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魔王様からのせめてもの慈悲

カンペ―キ洞窟。

「魔王様本当によろしいのですか? お一人では危険ではありませんか? 」

心配性の手下に心配されてしまう。

「ボグ―! 」

「いえ…… 魔王様がそれでよろしいのでしたら私どもは何も申しません。

それでは最期の時をお楽しみください」

こうしてついに二人の待つ最深部へ。

そこにはテーブルと椅子だけ。他は何もない真っ白で寂しい世界が広がっている。


「待たせたな」

ついに三人揃う。

目の前には顔面蒼白の勇者・ノア。

この魔王様に恐怖し震えている。勇者と言っても所詮は軟弱で愚かな人間。

恐怖のあまり一言も発さない情けなさ。どうやら来たことを後悔してる様子。

何も無理に招待した覚えはないがな。


隣には麗しき我が愛しのアーノ姫。不満があるのか先ほどから睨みつけている。

さすがはアーノ姫だ。肝が据わっている。ノアとは対照的な立ち振る舞い。

後はもう少しだけでも上品であると助かるのだが。

ただそれではアーノ姫ではないか。個性が消えては何にもならない。


ああこの魔王様が助けてやれたらな。

魔王様としてはできれば二人の願いを叶えてやりたい。

だができることとできないことがある。それは分かって欲しい

結局二人は震えたり睨んだりするだけで言葉を発さない。それほどの緊張感。

張りつめた空気が漂い誰もが動けずにいる。

この世界が間もなく滅びようとしてるのだから当然と言えば当然か。


ボグ―!

つい癖で雄たけびを上げるが反応がない。

困ったな。震えるノアは仕方ないにしても睨みっぱなしのアーノ姫までだからな。


ゴホン……

まずは咳払いをして話し始める。

「お前たちには分かってることだろうがもう一度説明しよう。

ついに三日目を迎えた。即ちこの魔王様のターンだ。それは分かるな? 」

内部事情を語って見せる。これは三人にしか分からないこと。

実際には十三日目だろうが。


「前置きはいいから早く始めなさい! 時間がないでしょう」

アーノ姫は怒れば怒るほど美しく輝く。ああ何と罪深いのでしょう?

「そっちはどうだ? 」

ノアも頷いて現実を理解したらしい。

「まだ時間がある。いつ処刑されたい? お前らの希望に沿うつもりだ」

慈悲を与える。

この魔王様がと笑われそうだが最期ぐらいは立派に飾らせてやりたい。


ノーマルのアーノ姫にノアであれ二人ともに今日までの共闘の記憶が残っている。

それは即ち一人の哀れな男の入れ替わり。

魔王様としてアーノ姫とノアを避けて来た。それは奴らも同じだ。

奴らは元々出会い愛を育み最後には結ばれる運命だったはず。

今もたぶんそれ自体は変わってないのだろうな。

だから稀有な存在。我々は心で繋がっていたおかしな関係。

それでも魔王様として運命を変えられない。変えてはいけない。


これまでを振り返ればチャンスがあったような気がする。

ノアがアーノ姫に託すも惜しくも時間切れ。

タイムアップで三日目になってしまった。

振り返れば振り返るほどなぜこんな間抜けなことをしたのか?

ザンチペンスタンを消滅の危機から救うには少なくても二体消し去る必要がある。

それなのに結果的に役割を果たせなかった。それは罪深いこと。

魔王様としてこの世界を地獄に誘うことよりもよりも罪深いことだろう。


結局甘さが原因。二人ができないことを代わりにしてやる。

そして魔王様の世界を築き上げる。

それが仮に人々にとって地獄であろうと構わないはず。

どうであれ三日目が過ぎればここは滅ぶ。それならばこの魔王様が……

そうなっては恐らくここ数日の記憶はなくなるだろう。

きれいさっぱり飛んでいくはず。


「どうして…… 」

ほう混乱してるな? それでいい。恐れ訝しがる。それこそが魔王様への評価。

決して甘い訳ではない。優しさなどではもちろんない。

「お前たちには協力してもらったからな。さすがに魔王様だから見逃せない。

だができるだけの願いは叶えてやろう」

魔王様からのプレゼント。このチャンスに乗らない手はない。


「だったら最期の時まで…… いえその直前まででお願い」

「うん? 深夜零時の鐘が鳴る時ではダメなのか? 」

アーノ姫の考えてることがよく分からない。

「ギリギリはだめ。せっかくこの世界が救えるのに。

ギリギリでまた失敗してそのチャンスを潰す訳には行きません」

アーノ姫は姫として最期を迎えたいらしい。立派な心掛けだ。

自分の犯した過ちを繰り返してはならないと。

それはこの魔王様だって考えてはいる。


「お前はどうだ? 勇者ノアよ。返事をしろ! 」

ノアの意見も念のため。仮に何の役にも立たなくても聞く作業をするのは尊い。

「ははは…… 俺はいつでもいい。好きにしてくれ」

自分が先にやられるのを知っている。ほぼ諦めの心。放心状態。

ただ隠された本心までは窺い知れない。

「よしいいだろう。ではアーノ姫の希望通り三十分前に始末をつけてやろう。

それがせめてもの優しさだろうからな」


こうしてタイムリミットを十一時半と定めた。

その時二人が消えてついに魔王様の天下に。

待ちに待った夢の展開。その時が刻一刻と近づいている。

ノアではないが緊張して震えているのが分かる。

当然魔王様だからそのような格好悪い姿は見せないが。


「よしでは続けて最期の言葉を…… 」

いやこれ以上はいいか。好きにさせよう。

「よし五分前になったら手下が案内する。今はそれまで寛ぐがいい。

または今までの己の行いを悔い改めるんだな。ははは! 」

「待ちなさいよ! 悔い改めるのはあなたの方でしょう? 」

「ははは! 元気な人だ。それでこそ我が愛しのアーノ姫。期待してるぞ」

そう言って格好よく立ち去る。


もはや奴らがどうしようと勝手。寛ぐも懺悔するもよし。

これこそ消え行く者に対する魔王様なりの慈悲なのだから。

感謝されることはあっても文句言われる筋合いはない。


                 続く

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