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恐怖の魔王様

現世・仲町。

社長にも面会を求めるも身分のはっきりしない者には会わないと頑なだ。

女神様は女神様なんですけどね。これ以上はっきりしたものはないはず。

端から会うつもりがないのでしょう。女神様も舐められたものです。

おっと下品だったでしょうか? つい下界にいると穢れて行く気がします。


「悪いね。そう言う訳だから帰ってくれないか? 」

粘ってはみたが社長との面会は叶わなかった。

まあいいでしょう。急いで愚か者が担ぎ込まれた病院を探る。

この近くには個人や小さな病院を含め複数ある。

片っ端から当たるしかなさそうですが時間は有限。

これ以上のロスは致命傷となる。


それでは一軒目から。

「うちにはそんなお客さんいないね。こう言うのは大きな総合病院だろう。

個人では無理。たぶんこの辺だと三か所該当するかな。ああ待ってくれ…… 」

メモを渡される。これで間違えることも迷うこともないでしょう。

これは幸先がいい。親切な方のご厚意によりついに三つまで絞られた。

もう迷ってる暇はありません。急いで愚か者が入院している病院へ。


タクシーを使ったとは言えいつもほとんど動かない女神様が朝からずっと。

もうさすがに疲れました。女神様も限界です。

早いところ愚か者を探し出さなければこちらが参ってしまう。


異世界・ザンチペンスタン。

最後の三日間の三日目。魔王様のターン。

ついに魔王様の天下。果たしてアーノ姫との約束を守るでしょうか?


「あははは! 前祝いだ! 飲むがいい! 食うがいい! 」

モンスターを集結させると自然と魔王様万歳が起こる。

ははは! 愉快愉快。もはや魔王様に楯突く者はいない。

これでいい! これでいいのだ!

笑いが止まらない。ここまでうまく行ったのはあの情けない勇者のお陰。

アーノ姫も相当抜けている。お嬢様だから世間知らずなのだろう。

交渉術ではこの魔王様に敵う者はいない。


昼時。最期の晩餐の準備があると言うのにご馳走を食べ酒を喰らう。

パンを食いちぎって肉をかぶりつくと酒をそのまま腹に流し込む。

豪勢にワイルドに行く。それが魔王様。絶対的支配者の魔王様だ。

元気で力強いところを見せてモンスター共を安心させる。

これでいい。すべてはこの日のためにやって来たのだ。

羽目を外しても何の文句もないだろう。

 

ふう…… 祝いの美酒は格別だ。

この日のために年代物のワインまで用意した。

うん芳醇な香り。これはますます食欲が増進する。それと共に……

しかし飲みすぎかもしれんな。少々酔ったようだ。

どうなろうと魔王様の天下には変わりない。

だが酔いつぶれては情けない。モンスターの士気にも関わってくるからな。


「よいかお前たち。明日には魔王様の天下だ。誰にも邪魔はさせん! 」

パチンと手を叩く。

「そこでだ。一言ずつ意気込みを語ってもらおう」

少々酔ったかな。余計なことだと思わなくもない。

一言でシーンと静まり返る。

「おいおいもっと盛り上がらんか! ただ好きに語れと言っているのだ」

「そうですか…… 」

警戒してか一番最初にやろうとしない。まったく情けない奴らだ。


「もうあのような情けない国王を恐れる必要はありません! 」

最近頭角を現してきたフーツ。無難に収めようとする。

「ああん? いつ魔王様が国王如きを恐れた? 無礼を申すでない! 」

喧嘩を売られてるようで気分がよくない。まったく何を考えてるんだ?

せっかくの酒が不味くなるではないか。


「申し訳ございません! やり直しさせてもらいます」

反省してるようなので許すとしよう。何と言っても今日はめでたい日なのだから。

「苦難の日々を乗り越えついに天下をお取りに…… 」

嘘泣きで感動演出。これで叱られることはないだろうと高を括っている。

だが気に喰わない。どうも魔王様を舐めているような気がしてならない。


「馬鹿者! 苦難の日々などあるものか! 常に魔王様は道が開けているわ!

情けないことばかり言いおって! この魔王様を舐めているのか? 」

フーツは謝罪するももう許してはならない。

「めでたいが限度がある。今日からお前はクマルの下で働いてもらう」

優秀な若手だったフーツの運命は最後の最後によって決せられる。

あのクマルの下に行けば失敗は付きもの。

二度と這い上がれない過酷な罰。そんな風に思ってもおかしくない。


「よし次! 」

「おお魔王様! 何と素晴らしい! 」

「我らが魔王様! もはや敵なし。いえ敵などいるはずがないのです! 」

「完全な支配者様! どうぞそのままで! 」

フーツが失敗したばかりに無難なことしか言わなくなった。

まったく情けない奴らだ。つまらん。

クマルの下に付くぐらいどうと言うことはないだろう。

気にせずにもっと自由にとは無理な注文か。


「もうよい。ではそれぞれ最後の仕事に取り掛かってくれ」

「ははあ! 」

こうして最後の晩餐の準備を始めた手下ども。


「しかし魔王様も人が悪い。試すんだからよ」

「そうだよな。俺なんかちびったぜ」

「おいサボるな。忙しいんだからよ。ホラそっちを持て! 」

モンスターバーガーが運ばれる。

「魔王様の大好物だから大事に運べよ」

「ちょっとぐらい大丈夫でしょう? 不死身なんですから」

「そうだな。ははは! 」

最近の腑抜けた魔王様に慣れたせいで皆気が緩んでいる。


「おいお前! 消滅させられるぞ」

「へへへ…… 」

「ボグ―! 」

「うわ…… 申し訳ありません魔王様! 」

相手を見もせずに土下座をしようとするので仲間が止めに入る。

「おい魔王様じゃないぜ」

「やりやがったな! 」

「うるさい! いつまでやっている! 」

「だって…… 」

「いいから。早く運び入れちまうぞ。晩餐会までに間に合わない」


こうして最後の晩餐の用意も完了。

さっそくゲストの二名を招き入れるとしよう。


                   続く

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