言うなよ! 」

仲間が訝しがる。まあいきなり現れてこれでは確かに信じてもらえない。

それは充分承知しています。ですからあえて奇跡をお見せした。

彼らには協力してもらいたい。


「それでどうしてくれるって? 」

仲間の方は冷静な分だけ面倒臭い。なぜ女神様が騙さなくてはいけないのです?

女神様を疑うなどあってはならないこと。

「まずは深呼吸。そしてこの壺を供えるのです」

「やっぱり怪しい物売りじゃねえか! ホラ行くぞ。相手にするな! 」

「でも女神様が…… 」

「そんな奴を当てにするな! 取材でなく勧誘だ」

「でも俺を救ってくれた女神様…… 」


ため息を一つ吐く。

「いいのですか? あなたを救おうとする者を無視してよろしいのですか? 」

男がこれ以上いいと言うなら従うしかない。

「女神様! この愚か者をお救いください! 」

どうやら根は真面目らしい。マンホールを閉じ忘れたのにはきっと訳が。

ですが今更遅い気も。それと一つ気になることが。

ケイジが連れていたあの男は一体?

「ああ責任者だ。ショックで使い物にならないから代わりに話をしに行ったんだ。

結局のところマンホールの閉じ忘れは現場責任者の見落としだからな。

確認を怠ったのが落下事故に繋がったから。こいつはうっかり閉じ忘れたのさ」

付き添いの話を聞いてようやく理解できた。


「では一つ教えてくれませんか。被害者はどこに? 」

「病院に」

「それは当たり前。どこの病院にいるかを聞いてるんです」

イライラしてはいけない。女神様はいつも微笑んでなくてはなりません。

大丈夫。この方は間抜けでも愚か者でもないはず。

ただちょっとフタを閉じ忘れたドジなだけ。

ダメだ。どんなによく見せようとしてもお間抜けで愚かなのは否定できない。


「近くの病院に…… 」

「どこかを聞いてるのです! 何病院ですか? 」

さあ早く答えて! 急いで! そうしなければ助かるものも助からない。

「でしたらこのパンフレットを」

病院名が大きく書かれている。

この付近最大の病院で緊急も対応してるそう。


「ではさっそく」

「待ってください! 俺もついて行きます」

男はショックから立ち直り自分を取り戻した。

「俺は加賀って言います。この付近で工事をしてました。

あっちは仲良くしてくれている先輩で」

無口に思われた彼も正気を取り戻しいろいろ説明してくれた。


「なぜマンホールを閉め忘れたの? 」

率直に聞く。どうしても理解できないから。

やはり間抜けや愚か者とはちょっと違う気が…… ただの願望でしょうか?

「それは向かいながら。時間がないんですよね? 」

そう言ってタクシーなる乗り物に。


もう大丈夫。これで愚か者一号さんを死の淵から生還させられる。


                続く

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