ヒサンの末路
ヒサンの家。
現在親切な村の方に匿ってもらっている。
ただもう持たない。残念ながら囲まれている気配がします。
間もなく襲撃されることでしょう。合図があればすぐにでも。
ドンドン
ドンドン
「開けろ! そこに逃げ込んだのはお見通しなんだよ! 」
どうやら居留守は無理そう。さあどう時間稼ぎするのでしょうか?
ヒサンのお手並み拝見と行きますか。期待はさほどしてませんが。
追い詰められた女神様。
絶体絶命のピンチ。ですが女神様だから問題ない?
「おい小僧! 盗人を隠すとためにならないぞ! お前も同罪だからな! 」
そうやって脅して無理やり開けさせようと迫る。
「どうしました騒がしいな」
ヒサンは耐えきれずにせっかく掛けた鍵を開けてしまう。
あまりにも馬鹿正直なヒサン。どう言い逃れしようと言うのでしょう?
男数人がかりで中へ。
「何だお前たちは? 」
虚勢を張ってますが震えているのがよく分かる。無理をするものではない。
「出せ! 早く出せ! 」
もう逃げ場がない。さあここからどう盛り返す?
「何を…… 」
自信なさげなヒサン。この後悲惨な目に遭うのは目に見えています。
ですがまだ大丈夫。ここで言い返せば追い返せばそれでどうにでも。
ここで収まるなら問題ないのです。
「へへへ…… 震えてるじゃないかヒサン? 体は正直だな」
睨まれ凄まれ脅迫されたら誰でもそうなる。
それは男たちも分かっているはずなのに都合のいいように解釈する。
これでヒサン追い詰められた?
裏口の陰に隠れて見守る。
もしもの時になったら逃げるように言われているので準備はしておく。
「どうしたヒサン? 恐怖で言葉が出ないか? 」
体格差も立場も違うからヒサンは黙るしかない。
「おい誰がお前みたいな奴の世話したと思ってるんだ? 」
恩着せがましく要求をエスカレートしていく男たち。
ただ彼らにも言い分があるのでしょう?
盗人を匿ったヒサンは間違っていると。
衣を返さずに逃げ回る怪しげな女の味方をなぜするのか?
それを答えるのはヒサンでは無理でしょう。
ただ何となく困っていたから。純粋なヒサンはこの女神様の危機に立ち向かった。
それは偶然と言うよりもこの女神様を心のどこかで感じ取った。
第六感とも言うべきヒサンの功績。
もし今度のことでザンチペンスタンを救うことがあればそれは彼の力。
賞賛すべき命懸けの善行。それを報いるのが女神様でしょう。
「まさかヒサンが女を連れて逃げるなんてよ。なあ皆? 」
「ははは…… お前の女か? 命令して盗ませたのか? 酷い野郎」
「捕まるって分かってたのに。情けない。ははは…… 」
「そうだぞ。最後まで格好よくいなきゃな」
男たちはヒサンが沈黙するものだから挑発する。
だが本来のヒサンはそんな挑発に乗るようなタイプでは決してない。
だから静かに笑う。そして男たちを諦めさせる。ただ危険な賭けでもある。
いつ正体を現すか分からないのだ。そもそもがヒサンは舐められている。
「どうだ? 痛い目に遭いたくないだろう? ううん? 」
「えっと…… 」
返事する前に一発お見舞いする悪党たち。
もう彼らはただの愚か者で女神様の祝福を得られない。
目の前でそのような振る舞いは決して許されるものではない。
一人が拳を振り上げれば皆で一斉に襲い掛かる。
ボロボロのヒサンは体を殴り蹴られて出血している。
ダメ…… これ以上はダメ。
だがヒサンは大声を上げて逃げろとだけ発する。
「このガキが! ふざけた真似を! 」
なおも殴る蹴るの暴行を受け状況が悪化。もはや意識を保つことも難しそう。
どうしてそこまで? 女神様のために体を張るだなんて無謀過ぎます。
ヒサンだって彼らがどう言う人間か知っているはずなのに。まだ耐えようと?
「よーし探してくるわ」
一人が部屋の捜索に回った。これ以上は無理なので仕方なく裏口から脱出。
ごめんねヒサン。仮にどうなっても祝福を受けられるようにしてあげるから。
「おい逃げたぞ! 裏だ! 裏に回れ! 」
ヒサンの最期を目に焼き付け逃亡。
森を抜けてついに町へとやって来る。
「どうしたんだいその格好は酷いね」
農家のおじさんたちに囲まれる。
「いえ急いでますので。これで失礼します」
「ちょっと待ちな。服を持ってきてやるよ。それじゃ心許ないだろう? 」
親切なおばさんが娘のだと言って渡してくれた。
「あんたどこから来たんだい? 見ない顔だね? 」
興味を抱かれてしまった。これ以上はダメ。ヒサンの件もある。
それに現世であの愚か者を探し出さなければならない。
失礼ですがここは無視するしかない。
「黙るのかい? だったら怪しい女が来たって言っちまうよ?
あんた追われてるんだろう? 」
どうやら女の勘で見抜いたらしい。これだけ焦っていれば不自然なのは確か。
仕方なく求めに応じる。それくらいの余裕は持っています。
「はい上の方です」
まずい。とっさに本当のことを。でも女神様だから嘘がつけない。
明らかな嘘を吐くのには抵抗がある。
「上って都会から? 」
「違うだろうよ。空を見上げてたじゃないか。だから天女だ」
「へへへ…… 俺もそう思った」
農家のおじさんは休憩を終えると作業に戻る。
「どうだいきつくないかね? 」
「いえ。ちょうどいい。ですが胸がきつくて短いかな」
「あれま。外人さんかい? 髪の毛も変。何だか金色だしね。
スタイル抜群だ。うーんすごい」
見惚れるおばさん。やはり女神様の神々しさに反応してしまうらしい。
「正体は教えられないんですよ」
「訳アリだね。だったら何でもいいいから名乗っておきな」
そうやって微笑む。
続く




