洞窟を目指す者たち
十三日目。
ノアに続いて魔王軍も洞窟へと向かっていた。
「ついにこの時がやって来た。お前たちには苦労掛けたがこれで報われるだろう。
この魔王様を信じてよくここまでついて来てくれた。感謝を述べるぞ」
らしからぬ魔王様のお言葉に皆恐縮しっぱなし。
「何をおっしゃいますか魔王様。魔王様あっての私どもでございます」
右腕で指示役の魔王様の忠実な僕。
たまに小言も言うが誰よりもこの魔王様を理解している。
そんな彼だから気持ちがよく分かるのだろう。
「よいかお前たち。魔王様は不死身だ。おかしな気を起こすなよ。
裏切りは許さない! 今ここで再び忠誠を誓うのだ! 」
ついにこの世界を手中に収めた。
狂った異世界とは言え地獄に満ち満ちた世界がもう間もなく到来する。
そうなった時一番怖いのが信頼を寄せていた者の裏切り。
それが見抜けたとしても裏切られると精神的に堪える。
ただ残念ながら魔王軍では裏切りは日常茶飯事。
トップである魔王様がしっかりしなければ反乱が起きる。
要するに魔王様のカリスマ性がこの魔王軍をまとめていることになる。
「そう言えば魔王様は眠り病を克服したようですが? 」
「ふふふ…… 眠り病は天変地異の前触れ。この世界がおかしくなっていたのだ。
しかし魔王様自らで立ち向かい見事解決したぞ。
間もなくモンスターだけの理想郷が完成するだろう」
うおおお!
手下たちは大合唱で称える。
「魔王様! 魔王様! 魔王様! 」
魔王様コールは止むことがない。熱狂するモンスターの熱気はそれは物凄いもの。
手で制して大人しくさせる。
「さあ念願の世界征服が始まる。皆の者この魔王様について来るがいい! 」
「うおおおお! 」
鳴り止まない魔王様コール。一身に受けて行進を開始する。
「ほれお前たち! ついて来るがよい! 」
こうして洞窟までの道のりを行進していく。
何だ何だと人間が駆けつけるがもうお構いなしに進んでいく。
本来であれば翼を広げて飛んでいくところを無理やり行進。
もう誰も止められない。それはモンスターであろうと人間であろうと。
もはや人間は駆逐されるだけの存在。
魔王様の発言一つで生きもし死にもする。
魔王様が主役であるこの第十三日目には他の種族が入り込む余地などない。
「ははは…… 何だあいつらおかしな奴らだな」
突如現れた集団に度肝を抜かれただ笑う者続出。
「おいお前たち何を…… 馬鹿な真似はよせ」
勇気のある愚者が行進の邪魔をする。
何も発せずに消え失せる愚者。
これはモンスターが本来の力を示したに過ぎない。
今までは魔王様が止めていたこともあり人間とはある程度仲良くしてきた。
しかし今日になりモンスター側から反撃を受けてしまう。
突然の出来事にただ見守る。手出しさえしなければ攻撃されることはない。
大人しく行進させておくしかない。
遠巻きに見守る者たちは次第に興味を失い散らばって行った。
これで邪魔者はこの地を去るだろう。
その頃アーノ姫を連れたクマルも洞窟を目指しかっ飛ばしていた。
「ちょっと…… もう少し静かにできませんか? 」
アーノ姫は我がままを言う。こんな時だと言うのに快適さを追求しているからな。
「悪い悪い。マイハニー! 」
クマルは浮かれていた。アーノ姫からの告白がありもう天にも昇るほどの勢い。
もちろんクマルの早とちりで勘違いなのだが気づくはずもない。
自分に都合のいいようにお話を作ってしまう。
「ねえ何だか寒くありませんこと? 」
そう言うと胸を抱えて震え出した。
「そうだな。空だからよ。でも俺は何だか熱いんだよな」
そう笑うクマルになぜか苦笑いで応じるアーノ姫。
「ねえこのまま洞窟に行くの? 」
「ああ魔王様たちがいたら合流しようかなと」
クマルはいつものままだしアーノ姫は元のおしとやかさが戻りつつある。
当然クマルをこき使うこともない。
ただ煽てていいように使ってる部分もある。
それが持って生まれた姫様の能力。
クマルは本能的に感じ取り従ってしまうのかもしれない。
情けないがそれがクマルの弱点であり欠点ではあるが個性でもある。
飼いならされたモンスターの成れの果て。
「魔王様? 」
「ああこの世界を支配する偉い方だ」
「それは国王様よりもすごいの? 」
「ああ魔王様はこの世界全体を支配する方だ。レベルが違う」
自慢気に語るクマル。
「ねえあなたは何て呼べばいい? 」
「いやクマルでいい。皆からそう呼ばれてるんだから」
照れるクマル。少々乱暴な言葉で対応しようにも本物の姫様の上品さに我を失う。
「でしたらクマルさん」
「おいおいクマルさんはないだろう? 何だか痒くなるぜ。まあいいけどよ」
緊張と興奮でどうにかなりそうなクマル。
「ではクマルさん。もう少しゆっくりお願いできますか? 」
アーノ姫は怖いのだそう。張り切り過ぎてアクロバット飛行するものだから。
墜落するのではないかと震えている。
「大丈夫。俺がついてる…… 」
格好をつけるが言い慣れてないのか自信なさそうに答える。
「ありがとうクマルさん。もう邪魔はしませんから」
「おいおい邪魔だなんてよせよ。俺たちの仲じゃないか」
調子に乗るクマルはもうどうにもならない。
コントロールを失い墜落寸前だ。
ほらもう少しだからな。苦しくなったら言ってくれ」
「ありがとう」
微笑みを浮かべる純粋なアーノ姫。これが本来の上品でおしとやかな姫である。
こうしてノーマルなアーノ姫とクマルの不思議な関係が続く。
過去に急接近したことはあったがここまで仲を深めるとは思ってもみなかった。
しかしどこまでアーノ姫は本気なのか謎が残る。
クマルとアーノ姫の不思議な旅もそろそろ終わりを迎える。
続く




