妖精の苦悩
女神様現世へ。妖精留守番中。
恥ずかしい? 転生者にはそのような感情はない。
それなのにまるで生きているかのような二人組。
ただ体を触られたくないとしたら…… 何かある?
要注意人物の二人。警戒は怠らない。
ここは女神様の部屋であり転生者にとっての始まりの地でもある。
ある意味中継地点とも言える。
ここで寝ると次の世界へ。要するに異世界・ザンチペンスタンへと飛ぶ。
ですがザンチペンスタンは間もなく消滅するでしょう。
放っておけば三日で消滅する運命。
だから別の世界に送る必要があるのですが肝心の女神様がいない。
責任者の女神様がいなければどうすることもできない。
妖精はただ見守るだけ。情けないがこれが限界であり現実である。
さあどうすればいいでしょうか? うーん。
長考モード。
「まだ? 」
女神様のように慈悲深く思いやっているところに邪魔が入る。
所詮は愚か者。彼らがあの間抜け睡眠野郎と同類なら再び異世界に危機が訪れる。
しかも消滅してすぐにまた新たな異世界に消滅の危機。
それはいくらなんでもあり得ない。
なぜ最近の方は当たり前のルールもマナーも守れないの?
大人しく指示が出るまで待ってるのが転生者の務めでしょう?
それを蔑ろにして。まったく信じられない。何を考えて生きてるのでしょう?
ううん? そうか彼らはもう……
「ねえそんなことより早くしてよ! 」
「そうだぞ。これ以上待てるか! 」
二人は息ぴったりに騒ぎ出す。まったくどこまで仲良し?
羨ましい限り。嫉妬しちゃうほど。
私だってそんな時があった……
まずいまずい。思い出に浸って疎かになっている。
「ゴホン…… どのみち現在異世界への転生ができない状態になっています。
ここで大人しく言われた通りにして早く済ませましょう」
建設的な提案をしてみるがどうも嫌そう。
声には出さないが顔には出ている。
「どうしました? ほらすべてお脱ぎください」
「でも…… 」
頑なな女。一体どうしてここまで拒絶するのか? 明らかにおかしい。
おかしいと言えば二人同時に来たこと。
今までの愚か者は一人。二人で来たことなど果たしてあったでしょうか?
「あなたたちは本当に転生者? 人間なの? 」
「酷いな。疑うんだ? 」
「そうだぞ。慈悲深さはどこに行った? 」
「ですが…… 」
「ダメ…… もう限界! 」
「俺もだ。畜生! 」
ギャア!
ギャア!
何と二人は人間ではなかった。二匹は鳥の化け物だった。
まさか人間ではなく鳥の化け物とは驚きの真実。
鳥の化け物と言ってもクマルのようなものではなく大きくもなければ強くもない。
「あなたたちは一体何者? 」
「ひひひ…… 変装だって言葉遣いだって完璧だったのに。時間切れだ! 」
逃げられないと思ったのか正体を現す。
どうやら変装にはタイムリミットがあったらしい。
過ぎれば元の姿をさらけ出すしかない。
「まさか…… 伝説の乗っ取り屋? 」
女神様から聞いたことがある。どこからか集まって来るのだとか。
トラブルに乗じて異世界と始まりの地を奪おうとするとんでもない奴ら。
聖地であるここは通常女神様の加護で守られており突破できない。
ただ今回のように女神様が現世に出掛けたり体調を崩されると侵入できてしまう。
「ひひひ…… 大人しくするんだな! たかが妖精では我々には歯が立つまい」
まずい。これはやられた。
隙を突かれてこんな目に遭うなんて。ああ信じられない。
あの爆睡野郎じゃないですがポンコツ妖精のレッテルを張られてしまう。
「通りで。現世からのお客様リストには載ってなかった訳だ」
「ほら大人しくここを明け渡せ! さもないと痛い目に遭うぞ! 」
もうどうしていつもこうなの? トラブルばかり。
訪問者はどいつもこいつもロクなのがいない。前回も前々回も。
ああまともな転生者の一人ぐらい連れてきて欲しい。
ああ女神様! まともなのを一人だけ!
そんな風に現実を逃避する。
うん。落ち着いたみたい。さあ深呼吸してまずは相手の分析に掛かりましょう。
奴らは現在混乱中の異世界とそれに翻弄される女神様の情報を得て強奪に動いた。
本来だったら女神様がいればどうと言うことはないエイリアン。
しかしその女神様が現世では明け渡すしかない。
悔しいですがここは涙を呑んで従うとしましょう。
ダメだ…… 冷静になったところでいい結果が出る訳ではない。
ただちょっとだけ余裕ができただけ。
さあ態度を軟化するとしましょうか。でもまだ終わりじゃない。
「どうぞご主人様! 」
ついに妖精は二匹の未確認物体のエイリアンを主人と認める。
これで女神様が仮に戻って来ても居場所がない。
最悪現世に残ることになってしまう。
「ご主人様どうぞ歓迎の握手です」
「うひひひ…… よろしい。ではこの手を掴むがいい」
これで正式に迎え入れたことになる。
ビリビリ
ビリビリ
「ごめんなさい。痛かった? 」
「逆らうのか? 妖精の分際で! 」
「留守を預かってますからね。これはエイリアン撃退光線」
そう言ってエイリアンにかける。
「うぐぐ…… クソ! 」
エイリアン二匹は尻尾を巻いて逃げて行った。
こうして妖精は絶体絶命の危機を乗り越えたのだった。
ふうう…… 危なかった。
女神様。留守は守ましたよ。
まったく言うことをまったく守らない人間も問題。
でもそれ以上にこの聖地を土足で踏み荒らすこのエイリアンが大問題。
ちょっとでも隙を見せると乗っ取ろうとする。
女神様さえしっかりしていればどうと言うことはない。
混乱に乗じてこのようなことをしてくるから厄介。
女神様…… 今どこに? きちんと撃退しましたよ。
一人っきりの留守番は寂しくて辛い。
早く戻って来て!
偉大で慈悲深い女神様はその頃東へ東へと針路を取っていた。
続く




