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新世界・スクイーラ

始まりの地。

現世から転生者を異世界に送る場所。

転生者にとって異世界に行くためにある始まりの地でもある。

そんな彼ら転生者がここでタブーとされているのは夢をみること。


勝手に布団に入り勝手に寝て勝手に夢を見る。

普通の常識ある者は決してしない。我慢して待つのが大人のマナーだから。

しかし稀に…… 極稀にタブーを犯す者がいる。

それが愚か者。彼らは悪気があってやってるのではなくただ無意識に。

それだけに始末が悪い。常に側にいて監視すればいいがそうも行かない。

もし運悪く夢を見れば異世界はあっという間に消滅。

しかも当然報告などせず放っておく。すると知らないうちに消滅の憂き目にあう。

悲惨な結末を迎えることになる。


それを防止する為に夢を見たら色を失うようにしてある。

カードを見ることで一瞬で判別できるようにと。

だからこの愚か者三号が三回とも白だと答えたのは色を失ったから。

自然なこと。要するに夢を見たことになる。

隠そうとしても隠し切れない事実。


「冗談はそれくらいで。あなたは夢を見た。本当に覚えてませんか? 」

「それがまったく。大した夢ではないのかと」

「そうね。どうやら忘れたみたいだから問題ないでしょう」

異世界に転生するのだから当然どのキャラクターになったのか覚えてる。

それを忘れたとなれば危険度が下がったことに。

絶対に覚えてるのが当然で。嫌でも記憶に残る。

勇者なら勇者。姫なら姫。魔王様なら魔王様と。

だからヒサンは夢を一度見たのだろうがそれでも大した夢ではなかった。


「では転生先をお選びください」

女神様が戻って来るまで待つ手もあるが未遂に終わったとは言え何をするか。

この地に置いておけばまたいつかとんでもないことを仕出かす恐れもある。

若干不安ではあるがここは急いでヒサンを異世界に送るべきでしょう。

危険な兆候を見逃して異世界消滅されては堪りません。


「選ぶの? 」

困惑した表情を浮かべるヒサン。しかしこれも彼の為。

本来だったら迷わずに異世界・ザンチペンスタンへ転生させただろう。

しかし現在ザンチペンスタンは消滅の危機に直面している。

愚か者一号の招いた失態を愚か者三号に押しつけていいのか?

それが悩みどころ。だから選ばせた。ただの思いつきではない。


「実は今転生先の異世界が混乱していまして急遽選択制となりました。

あと約一日で消滅するザンチペンスタンと新世界・スクイーラの二択でございます」

女神様の手の届く範囲の世界。

「ザンチペンスタンって選べるの? 」

「はい。奇跡が起きれば消滅から免れます。それも一号に掛かっています」

まあどうせ無理でしょうけど。

勧めることはしない。ただ選べると言うだけ。


「無理だ! 選択肢などない! 」

ヒサンは気づいたらしい。スクイーラ一択だと。

しかしあちらにもそれなりの問題がある。それは行ってからのお楽しみ。

ここで伝えるのは無粋。

愚か者が混乱に陥れるまでザンチペンスタンは人とモンスターが共存する理想郷。


「では新世界・スクイーラでよろしいですね? 」

最終確認。

「うん…… スクイーラでお願い」

「ちなみに転生元はネズミとなっております」

「ネズミ? 人間じゃないの? 」

「ご心配なく。ネズミですがきちんと喋れますので。知能だって相当なものです」

「そう言う問題じゃないんだけどな…… まあいいか」

いい加減なヒサン。どうやらまだ納得が行ってないのか消極的。


「ちなみに異世界・ザンチペンスタンでは王子に転生します」

「うわ! そっちがいい…… 訳ないか。一日だもんな。うーん悩むな」

「今なら変更も可能です。ちなみにスクイーラでは王になれます。ネズミですが」

王子とネズミの王。天と地ほどの開き。ただ片方は消滅の危機に瀕した世界。

第三の選択肢でもあれば別だが今のところ用意されてない。


「仕方ない。新世界・スクイーラでお願いします」

女神様なしでの転生の儀式は危険を伴いますがいつ戻って来るとも分かりません。

急いで送り込むのがいいでしょう。


こうしてヒサンは新世界・スクイーラに旅立った。

果たしてこの選択が本当に正しかったのか誰にも分らない。

その答えが分かるのは明日以降。

さあ願うのです。祝うのです。

ヒサンに祝福を!

 

ではそろそろ私もおやすみしますかね。

始まりの地は静けさに包まれた。


その頃女神様はついに仲町へ足を踏み入れた。

「ここでいいのか? 」

交番での聞き取りを終え仲町へと向かう。

「君はまさかあのマンホール転落事故の関係者? 」

根掘り葉掘り聞く。


「それは…… 無関係では決してありません」

「うん? 家族ではないと? 」

「はい。女神様ですから」

「はいはい女神様」

オマワリサンは面倒だとばかりに適当に頷く。

「彼とは数奇な運命があり彼によって迷惑を掛けられました」

「どう言うことだい? 」


正直に話してみる。

「実はマンホールから落ちた後異世界へ。

この女神様があっけない最期を可哀想に思って異世界へ誘ったのです」

つい喋り過ぎてしまった。しかし女神様ですからなるべく嘘はつきたくない。

正直にすべてを告白するのがいいでしょう。


「そうか。設定が細かいね。

だとすると興味本位で現場に行こうとしてるとそう言う訳だね」

オマワリサンはちっとも理解しようとしてくれない。

これ以上いくら訴えかけても無駄のよう。

「あの…… ここまででよろしいですよ。後は勝手にしますので」

「いやいやそうもいかんのよ。現場を荒そうとしてる者を放っては置けない」


こうしてオマワリサンの後ろについて事故現場へ。


                 続く

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