表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

186/205

ヒサン転生! 悲惨な過去を持つ男

現在異世界・ザンチペンスタンは大変なことに。

最期の三日間を迎えているのだ。

もしここで勇者・ノアが失敗したらとんでもないことになる。

そうなった場合最後の希望はアーノ姫のみになってしまう。

まさか魔王様のターンで自らが犠牲になるはずもなく滅亡一直線。

女神様不在の今私ではどうしてあげることもできない。

ふふふ…… 同じか。どの道祈りながら見守るしかない。


「はい。戻って来ましたよ。大人しく…… 」

男の姿がない。これはまさか? 嫌な予感しかない。

掛け布団が不自然に盛り上がっている。

どうやら全被りスタイルらしい。足を出さないと蒸れるでしょう?

それに息はできてる訳? バカバカしい。そんな心配してやる必要ないか。

思いっきり剥がしにかかる。


「きゃああ! 」

やっぱり布団に隠れて人がいるのが結局のところ一番怖い。

「おおおお! 」

叫び声を上げ腰を抜かすかのような演技?

オーバーリアクションもここまで来ればふざけてるようにしか見えない。

何なのこの人?


「あんたが寝てるから悪いんでしょう! 違うの?

まったく少しはこっちの身にもなりなさいよね」

もう彼は女神様を救ったヒーローでも何でもない。

単なる愚か者だ。彼を愚か者三号としよう。

ふふふ…… 懐かしい。こんな風に叱ったな。

どうしてるかなあの愚か者一号さん。


異世界の様子を探る。

勇者・ノアはアーノ姫にすべてを託しノアのターンを無駄に終える。

うわ…… まったくこいつは何なの?

魔剣を手にしてるくせに怖気づくんだから。

どうしてアーノ姫に任せずに自分でやろうとしないの? 信じられない。


現在ノアのターンを終えアーノ姫のターンに移った。

このまま一日が過ぎれば魔王様のターンに。

本当に頭が痛い。さすがは愚か者一号さん。

現在女神様は現世にいるので助言も得れない。


現世とこことでは時間の流れが異なる。

当然現世と異世界・ザンチペンスタンとも異なっている。

二つの世界を見ながらだと何だかとてもおかしな感覚。

おっとこんなことしてられません。愚か者三号さんの世話をしなければ。


放っておいた愚か者三号さんを睨みつける。

案の定布団で寝ていた。お仕置きは免れない。それでいいと思っている。

歴代の愚か者は勝手に寝て夢を見てザンチペンスタンを混乱させた。

苦い記憶がある。それで私たちがどれだけ苦労したか。

前回お越しになった方は結局転生者ではなかったので数に入れない。


彼らに共通なのは人の話をまったく聞かずに勝手に寝てしまうこと。

それで気持ちよくなって夢を見る。

それでも一度ならまだ許せる。どうせ転生の儀式では夢を見る必要があるから。

しかし二度も三度もとなると話が変わる。罪には罰が与えられる。


ただ今回はまだ夢を見ていなかったので厳重注意の往復ビンタで済ます。

バチンバチンと力一杯張る。

「痛いっす…… 」

「我慢しなさい! ボコボコにされても文句言えないんだから」

「へーい」


「それではあなたのお名前は? 」

情報カードと照らし合わせる。

「名前? うーんイマイチ覚えてないんだよな」

不安だと俯いてしまう。

「ハイ心配しないでね。誰もがそうだからね」

始まりの地に召喚される者のほとんどが名前なり記憶なりを失っている。


「ヒサン。あなたはヒサンさんです。どう覚えがない? 」

ここから根気強く寄り添うのが私たちの役割。

でも私は女神様のように慈悲深くもなく我慢できるタイプでもない。

「ヒサン…… うーんそうだったような違ったような…… 」

自信がないそう。どうもひ弱で落ち込みやすい情けないタイプ。

現世では幸が薄かったに違いありません。


「あなたがなぜここに召喚されたかは? 」

一部始終は見たのでもう充分。

ですが彼がふとしたきっかけで現世の記憶を思い出すかもしれない。

その方がこちらにとっては何かと都合がいい。

「うーん。さあ? 」

すぐに諦めて答えを聞き出そうとする悪い癖。少しは考えなさいよね。


「あなたは人助けの善行で徳を積んだ。そのせいで亡くなりもした」

最期を覚えてないか尋ねるが首を振るのみ。

「あなたはある人を助けたのです」

「うんうん思いだした。あの羽衣盗みの女性か」

どうやら最期を思い出したらしい。


「女神様よ。あなたは知らず知らずのうちに女神様をお救いになったのです。

改めてこの女神様の代理である私からお礼を言わせてください。

ありがとう。あなたの行為は大変立派なものです。

何一つ恥じらうものではありません」

「ええ…… あれが女神様? てっきり貧しい人かと」

「はい。ですからその功績により異世界へ転生を認められました」


さあようやくここから。褒め称えたのはあくまで現世での善行によるもの。

ですがここでの行動は褒められたものではない。むしろ最低最悪だ。

愚か者に相応しい振る舞い。往復ビンタでは済まさない。

ネチネチと追い詰めるとしましょう。


だが愚か者三号さんはなぜか自分語りを始めてしまう。

「うちは貧しくて子供時代から悲惨な生活を送っていたんです。

そんなある時…… 年の離れた長男のギタンが都会に行ってスターに。

これで我が家も安泰かと思いきや不倫でスキャンダルと悪いことが重なる。

終いにはブスっとあっと言う間に。

次男のヒマンも兄に倣うように都会へ。

日頃の不摂生と食べ過ぎと体重増加とによる破裂でコロッと。

そして自分まで…… 悲惨な最後を遂げてしまった。

これが自分にかけられた呪いだと運命だと諦めました。

まさか転生させてもらえるなんて夢にも思いませんでした」

そう言って自分語りをやめると泣き出した悲惨な運命のヒサン。

まさかふざけてる? そんなはずありませんよね?


「ホラ落ち込まず。急いで転生を済ませてしまいましょう」

若干ふざけてるようにも思えるがこれが彼が歩んだ人生。

さあ女神様の代わりに転生のお手伝いをしましょうか?

でも待って。女神様なくして私だけで転生させられるの?

それにザンチペンスタンはもうすぐ消滅するかもしれない。

ここはもう少し待つべきでしょうか?


                続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ