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クマルの願い

最期の時まで干渉せずに自由にさせる。

魔王様としてはあるまじき裏切り行為。

とは言え世界を消滅から救った同志として尊重する部分もある。

だからせめてタイムリミットまでは二人の時間を与えてやりたい。

決して改心したのではない。これも魔王様からのせめてもの慈悲。


「魔王様! クマルが話があると面会を求めておりますが」

こんな忙しい時にまったく。しかし無視もできんしな。

仕方なく洞窟探索に同行して真意を探る。散歩がてら話を聞く訳だ。

迷わない程度に歩き回る。さすがに魔王様が迷子になっては格好悪すぎる。

これくらい奥に行けばうっとうしいコウモリもいない。


クマルのためにわざわざ時間を取ってやった。どうでもいい話なら容赦しない。

「それでクマルよ。この魔王様に何の用だ? 」

うっとしいほど引っ付くクマルを前にして泉の方へ歩みを進める。

「魔王様にお願いがあります! 」

クマルは震えることもなく堂々としてる。これはどう言う心境の変化だろうか?

まさかもう魔王様は怖くないとでも言うのか? そうならば何とも生意気な。 


「ボグ―! 」

雄たけびを上げ牽制する。なかなか癖が直らない。だがクマルにはこれが一番。

「どうした不満でもあるのか? それともカンペ―キか?

ライバルで常に張り合ってきた二人。

意識するのは常にクマルでカンペ―キは相手にしない。

それに一歩も二歩もカンペ―キがリードしている。

実力も人気も頭の回転もすべてカンペ―キが上回っている。

だから仮にクマルを多少優遇してもカンペ―キには痛くも痒くもないはずだ。

差が開いてしまったライバル対決など見ていられない。


「いえ…… 待遇改善でもカンペ―キについてでもありません」

クマルの奴意外にも頭が回るじゃないか。まるでカンペ―キのよう。

「では何だ? 今日はお前も知っての通り大事な日なのだぞ? 」

プレッシャーを掛ける。前までのクマルならここで引き下がっていた。

何でもありませんと離れようとする。しかし今はくっ付こうとする。

うっとうしくて敵わない。ああどうしたクマルよ? 想定外の動き。

期待を大きく下げるクマル。


「実は…… アーノ姫のことなんですが…… 」

話しにくそうにモゴモゴ言い始めた。

こちらは聞きにくいのだからもっとしっかりはっきり言ってもらえたらな。

「アーノ姫がどうした? そうか今までの監視作業ご苦労だったな」

「そうではなく…… アーノ姫を助けてはもらえませんか? 」

ついにクマルは言ってはならないことを言ってしまった。

どんな事情があるにせよ魔王様に逆らってはいけないし無理なのは重々承知なはず。

助ければ世界は消滅してしまう。そう言う訳には行かない。

今更助けても何の意味もないのに純粋なクマルは目を輝かせる。


「馬鹿め! お前は何も知らないくせに何を抜かす! 」

どれだけ悩んだかしれない。でもこれしかザンチペンスタンを救うことはできない。

「しかし魔王様…… 」

「うるさい! 魔王様が直々に葬ってやる。それがせめてもの慈悲だ。

お前は何も感じずに命令に従えばいい。

お前だって誇り高き魔王軍だろう? なぜ逆らう? 歯向かう? 」

しかも今になって? 魔王様だって辛いんだ。

この判断はできるならしたくはなかった。


「もちろん歯向かうつもりも逆らうつもりも毛頭ありません。

ただ救えるなら救っていただこうかなとそう考えたまでです」

クマルはクマルなりに悩んでいたらしい。

「お前。情が移ったろ? まさかアーノ姫に唆されたか? 」

単純な奴だからな。アーノ姫が本気を出せばクマル程度は簡単に騙せる。

「ははは…… 滅相もございません」

「いいんだ。隠さずともそれくらい見抜いてるわ。

お前のそう言う単純なところが個性だ」

誉め言葉ではないが個性と言ってしまえば悪い気はしないだろう。


「さあもっと詳しく話してくれ」

「へい。白状しますとつい愛しく思いまして…… 」

「お前は独り身だったよな? 」

「へい! ではまさか…… 」

「焦るな。それは本人の気持ち次第だ」

期待を寄せるクマルには悪いがそんな程度のことで運命が覆るか?

どれだけ消滅を逃れようとしてきたことか。

でも解決策は二体を消すことしかなかった。空しい限りだ。


「お前には火の調達を任せる。いいか最期は盛大に行こうではないか」

「まさか魔王様は…… 」

絶句するクマル。そこに現実を突きつける。

「いいか? どのみちこの世界は明日には消滅する。だからこれが最期だ」

「消滅? 冗談ですよね? 」

「冗談ではないわ! だからこそ奮闘していたのだろうが。

アーノ姫とノアを消せばこの世界は救われる。魔王様が救世主となるのだ」

ついにすべてを話す。混乱させないように伏せていたがクマルなら問題ない。

誰も奴の言うことを信じやしないさ。きっと混乱も起こらない。


「うおおお! それは凄い! 」

「もちろん二人には了承済み。これは魔王様だけの意思ではない。分かるな? 」

「へい。それでしたら協力します。ご命令を! 」

クマルはもう理解してくれた。すべて真実だが奴は疑うと言うことをしないからな。

アーノ姫への思いを封印して協力を願い出た。さすがはクマル物分かりがいい。

忠誠を誓っただけのことはある。


「ではクマルよフィナーレ用に火を調達してこい! 大きな打ち上げ花火と行こう」

「ヘイ魔王様! 」

「待て…… カンペ―キのはダメだぞ。あれでは火力が足りない」

「分かっております。では今すぐ調達に」

クマルはそう言うと走って行った。

ふうう…… 一苦労だな。さあゆっくり散歩でもするか。


間もなく日暮れ。最期の時が迫る。


                続く

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