善行と悪行
始まりの地。
女神様の代理として留守番中の妖精の元にヒサンがやって来た。
彼には女神様をお救いなさった功績がある。
褒め称えたのはあくまで現世での善行によるもの。
ただここでの行動は決して褒められたものではない。
そして恐らくまだ隠していることがあるはず。
または無意識でしてしまっていることがある。
それを暴き出しヒサンにつきつける。
決して楽しいことではありませんがとても大事なこと。
「あなたは言いつけを守らずに布団で寝ましたね? 」
「それは確かに…… 」
「なぜそのような愚かな真似を? あれほど注意したでしょう? 」
「つい何となく」
愚か者三号はついに己の罪を認めた。
「ふざけないで! どれほどの人が迷惑を被るか分かってるの? 」
ネチネチ追及しようとしたがつい興奮して大声を出してしまう。
ああどうしても慈悲深い女神様のようには行かない。
怒りに任せ叱りつけてしまう。これではいけない。反省を促すべきなのに。
「五人ぐらいかな」
「適当でしょう? 」
そう言われては愚か者三号は黙ってしまう。
「異世界の者すべてに迷惑が掛かるの。分かった? 」
「嘘だろ…… つい軽い気持ちで寝ただけなのに。
そんなとんでもない事態になるなんて」
後悔してるらしい。これで少しは己の愚行を改めることでしょう。
「まさか夢なんか見てないわよね? 」
大事なのは勝手に寝ないこと。就寝しないこと。
それ以上に優先されるのが夢をみない。
夢さえ見なければ異世界が消滅する事はない。また一つだけならギリギリセーフ。
異世界転生の儀式の前に勝手に済ませば女神様の仕事をとることになる。
それは決してやってはいけない。ただそれでも最悪まだ許される。
「うーん夢か…… 覚えてない。たぶん見てないと思う」
どうも信用ならないですがこれでどうにかなった。
再び異世界・ザンチペンスタンが消滅する危機から脱した。
危ないところだった。
「では確認です。これは何色に見える? 」
赤から順番に三色のカードを見せる。
「白です」
ヒサンは迷うことなく即答。
「本当に? それで間違いありませんね? 」
「ははは…… どう考えても白でしょう? 白以外ありえない」
「では続いては何色かな? 」
今度は黄色を示す。
まるで子供を相手にするように優しく。緊張されると色でさえ見失うから。
「ははは…… その手には引っ掛からないさ。白だ! 」
何の迷いもなく再び白と答える。同じ色だと疑わない。そうでしょうね。
楽で簡単な質問だからのびのび答える。
それは当然そうなんですが…… これが確認でありテストだと分らないかな?
「ほら妖精さん。最後は何色ですか? ははは…… 」
つまらないことをやらせてと思っているのだろう。
余裕をこいてるようだがそれほど甘くない。
本当にバカなんだから。ほぼ確定ですが最後に緑のカード。
だがなぜか答えてくれない。
いい加減に違う色にしてくれよとため息を吐く愚か者。
「ハイ終了。では結果を発表します」
「おお? それでそれで? 」
目を輝かす愚か者。しかし思うような結果になったかと言えばそれは違う。
「その前に最終確認です。前世では目の状態はいかがでしたか? 」
「ああ問題ないよ。目はいい方だと」
「では…… それを踏まえての結果です」
「おいおい早くしてくれよ。こんなテストで何が分かるんだよ? 」
ヒサンはまだ己を信じているようだ。哀れな人間。
「失格! あなたは愚か者三号です。ではお仕置きに追加のビンタをどうぞ」
力を込めて一発。それでは足りないのでもう一発。
「ちょっとどう言うことだよ? 僕は善行してここに来たんじゃないの? 」
傷ついたヒサンが訴える。
「善行を帳消しにするほどの悪行を働いたのです」
「ええっ? 僕まだ何もしてないけど」
まだ言い逃れようとする最近流行りの自覚無い系。
平凡で優しい者だとばかり。甘やかされて育ったのか言うことを聞かない。
「文句言わない! 寝たでしょう? 夢を見たでしょう? 」
「それは…… 何となく…… 」
どうやら興味が勝ったらしい。
どうしてこの愚か者どもは危険性を無視して冒険しようとする訳?
とても信じられない。誰か一人ぐらい大人しく待ってられないの?
「あなたは寝てしまい夢まで見た。だから色が見えないんです」
明らかになった真実を伝える。
「うそ…… ずっと? 」
「いえ…… 異世界に行けば戻ります。
いいですか? まだいいと言われる前に寝てはいけません。
無意識に夢を見てしまうのです」
こんなこともなぜ理解できない? 睡眠不足の一号とは訳が違うだろうに。
「いやその…… つい出来心で」
また下手な言い訳。出来心だと言えば罪が軽くなると思っている節がある。
「本当ですか? 」
「いえストレスで…… 」
「ストレス? 」
「違った。お酒の勢いで」
「ああん? 」
「冗談。むしゃくしゃしてつい…… 」
「ふざけんな! 」
ヒサンは悲惨な目に遭う。ヒサンなだけに。
「いいですか。ルールを守らないと異世界に迷惑を掛けるんですよ」
「どんな風に? 」
「下手すれば消滅します。二つ前のお客様はそうして世界を引っ掻き回した。
そのせいで間もなく消滅するところです。あなたの大先輩の愚か者一号です」
「うわヒサン…… ちなみにボクは何号? 」
「十八号」
「そんなにかわいいの? 妖精さんの方が似合いますよ」
「ふふふ…… お世辞はいい」
「だって怖いですから」
「冗談はそれくらいで三号。ぶち殺すわよ! 三号って言ってるでしょう? 」
あらあらつい下品な言葉が出でしまう。
やはり慈悲深い女神様の代理はできませんね。
続く




