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勇者の性

国王軍が攻め込み危うく陥落しかけるもカンペ―キ中心にどうにか凌ぎ立て直す。

どうやら彼らは本気ではなくアーノ姫の奪還が目的らしい。

ここは無理せずに大人しく受け入れることに。

朝までに返すとできない約束をして時間稼ぎ。


もうどの道タイムリミットは今日までだからどうだっていい。

十二時の鐘が鳴る時にすべてが決する。泣いても笑っても今日が最後。

十三日目で魔王様のターンである以上どうしようもない。

ただ辛いことにどれだけうまく行っても魔王様の人格が残る。

ノアもアーノ姫も残念ながら魔王様の手によって葬り去られるだろう。

そうもう遅すぎるのだ。運命は決したも同然。即ち魔王様の天下となる。


それでも最後まで抵抗。どんなに虚しくても抵抗を続けるアーノ姫。

絶望的な運命だとしても最後まで諦めないその心意気は尊敬に値する。

気がかりは唯一の弱点である魔剣の存在。

あれが手元にありさえすれば安泰だ。

仮に謀反の動きがあっても魔剣の管理を徹底してれば手も足も出ない。

魔王様の支配が永遠に続くことになる。


日が暮れ。最期の晩餐へと移る。

「まずは勇者の姿焼きだ。ほれ抵抗するでない。ふふふ…… 」

震える者を追い詰める。

「何をする! 私は…… 」

恐怖に震える勇者ノア。もう彼には運命を打ち破る力は残っていない。

「ほう。この期に及んでまだ生き延びようとするとはな」

「ふざけないで! まだ時間じゃないでしょう! 」

アーノ姫も必死だ。だが今はノアを庇ってる余裕はない。


「いやはやすべてはこの魔王様の温情だと言うのに逆らうつもりか? 」

「約束したじゃない! 」

「だったら頬にキスをしてみろ! そうしたら待ってやる。どうだ? 」

アーノ姫をいたぶる。もうどんどん昨日までの記憶が薄れて行く。

これも眠り病の影響か? 完全な魔王様に戻るには必要不可欠なことなのだろう。


「ははは! 冗談だ。それでは仲間を紹介しよう。彼はカンペ―キだ。

今度の作戦でも見事撃退した優秀な男だ。

そうそう。国王を抑えきれない役立たずのお陰で危うくやられるところだったぞ」

「国王部隊が突入したと? 」

「ああそこの姫様を奪還しに来たんだ。こっちはえらい酷い目に遭ったわ」

今更そんな話をしたところで無意味だが迷惑を被った恨みがある。


「何の冗談ですか魔王様? この者どもは今我々が戦ってる敵ではありませんか」

何も知らない真面目なカンペ―キは敵との交流が許せないでいる。

「カンペ―キよ。彼らは今日までの命。だからそれまで自由にさせているのだ」

「そうよ。どうせこの世界は今日まで敵も味方もないでしょう?

あなたは少し考え過ぎなのよ」

カンペ―キを何とか説得する。


消え行く者たちに慈悲を掛けるのが魔王様のやり方。

たとえ甘いと言われようとも貫くのみ。

「お前はアーノ姫? お前を招いたばかりにこの洞窟はもう崩壊一歩手前。

国王軍に攻め込まれ重火器でボロボロだ! 」

カンペ―キは己の名を冠した洞窟を襲撃されたことで怒りに燃えている。

しかしだからと言ってお客様に失礼を働いてはいけない。


「うおおおお! 」

錯乱したノアがカンペ―キへと突っ込む。

「馬鹿野郎! こんな時に何をしやがる? 」

「くそ…… 剣さえあればお前たちなど…… 」

どうやらノアはまだ諦めてないらしい。それくらいがちょうどいい。

活気があっていい。ウジウジされるよりはよっぽどマシ。

しかしそれも一瞬だった。すぐに情けない元のノアに戻ってしまう。


「済まんなカンペ―キ。彼らは気が立ってる。

最期の時を迎えるにあたってまだ気持ちの整理できてないのだろう」

「魔王様…… こんな奴らすぐにでも」

「まあそう言うでない。今言ったろ? 今日までだと。

だから多少のことは大目に見てくれ。クマルならきっとそんなこと気にしないぞ」

ついライバルのクマルを持ち出してしまう。


「済まん。ついライバルのことを…… 」

「お気になさらないでください魔王様。奴をライバルだとは思ってませんので」

何とも懐の深い。表の顔はそれは素晴らしい魔王軍の宝。しかし裏の顔はどうか?

不満を抱いてるのは表情で分かってしまう。

俺は奴を信じてるがそれでも気をつけるべき段階に来てるな。

とは言えそれだって今日を乗り越えれば問題ないさ。

明日には奴だって嫌と言うほど魔王様の恐ろしさを思い知るはずだから。


「うおおお! 魔王覚悟! 」

勇者の性か錯乱したノアは魔王様に突撃する。

「まったく馬鹿な奴だ。そんなことでこの魔王様が倒せるか」

ノアの暴走を軽くかわす。


「なあアーノ姫。これでもまだ手を出すなと? 」

「お願い。タイムリミットまではどうかノアに手を出さないであげて」

「ふふふ…… かわいい姫だ。よしこ奴の世話は任せるからな」

「ありがとう」

こうして一触即発の場面をアーノ姫の機転と魔王様の頑張りでどうにか回避。


「ははは! 約束だからな。さあ寛ぐがいい」

「しかし魔王様…… 」

「口出しは無用。お前はこの魔王様の言う通りにしてればいい」

「ですが…… 」

「ううん? 」

一睨みで黙らせる。


こうして残り僅かに迫ったタイムリミットまで穏やかに過ごすことに。


                   続く

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