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抱き合う二人 最終回前編

カンペ―キ洞窟。

準備完了。フィナーレの準備が整った。

クマルの最期の悪あがきも限界のようだ。

「クマルよ。お前が火をつけるのだ」

「へい仰せのままに! 」

そう言って泣きながらクマルがファイヤー!

 

残り十五分。ついに火が放たれた。

「では魔王様もお離れください」

「大丈夫だ。魔王様は無敵だからな」

「わがままを言わずに指示をお願いします魔王様! 」

「仕方ない。では我々も脱出するぞ! 」


こうして火の勢いが強くなる前にダンジョンから避難。

魔王様がよくてもモンスターは火に弱い。

そのために火力だってガソリンで賄った。

本来ならば魔王様のファイヤーでもよいがコントロール不能になってはいけない。

当然火に弱いモンスターはファイヤーを扱えない。


残り十五分でどうする? 物語は無情のフィナーレへ。


せっかく魔王様の隠れ家として作り上げたカンペ―キ洞窟。

それに今火をつけた。もったいないがこれもすべて計画通り。想定内だ。

もうこのような立派な隠れ家は必要ない。

魔王様の天下になれば魔王軍を引き連れ日の当たる場所で生きていける。

もう人間を気にして隠れ家でコソコソしなくていい。


カンペ―キの先導でクマルたち数名と脱出。

それ以外の者には事前に避難するように命じられていた。

我々を除いてカンペ―キ洞窟には誰もいない。


現在十一時四十五分過ぎ。

タイムリミットの零時まで残り十五分を切った。

この間に地獄の業火に焼かれノアとアーノ姫は消えることになる。

それが変えられず逃れられもしない残酷な運命。

魔王様の計画でありながら二人の意思でもあった。


火の勢いは強くついには洞窟全体へ広がって行く。これもすべて計画通り。

すべてはこのザンチペンスタンの消滅を回避するため。

我々はそのためにこの十何日間を過ごしてきたのだ。

後悔することはないだろう。


さあ今こそ主役の座を明け渡す時だろうな。

この魔王様が直々に最期の時間を与えてやった。

炎で燃え尽きるまでの僅かな時間だがそれでも二人には悠久の時だと信じたい。


約束は果たしたぞ。そうだろう勇者ノアにアーノ姫。

この洞窟に祀られていると言う伝説の二人のように。

ウミンチュとミライカンデのように。


「大丈夫か? 」

「平気。でも限界」

「済まない…… こんなことになってしまって」

「ううん。これも運命だと思うの」

「運命ね。でもボクたちは本当にこれでよかったのか? 」

「今更何を言うの。ふう…… 」

「おいアーノ? 起きてるか? 」

「ふふふ…… 大丈夫。私ならまだ…… 」

「でも本当にこれでよかったのかな? 」

「やっぱり後悔してるのね? 」

「何を言ってるんだ? そうじゃなくて他の方法があったんじゃないかと思って」

「そう思うだけ。他にあるはずがない。今更決心が鈍るようなこと言わないで」

「いやでもボクたち勇者と姫だろ? 結ばれる未来もあったんじゃないかと」

「嬉しい。そうなると…… 」

「おい大丈夫か? 」

「平気最後まで喋らせて。それでもこれでよかったと思ってる」

「焼き殺されるのがか? 」

「違う。二人で一緒にいられるのが。ようやく一緒になれたんだもん」

「そうだよな。何だかいろいろあってこんな風に二人になることはなかった。

どんなに願い祈っても無理だったこの瞬間。ようやく二人は出会えたんだな? 」

「ええ…… もうそれだけでいいと思う。ううう…… 苦しい」

「ははは…… さすがに苦しいな。もうボクも限界だぜ」

「格好つけてないで笑ったら? 」

「ははは…… 笑ったら苦しくなるだろう? 」

「うん。煙を吸い込むものね」

「あとどれくらいだ? 」

「もう気にしないで。せめてこの時間は二人だけのために」

「分かってるって。でもその時間がどれくらいあるかなと」

「息が続く限り。意識が遠のくまで」

「残念だよアーノ。君とはもっと一緒にいたかった」

「諦めたんだ? 」

「ああもう諦めたよ。ははは…… 」

「そう。だったら抱き合いましょう」

「おいおい。それでは余計に未練が残る」

「だから…… 格好つけてないでほら早く! 」

「もう本当に強引だな」

「姫様だから」

「こう? 」

「もっと強く! それでいい。さあ座りましょう」

「アーノ。好きだ」

「ありがとう。一緒に次の世界に行きましょうねノア」

「そう言えばそんな伝説あったな。正直に告白するとこんな最期に憧れてたんだ」

「ふふふ…… 冗談でしょう? でもそのお話興味ある」

「ああそれは紅心中伝説って言って…… 」

「ノア? ノア? 」

「ごめん。急にくらっときて。もうこれで終わりかな」

「うん。その伝説では二人はどうなるの? 」

「続き? 仮に二人が遠く離れても同じ日に同じように亡くなれば来世で会える。

そんなつまらない伝説さ。でも今は信じてるよ」

「そう…… 私も信じる。もっとくっつきましょう」

「そうだな。ありがとうアーノ」

「私こそありがとうノア。あれ? あの光は何? 」

「どうしたんだよ? 火の煌めきだろ? 」

「うん。そうみたい。天の導きかと思った」

「ははは…… 」

「ふふふ…… 」

「アーノ! 」

「ノア! 」


二人は決して離れなようにきつく抱き合った。

そして洞窟は火に包まれた。

残り五分を残して二人の体を焼き尽くす。


こうして勇者ノアとアーノ姫の物語はフィナーレを迎える。

炎に包まれた二人がどうなったか今のところ明かされてない。


                続く

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