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悪夢再び

ついに三体が揃った。

魔王の招待を受け最後の晩餐に臨むアーノ姫と勇者・ノア。


「うん…… 何だか臭いませんか? 」

悪臭の発生源はまさかクマルスペシャルから?

手を付けてなかったので問題はありませんがもう食べれない?

「済まない。実は私が一発…… 」

正直者のノアが名乗り出る。確かに私のせいにされても堪りませんからね。

こんな大事な場面でしかも最後の晩餐に招待されてるのにマナーがなってない。

まさか私まで同類に思われた?

「こんな風にですか? 」

一発パンチをお見舞い。あまりの臭さに姫だと言うことも忘れる。

「痛…… 何をするんだアーノ姫? 」

「そちらでしょう? 下品なんだから。最後の晩餐ぐらい大人しくできない? 」

つい強く当たる。下品であり暴力的であったのは自覚してます。

姫としてあるまじき行為だと言うのも。でも悪いのは圧倒的にノアの方。


「二人とも騒ぐでない! せっかくの晩餐を台無しにする気か? 」

「あの魔王様…… そろそろお時間でございます」

手下がコソコソと耳打ちをする。

「おおそうか。では少々席を外すが気にせずに寛いでいてくれ」

私たちの前から姿を消した。まさか逃げる気では?

こうして二人は取り残された。


間もなく九時。随分と長居をしたらしい。  

「ねえ眠くありません? 」

どうしたのでしょう? 力が入らないだけでなく目を開けていられない。

急激な眠気に襲われる。もはやどうすることもできない。


「うん…… いやもう食べられないよ。へへへ…… 」

ダメ。ノアったらもう夢の世界にいる? 寝ぼけてるの?

もしかしてこれって大ピンチ? 

信じられないことに私たちはまんまと魔王に嵌められた。

これではこの手でノアも魔王様も葬れない。せっかくここまで来たのに。

もう少しだと言うのに残念。気をつけていたのにどうやら失敗に終わりそう。

それが何を意味するかと言うと地獄。

明日になれば魔王がこの世界を自分色に染める。それは間違いない。

ああ何て間抜けなのか? 最後の晩餐に浮かれていた。

本当にもうどうにもならないらしい。


「アーノ姫…… 」

「しっかりしてノア…… 」

もはや意識を保っていられない。どうしようもないほど眠い。

眠くて眠くて堪らない。


「ははは! ようやく気づいたか愚か者め! 

この魔王様はお前たちなどにやられはしない。

お前たちが飲んだ酒には遅効性の眠り薬が入っていたのさ。

食事にもたっぷりとな。遅効性にしたのはお前らに疑われないように。

どちらかが手を付けなければこの計画は破綻だからな。

特にアーノ姫が今回の主役。姫が動けなければ魔王様がやられることはない。


「何てことを…… 

もう諦めたと思っていたのにまさかこんな卑怯な手を使うなんて見損なった。

あなたは最低…… でも眠くてどうでもいい…… 」

魔王への恨み節や真実の追求よりもただ眠りたい。

眠くて眠くて仕方ない。どうしよもないほどの強烈な眠気。


そう言えば転生前も似たような失敗したような気がする。

眠るなと指示が出てるにも関わらず寝て夢まで見るタブーを犯してしまう。

その結果が今の危機的状況へと繋がる。


「ははは! もうお前たちは手も足も出せん! 魔王様の完全勝利だ。

後三時間ほどはゆっくり寝てるがいい。わはっはは! 」

勝ち誇る魔王。もはや打つ手なし。

汚い…… それが魔王ともあろう者がやることなの?

もっと正々堂々と来なさいよね。今更言っても仕方がないけれど。


「でもあなたはどうやってこの眠り薬を避けられたの? 」

せめてそのからくりだけでも教えてもらえれば納得できるのですが。

でも無理そう。ここは諦めるしかないか。尋常ではない眠気が……

「お答えできませんね。あなたが我が妃になるなら考えなくもありませんが」

紳士的に振る舞おうとする魔王。

「ごめんなさい。それはできません」

即答する。姫は勇者と結ばれる運命。間違っても魔王などと一緒になる事はない。

これが現実。いくら求愛されようとできることとできないことがある。


「残念だよアーノ姫。まさか断るとはな」

「ごめんなさい。でも私にはノアがいるの。あなたには分からないでしょうね」

どうにか意識を保ってるがもう限界。この状況で逆転の一手などあり得ない。

残念ですがここは潔く諦めるべきでしょう。


あまりに間抜けだった。私たち三人は同じ記憶を共有してきた仲。

だから多少なりとも油断があった。それを見事に突かれた。

そう言えばノアも初めは自分の運命を受け入れず現実逃避して逃げ回ってたっけ。

それでもノアはまだ善の心を持っていたから説得できた。

でも魔王ではそうもいかない。残念だけどこれも一つの真実。


「お願いよ…… どうやって回避できたの? 」

しつこく何度も聞く。

「ははは! どうやらお答えしないと安心して眠れないらしい。

ではここは麗しき姫のためにお答えしましょうか」

そう言って魔王は再び席に着いた。それでいいのです。


「どうやらお供はもう寝てしまったようだ。どうだまだ聞くか? 」

「早くしなさい! 」

「怒らせてしまった。よしいいだろう種明かししてやろう」

そう言うといきなりひれ伏す。

「まさかあなたは我慢していただけ? 回避なんて初めから…… 」

「そうだ。お前らには小手先のトリックは効かない。だから気にせず楽しんだ。

つまらないことに囚われて最後の晩餐を台無しにされたくないからな」

やせ我慢していた魔王。でもこんなことしても私は無敵で…… 

「これは賭け。同じゲーム参加の魔王様にはゲームの仕組みが分かってるつもり。

脇役でいる以上どうやっても主役に勝てない。何をしても敵わない。

だから発想の転換を図った。

要するにタイムリミットの十二時まで寝てもらえればいいとな。

そうすれば魔王様のターンだからな。お前たちには悪いが寝てもらうよ。

おっと…… もう聞いてないか。おやすみ。

起きた時に素晴らしい世界が待ってるだろう」

非情な魔王によってこのザンチペンスタンの未来は絶望的なものになってしまった。


十一時になった。

魔王本人も気持ちよさそうに寝ている。

あと一時間もすれば魔王のターン。

しかもそれを乗り越えてもただザンチペンスタンが消滅するだけ。


                 続く

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