真実の炎
クマルの処分は難しい。
命令に背いたものや失敗したものには罰を与える決まり。
だが果たしてクマルは失敗しただろうか?
天性の間抜けぶりを発揮し見事に失敗してくれた。
この魔王様の思惑通りに動いてくれた。
罰を与えるどころか逆に褒め称えられるべきだ。
しかしそれができないから魔王様は辛い。
「魔王様…… お許しを! どうかお許しを! 」
もう泣き言の情けないクマル。こいつのためにも厳しく接すのが優しさかな?
「ああん? そう言って何匹のモンスターが消え去ったと思う?
許せだと? お前はこの魔王様を舐めてるのか! 」
「いえ滅相もございません。最後までついていきますぜ魔王様! 」
「うむ。その言葉が聞きたかったんだ。では次からは気をつけるんだぞ」
「ええっ? お許しになられるんで? 」
あっさり許されて拍子抜けするクマル。
「驚くことないだろ? お前はよくやってくれた。これからもその調子で頼むぞ」
ようやくお礼が言えた。こいつでなくカンペ―キだったら危なかったからな。
成功率ほぼ百パーセントのカンペ―キではアーノ姫を連れてきてしまう。
しかしクマルなら安心して任せられる。失敗するために生まれてきたようなもの。
大げさに言えば成功率ゼロパーセントだからな。
「ではこの火は何でしょうか? 」
燃え盛る炎。己の真の姿が浮かび上がるはずだ。
「よく見よ。それが今のお前だ。情けないとは思わないか? 」
「へい! 魔王様に恥じないように頑張ります! 」
何かを感じ取ったのか。またはいつもの無駄な考えなのか。
できれば後者であって欲しい。
「ふふふ…… 魔王様の真の姿も見るがよい。それは実に恐ろしいぞ」
何と言っても勇者と姫と魔王様。ついでに転生前の自分が混じっているのだから。
これこそが混ぜるな危険ってやつだ。
「いえこのクマルにはまだ早いかと。遠慮します」
賢明な判断のクマル。意外にも鼻が利く。
だとすればなぜここまで失敗する? やはり天性のものなのか?
「そうか。ではお前に挽回のチャンスをやろう」
「へへい! ありがたき幸せ! 」
「おい待て! 」
跪こうとするので必死に止める。
火のついた棒を持っていることを忘れてはならない。
大惨事になったら魔王様だってただでは済まないのだから。
ファイヤーに弱いのが魔王軍。
「アーノ姫を連れてきて欲しい。もう失敗は許されないぞ! 分かったな? 」
一応はくぎを刺す。たぶん奴には意味はないだろうが。どうせまた失敗する。
ヘタに心を入れ替えられて臨まれても困る。
クマルが失敗してくれるから危機は回避できる訳で。本当に貴重な存在だ。
表彰ものだぜクマル。
「しかし魔王様。一体どこにいるのやら皆目見当がつきません」
「だったらその魔法使いの婆さんにでも頼め。きっと示してくるさ。
いいか間違っても脅すなよ? スマートに行くんだ。スマートに。
お前も頭を使え。いいな? できるな? 」
「ヘイ魔王様。あれ…… 魔女が婆さんだと言いましたっけ? 」
つまらないことに拘るクマル。意外にも冷静で頭の回転が速い。
しかし魔王様に口答えするとはいい度胸だ。
失敗して追い詰められているのを忘れてないか?
「お前ちっとも反省してないな? 」
「いえふと気になったもので…… 」
「だが普通に考えれば魔女と言ったら老女だろ? 」
「その考えは古いですぜ魔王様。今の主流は小さな女の子でしょう? 」
こいつ何の話をしてやがる? 魔王様を爺扱いしやっがて。処刑するぞ!
「どっちでもいい! お前は余計なことを考えるな! 」
「ですが魔王様…… 」
「もういい! 早く捕まえてこい! 」
「仕方ないな魔王様は…… 」
舐めた態度のクマル。この魔王様の慈悲がなければ黒焦げになっていたんだぞ。
まったく本当にどうしようもない奴だな。知ってたけど。
「それでこの火はどうしましょう? 」
「好きにしろ! それからアーノ姫は何かと我がままだから丁重に扱って欲しい。
分かったな? 」
こうしてクマルをどうにか再び姫強奪作戦の指揮を執らせることに。
ここで黙ってないのがライバルのカンペ―キ。
二人は互いにライバル視して切磋琢磨してきた仲だと言う。
ならこいつも恐れるに足らずかな?
だが慎重にも慎重に。余計なことをされては敵わない。
「魔王様どうか次の指揮を! 」
懇願する真面目で優秀な配下。
「お前には最後の戦いの指揮を執ってもらいたい」
明らかにクマルよりも重要な作戦。その指揮を任せるのだからやる気も出るはず。
さあ魔王様のために尽くすがよい。
「ははあ! ありがたき幸せ! それでどのような作戦でしょうか? 」
「少し待て。それは次の機会だ。これは姫強奪作戦が成功してからの話だからな」
「はい。心得ております」
うん。素直で真面目で優秀で本当に助かるよ。
ただこれだけ優秀な奴は邪魔になる。今のところクマルがいるから問題ないが。
「カンペ―キ! すべてはお前に掛かっている」
「ははあ! お任せください。このカンペ―キ命に代えても! 」
そこまでされるとこっちとしてはやりにくい。
どうせこの作戦はクマルが失敗し続けるのだから。
こうして新たな命令を下す。
ふう疲れたな。そろそろ横になるとしよう。
どうやら本当に眠り病に罹ったらしい。
続く




