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逃走する女神様

女神様降臨!

目立たないようにと羽衣を纏うもなぜか追いかけられる事態に。

少々強引で悪いとは思いますがこれも緊急事態。多少の犠牲は仕方ない。

すべてはザンチペンスタンの民の為。

もちろん用が済めばお返しするつもりでした。

それなのに追いかけ回すのですから困ったもの。

盗人? 女神様が盗人呼ばわりされるなど心外。未だに納得が行かない。

散々な目に遭った。それでも悪いことばかりではなかった。

私を助けようと必死になってくれた方も。


言われるまま男の家へと駆けこむ。

中はボロボロで女神様が滞在していいような場所ではない。

ホコリ塗れでクモの巣もあちこちに。極めつけは水漏れ。

雨漏りが発生。バケツで対応するが少々の雨でも水浸しの恐れあり。

そんな人が住むとは到底思えない山奥のボロ家に招待される。


彼がここの村の者ならば立場が危うい。

私は彼の優しさに甘えて本当によろしいのでしょうか?

楽観視できない。


「大丈夫か? 足は挫いてないか? 」

親切にも足を診てくださる。

しかしさすがに女神様の生足をただの人間に見せられる訳がありません。

もし邪な心があれば狂うでしょう。そうでなくても耐えられるものではありません。 

それほど女神様の生足とは神聖なもの。

裸で飛び回ってるのによく言うと思うでしょうがそれはそれ。

あの酔っ払いの方が特殊なだけで見れば魂を失われ固まってそのまま石に。

それほど恐ろしいもの。無闇に見てはならないのです。

酔っ払いは自分の妄想に囚われ続け決して真実を見ようとしなかった。

だからこそ命拾いをしたのです。


「大丈夫。それよりあなたの方は? 」

当然女神様ですから不死身とまでは行きませんが人間ほどやわではありません。

それを見た人間は化け物だとか呪いだとかつまらないことで囃し立てる。

情けない限り。ですがそれが人間の性。


「ああ心配ない」

「そうではなくあの方たちに居所を知られてませんか? 」

せっかく逃げ込んでも場所を特定されたら意味がない。

「うう…… 」

男は黙ってしまった。どうするつもりなのでしょう? まさか何も考えていない?

ただ勢いで助けてしまった? その善行はとても素晴らしい。

ですが状況を悪化させてはいけない。女神様のために命を投げ出してはいけない。


「すぐに来てしまいますよ」

「大丈夫。その時は私が囮になって裏口から逃がしてやるから」

どうやら何一つ考えてないと言う訳ではないらしい。

ですがその後のことは? 男が被害に遭うのは目に見えている。

ここは無理せずに女神様を差し出す他ない。

一時は罪悪感で苛まれるでしょうが村での立場を守るべき。

女神様はあくまでこの世界の外の存在。庇っても何の得もない。

ただ災いを持ってきた異形のであり畏敬の存在。

何も彼がその犠牲になる必要はない。さあ早くこの女神様を生贄にするのです。

まだ発覚するその前に。何としてもこの男との関係を絶たねばならない。


男は女神様の美しさに見惚れてしまう。当然ですよね。

女神様はどの世界においても敵う者のいない完全無欠な存在。

比べること自体おこがましいこと。


「いや美しい。何て美しいんだ? まるで天女のようです」

男はもう虜。指示に従うだだのしもべに成り下がった。

「ほほほ…… それは見誤りましたね」

天女は衣を奪われた彼女。

恐らく天界から追放された堕天使。それが彼女の正体。

彼女だってこの女神様より劣っているとしても絶世の美女に代わりありません。


「私はヒサン。この小さな村で今日まで大人しく暮らしていた」

自己紹介をする。

今日まで争いごともなく普通に暮らしていた純朴な青年を巻き込んでしまった。

これは女神様としてあるまじき行為。心苦しい限り。

反省はもちろんしますがこの場面をどうにか乗り切るしかない。


「ごめんなさい。あなたの為にも何も語れないの。今何時でしょうか? 」

それだけが大事。いつ医師が駆けつけるか分からない。

もう今日にでもこと切れるでしょう。

ですからそれまでにどうしても愚か者のところへと向かわねばなりません。

危険を顧みずに無理をしてしまった。だからこそ急がねばなりません。

ここでゆっくり匿われていられない。

ただ戻るだけならいくらでも。


「今は十一時を過ぎたところ。そろそろお昼にしようか? 」

そうやって微笑みますが今はそんな時ではない。


ドンドン

ドンドン

ついに追手に見つかってしまう。

「私が対応します。隠れていてください。もし危なくなったら裏口から逃げて。

そう言って裏口の鍵を開ける。

どうやらシラを切り通そうとする気らしい。

見た目に反して大胆な方だ。


「ちょっと危ないでしょう? 」

「大丈夫ですよ天女様。私なら問題ありません」

天女じゃないのに。天女はたぶん今衣盗まれ湖から出ずに出れない少女の方。

女神様としてはこの現状を打破する力がない。

実際にはまったくない訳ではありません。

それは目的のために残してあるので使えない。

脱出したり逃げる分にはどうにでもなる。

でもそんな時間は一切ありません。


異世界・ザンチペンスタンと違いタイムリミットがない。

明確な期限がない。あるのは医師によるサインのみ。

仮死状態から完全転生に。

とにかく急がなければなりません。

この方を見捨てることになるでしょう。

助けて頂いたお礼もできずこの場を離れる。それは女神様として耐えがたい苦痛。

ああ…… どうしてこうなったのでしょう?


                  続く

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