オマワリサン
現在交番で事情聴取中。
親切な方だと思っていたのに裏切られた。
まさか女神様を家出少女と勘違いしたのでしょうか?
男の特徴を事細かに伝え似顔絵作成まで協力する。
「ご協力感謝します」
そう言って頭を下げられたら悪い気持ちはしない。
うーん。困ったな。こっちは急いでるんですけど。
未遂に終わったのでこれと言った被害はない。
男など放っておいて仲町への行き方を教えてもらえるとありがたいのですが。
女神様が警察のお世話になるとは何て情けないのでしょう。
妖精に話せばきっと笑われてしまう。
女神様ったら冗談ばかりと決して信じようとしないはず。
現世へ降臨した女神様がまるで小娘のような扱い。
それにしてもまさかあの変な男に騙されるだなんて見る目がない。
どうやら間違っていた。女神様が間違っていた。
何たる屈辱。これは一大事。果してこの屈辱に耐えられるでしょうか?
「住所は? 」
「住所って? 」
詳しくは知らないので質問で返す。
交番にはあと一人ベテランのオマワリサンが。
目つきも鋭く厳しい。まるで監視しているようで気分が悪い。
いくら気づかないとしても仮にも女神様ですよ?
敬うべき存在。疑うなど失礼にもほどがある。
「分らないのか…… いつもどこに? 」
「はい。上に。あなた方を見守っています」
住所も身分も明かせないので正直に答えようと心掛けている。
でも中々信じてもらえない。それが悲しい。
「はあまあいいや。それで年はいくつ? 」
困惑してる様子が見てとれる。
「さあ? 数えたことがないので」
「ウソ言っちゃ困るよ。高校生? 大学生? 」
「うーん…… 」
分からない。現世は分からないことだらけ。
現世に降臨して若返り過ぎたらしい。
「名前。名前だったら言えるよね? 」
「女神様です! 」
さすがにそれは分かる。自信を持って答える。
「だから上で見守ってると…… 面白い設定だ。でも大人をからかっちゃだめだ」
若干怒り気味。なぜでしょう? 微笑みを分け与えましょうか?
「ハンドルネームはいいから本名を教えてよ」
「女神様です。そもそも本名などありません。」
「ああ迷える子羊たちよとかって言うあれだろ。危ないよ君」
「迷える子羊たちよ祝福あれ! 」
「おおポーズまで決めて格好いいね。さあ悪ふざけはもういいだろう」
どうやら本気でこの女神様を疑っているらしい。心外。
どうしたら信じてもらえるのだろう?
所詮人間ではそこまで。致し方ないのかな?
「あの…… 仲町に行きたいんですが」
思い切って相談することに。
「どうして? あそこは今危険だよ。マンホールのフタが外れるかもしれないよ」
オマワリサンはあの愚か者の件を知っている。そうに違いない。
「ちょっとそれってどこ? 」
つい胸ぐらを掴んで激しく問い詰めてしまう。
もう時間がないんです。ここでのんびりしてはいられません。
愚か者を救わなければこの世界に来た意味がない。
タイムリミットは刻々と迫ってきている。
「おいどうしたんだよ女神様? 」
どうやらようやく理解してくれたよう。さあ大人しく協力してね。
「そのマンホールの現場に連れて行って。何か思い出すかもしれない」
いつの間にか記憶喪失少女を演じることに。
「よし事件性も考えて協力して…… 」
オマワリサンは先輩の目を気にする。
「あの…… この子のお世話を」
「そうだな。ここにいても調書も作成できない。うっとうしいから協力してやれ」
「はい。さあ行くぞ女神様」
こうして女神様はついに仲町へ入る。
恐らく現場のマンホール。
問題はここから。
その頃始まりの地。
ふう疲れた。それにしてもあの化け物は何者だったの?
もう二度と会いたくない。せめて女神様が戻って来るまではトラブルを避けたい。
それが偽らざる気持ち。これ以上はごめんです。
うん誰か来る。
ついに現世からお客様がやって来た。
「あの…… 僕…… 」
情けなさそうなお客様。どうやら扱いやすいのが来た。
「ようこそ。私は妖精。女神様の使いでございます。
現在女神様不在のためこの妖精がお相手致します」
最初が肝心。怖がられてもダメだし舐められてもダメ。
「それであなたは? 」
自己紹介してもらう。
「僕はどこにでもいる男ですよ」
従順そうな男。愚か者とは違って言うことをきちんと守るタイプ。
「ではあなたには異世界に行ってもらいます」
「はあ異世界? どんなところなんですか妖精さん」
どうも心配でたまらないと言った感じ。
ここは優しく誘ってあげましょうね。
「それは行ってからのお楽しみです」
これは基本中の基本。すべて教えるバカは基本いない。
「何だかすごく不安で。そうすると僕は眠くなるんです」
うわ…… おかしな奴。愚か者の可能性がある。ここは慎重に行きますか。
「ではこれを。ウエルカムドリンクとなっております」
疲れが取れて眠気も収まる優れもの。
一杯飲ませておけばいい。
しまった。名前を確認するのを忘れた。
まずは情報カードをって…… 取って来なくては。
「少々失礼します。十分ほど外しますのでじっとしていてくださいね」
「はい。それはもちろん」
「絶対にその布団には近づかないでくださいね。絶対ですよ? 」
「分かりました」
男はウエルカムドリンクを飲んですっきりしてる。十分ぐらいどうってことない。
「絶対ですよ? 呪われますよ! 」
「はい」
念を押して急いで取りに行く。
何ごともなければいいのですが。
続く




