怪しげな二人組
始まりの地。
女神様現世へ旅立ちその間妖精が代理を務める。
現在妖精留守番中に見かけない不審者が二名。
これは一体どう言うこと? ふざけないで!
まずいまずい。つい冷静さを失ってしまう。
私は女神様…… ではなく女神様の代わりをしている妖精。
留守の間は私が女神様。振る舞いも仕草や口調だって女神様のようでありたい。
上品で慈悲深くてはいけないのです。
もちろん相手にもよる。
そもそもここは聖域で許可なく勝手に入ることは禁じられている。
たとえ女神様が不在でも留守番役を任された私が黙っていない。
「そこ何をやってる! 」
女神様の代わりはまだ難しい。ついいつものように声を張り上げる。
「ええっ? 」
戸惑いの声を上げる女に恥ずかしそうに頭を掻く男。
まさか自分たちの行動が咎められるとは正直思ってもみなかったんでしょうね。
ですがここは聖地。そのような破廉恥な行いは厳に慎んでもらいたい。
「あなたたち一体何者? 」
二人は仲睦まじく愛を語り求め合った。
その行為は本来歓迎すべき神秘的なこと。
だがそれでもルールはルール。きちんと守るべき。
「それであなたたちどこから来たの? 」
「悪い…… 開いていたものだからつい勝手に…… 」
男は悪びれる様子がない。
でもいいのでしょうか? ここは現在私が任されている。
きついお仕置きをして差し上げるのが優しさでしょうね?
それは女神様の慈悲にもつながるもの。
「あんたたち一体この神聖な場所で何をしてるのか聞いてるの? 」
これ以上させないようにする。
「まあいいわ。済んだことは気にしなくても。でもこれからは従ってくださいね」
こうして厳重注意をしてから詳しい話を聞くことに。
「それであなたたちはどのような関係? 」
そうすると再び黙ってしまう。面倒この上ない。
「分かりません」
まあ当然そうよね。たまたま? あり得るのかな?
「そちらの方は? 」
「申し訳ありません女神様! ですが…… 」
真剣な表情。根は決して悪いのではないでしょう。
「私は妖精。女神様ではないんですよ。留守を預かってる身」
優しく微笑みかける。ほほほ…… 女神様のように慈悲深くできてるでしょうか?
「何だお前女神じゃないのかよ。まったくただの妖精が文句垂れるんじゃねえ!」
これでも抑えてるのだろう。彼女がいるから格好をつけて紳士に振る舞ってる。
「そこ! 生意気な口を利くんじゃない!
あなたたちが勝手なことをすれば世界を消滅に導くのですよ? 」
きつく言って反省を促す。これ以上生意気な態度を取ればお帰り頂くことになる。
現世にではなくここと現世の狭間に送り返す。それが何を意味するか。
もちろん私は女神様ではなく妖精なのでそのような権限はないのですが。
それにしてもどうしてかわいらしい妖精だとこんなにも舐められるのでしょう?
前回もその前も舐められて勝手な行動されこちらが迷惑を被る状況は変わらない。
悔しい。何て悔しいのか? やはり可愛すぎる見た目がまずかった?
「おい聞いてるのかよ? 女神様はどこだって聞いてるんだよ? 」
二番目に偉いこの妖精様に向かってそのような無礼な態度。決して許しません。
女神様不在の今この力を見せつける時が来るか?
「もういいよ。これ以上騒がないで」
察した女の方が止めに入る。賢明な判断。
「よろしい。ではなぜここに? 」
改めて詳しい事情を聞く。
「俺たちはたぶん不幸な事故で亡くなったんだろう? そこで女神様に召喚され」
「うんたぶんそうだと思うよ」
二人は恋人または夫婦なのだろう。とても仲睦まじい。お互いを思いやってる。
ふふふ…… 素敵。こんな奴とは早く別れてしまえ!
まずいまずい。つい本音が。
「それでは女神様の声が聞こえたと? 誘う声がしたと言うのですね? 」
一応は質問してみるがどうもおかしい。
もしこれが今日なら当然女神様は現世に。そこからでは導けないし声も届かない。
「ああこっちだと言うから従ったまでよ」
「ごめんなさい。この人の口が悪くて」
男は態度を改めようとしない。女はそれに敏感で謝ってさえいる。
よくいる二人組だと。どうせ私には関係ない。詮索する必要もないか。
「では数珠は? 」
「はあ? 持ち物はすべて没収されたさ。お前さそんなことも知らないの? 」
どんどん生意気になっていく困った人。トラブルメイカーに違いありません。
「そちらのあなたも? 」
同じだと頷く。
おかしいな? 導かれた者が迷わないように数珠が必要なのになぜ手にしてない?
ポケットにでもしまったか? それを勘違いしたか?
「ではどのような最期を遂げられたのでしょうか? 」
「ああん? そんなこと知るはずないだろう? あっという間にここに来た」
記憶を失っていると言う。まあなんて都合がいいのでしょう?
「では身体検査を行います。どうぞすべてをお脱ぎください」
ここまでさせるのは初めてではないでしょうか?
古いマニュアルには記載がありましたがこんなこと初めて。
女神様不在で初めての経験では荷が重い。
「ちょっと待って! まさか私まで脱がせようって言うんじゃないでしょうね?」
恥ずかしいから嫌だと我がままを言う。
「いえもうそのような感覚はないはずですが」
恥じらいなどきれいさっぱりなくなってるはずなのになぜ?
おかしい。この二人はどこかおかしい。
続く




