特別編開幕! 現世に旅立った女神様と留守番役の妖精
特別編。
女神様の活躍で異世界・ザンチペンスタンを救う?
始まりの場所。
最後の三日間。
「どうしました女神様? 」
「急に呼び出してしまってごめんなさい。どうも心配で」
「それはあの男が失敗すると思ってるからですか? 」
「いえそこまでは…… ただ失敗はザンチペンスタンの消滅を意味します。
彼らには何の罪もないのにそれではあんまりです」
異世界を荒らすどうしようもない男。
それが女神様たちの評価。英雄でも何でもない。
「しかし私どもにはどうすることもできないかと」
「ですから旅立とうと思うのです。あなたには留守を頼みたい」
「まさか! 本気ですか? 」
「女神は嘘を言いません」
「はあそこまであの男に肩入れする必要がどこにあるんですか?
眠いからって二度寝で飽き足らず三度寝までした最低最悪の男ですよ」
「いえあくまでザンチペンスタンの住民保護が目的です」
「同じこと。まあ女神様がそうまでおっしゃるなら私にも責任がありますから」
「ありがとう。これで心置きなく旅立てる」
「それでどちらへ? 」
「もちろん彼の世界。彼の言う現世に」
「お待ちください! それはあまりに危険。いえ危険過ぎます! 」
「選択の余地などありません! 彼が失敗すれば即消滅」
もはや説得は不可能。現世に旅立つ決意の女神様を止められない。
「しかし女神様。充分ご存じかとは思いますが女神様のすべての力が使えない」
「はい。女神としての能力はほぼ使えません。ですが復活ぐらい問題ありません」
「ですが安全がまったく保障されない。道中で襲われでもしたら…… 」
前代未聞。女神様に何かあればザンチペンスタンは加護を受けられなくなる。
それは新たな女神様が誕生なさるまで。
何年? 何百年? それほど長くかかる恐れも。
天秤にかけるまでもない。やめさせるの一択しかない。
妖精は無理やりでも女神様の暴走を止める責任がある。
しかし女神様はただ留守番するように頼むだけ。
「大丈夫。彼のいた世界はさほど危険ではありません。
用を済ましたらすぐにでも戻って来ますから。心配しないでね」
女神様の決心は固い。
「分かりました。留守は私がお守りします。ではお気をつけて」
「ありがとう。それでは道中に自身の加護がありますように! 」
こうして女神様は現世に旅立たれた。
幾多の困難を乗り越えて現世の男の元へたどり着けるか?
すべては賭け。保証は何一つない。
現世。
まずは鳳凰となって世界を飛び回る。
確か男は東の方の国だった。
東に針路を取る。
鳳凰となれば自由に世界を飛び回れるが一瞬と言う訳には行かない。
風も強く中々前に進んで行かない。このままでは到底間に合わずタイムアップ。
現世ではほとんどの能力を失っている。
さあどうすればいいか? ここからどう進んで行けばいいか?
最終形態になる。即ち裸に。
ただ身に着けていたものを手にしていては重さは変わらない。
だから思い切って捨てる。裸になりすっきりしたところで再出発。
これで一時間もすれば目的地周辺。
地図が古くなければ一時間以内に男のところまでたどり着けるはず。
それにしても代わりを妖精に任せて大丈夫でしょうか?
少々おっちょこちょいなところがあるので心配。
きっと立派に留守番を務めてくれるとは思いますがいまいち不安。
不在を狙って襲撃してくる者もいないとは限らない。
再びおかしな方を入れて異世界が混乱しなければいいのですが。
でも今は現世であの方を復活させることに集中しよう。さあ急ぐとしましょう。
間もなく目的地の東の果て。
こんなところに人間が住んでいるなど信じられません。
さあそろそろ降りますか。
男がどこに住んでいるのかどこに入院してるかは男の臭いが教えてくれる。
遠くては反応しませんがここまで来れば問題ない。
人には隠れた臭いがある。それは動物すべてにある普遍的なもの。
逃れられないこびりついたもの。どんなに洗おうと匂いつけようと取れはしない。
体に纏わりつきこびりつく。それを落とそうとするのは人間の業。
愚かで浅ましいこと。すべてを受け入れてこそ知性を持った人間。
臭います。こちらから強烈な臭いが漂っている。
女神様はついに降臨。
始まり場所。
現在妖精が一人でお留守番中。
うーん暇だな。特にすることがない。
ようやく落ち着いてきた気がする。
あのトラブルメイカーの最低男がここに来てから十日が過ぎようとしている。
女神様ったらあの男のために一肌脱ぐんだから……
いくら異世界が消滅するからってそこまで面倒見なくても。
仮に消滅しても私たちには何の関係もないでしょう?
ただお仕事がなくなるだけ。でもそれも今月のみ。
次の月には。遅くても次の年には新しいところで同じことをしている。
難しいことは特にない。
異世界に送られるのは現世で悲惨な目に遭った者か怨念と執着がある者。
女神様の目に留まったある意味運のいい者。
それらは一か月に一組あるいは一人ないし二人。
今回送られた二名も感覚的には近くて多く感じるが想定の範囲内。
異常が見られる訳でもなく至って正常。
そもそも女神様の判断。見捨てることだってできたはず。
見捨てていればこのような苦労はせずに済んだ。
もしこれ以上お客様が現れるようなことがあればおかしくなっている証拠。
慈悲深い女神様。厳選せず災いをもたらすどうしようもない奴を選んでしまう。
それが女神様の唯一の欠点。それにより私がどれだけ振り回されることか。
現在あの愚か者も迷惑を掛けてるのではないのでまだ許されているが。
さあ女神様から留守を預かっているのだからお掃除でもしましょうか。
戻られた時に汚れていれば失望されてしまう。
お側に置いてもらえないかもしれない。そんな恐れも。
お掃除開始!
まずは溜まっているごみを掃き出してそれから……
うん? 錯覚だろうか?
布団に寝ている二組の男女。
一体彼らは何者なのか?
まるっきり情報が入って来ない。
これはどうすれば?
せっかく女神様に安心して旅立ってもらったのにどうして大トラブルが起きるの?
どうやら錯覚でもなければ勘違いでもないらしい。
続く




