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魔王様との再会

十二日目。アーノ姫のターン。

間もなく一日が終わろうとしている。

急に洞窟内が慌ただしくなり始めた。


「魔王様! 準備が整いました」

「うむ。ご苦労だったな。さあもう少しだ。もう少しでモンスターの時代が来る。

そうなればこのような薄暗い場所で隠れて生活することもなくなる。

憎き人間どもは奴隷となるのだ。そして皆ひれ伏すだろう。

新たな時代にはこの魔王様が相応しい。そうは思わんか? 」

「うおおお! 魔王様! 魔王様! 」

「ははは! それでいい。それでいいのだ」

力を誇示しようとモンスターを扇動する。


「魔王様! お客様を連れて参りました」

案内を受けどうにか魔王の元へ無事たどり着いた。

洞窟の最深部にはお洒落なテーブルが。

そして到着と同時にお皿が並べられていく。

招待を受け私たちも所定の位置へ。


カンペ―キ洞窟か…… どうしてこの洞窟を最終決戦の場に選んだのかあやふや。

魔王が選んだことにはなってますが実際は違う。

我々三人で決めたこと。特にアーノ姫の意向が強かった。

とにかく人のいないひっそりしたところを選択。

その上で確実に仕留めるために狭い場所を指定した。

後は何となく最後の場所っぽい雰囲気。

魔王と決闘するのは太陽の下ではなく真っ暗な洞窟の中がいいですからね。

洞窟では日の光が当たらずに今が昼なのか夜なのかさえも分からない。

独特の洞窟時間が流れている。それが意外にも心地よい。


魔王を打ち倒せずに明日を迎えてしまえばもう二度と光が差すことはないだろう。

失敗すれば魔王による支配によって暗黒世界が作られてしまう。

それは人類にとって負けを意味するし世界の終わりでもある。


決戦の場所のポイント。

自由に動けて力もあり人員も割ける魔王に任せたことで洞窟になった。

もっと別の相応しい場所でもいいかとも。ですがやはりここが一番適当だろう。

魔王城が完成していれば当然そこを決戦の場に選んでいたでしょう。


「よく来たなお前たち! 待っていたぞ。ははは! 」

当然魔王もすべてを知る立場。ただここでは脇役。

大体魔王ですから脇役しかない気もしますがそれでも明日には主役になる。

それだけは本当に気をつけなければ。どうにか阻止。

「ふふふ…… ボグ―はどうしたんです魔王様? 」

魔王を演じていた時は本当に大変だった。

厳しく手下をまとめ上がる。それは隊長になったノアもそう。

姫様はその辺は楽でしたからね。

魔女とクマルをどうにかすればよかっただけ。


「この魔王様を舐めているのか! ボグ―! 」

ボグ―の雄たけびに手下は恐れ戦く。それが魔王とモンスターとの関係。

恐怖と暴力で支配する。ノーマル魔王はどうやら転生より前の記憶が鮮明のよう。

ですが油断はなりません。明日になれば元の魔王に戻ることでしょう。

多少の思い出と僅かな記憶が魔王を留めるほどの力は持ってない。

仮に奇跡的に持っていても手下のモンスターが黙っていない。


弱い魔王など誰も望んでいない。

新たな魔王が取って代わることになるだけ。それではまったくの無意味。

より危険で好戦的。もしかしたら能力的にもカンペ―キが後を継ぐかもしれない。

ですが紳士的なカンペ―キはその頃にはもう姿を消しているでしょう。

より強くより恐怖で支配する完全体となったカンペ―キあるいは魔王様となる。

非情な魔王ではもう打つ手などない。

世界が消滅せずとも地獄が待っていることは間違いない。


「アーノ姫…… ずっとお会いしたかったんですよ。

この魔王どれだけ姫にお会いしたかったことか……

会えずにずっと苦しんだ。それが世界の消滅目前にお会いできたのです。

もう何も思い残すことはない」

魔王も当然のことながら待ちわびていた。

だって元々魔王はこの私を気に入っていたのだから。

とは言えいくら何でも大げさではないでしょうか?

私を待ち望むはずがない。魔剣の餌食になるのに待ち望むはずがない。

後二時間も我慢すれば魔王の天下なのに。

それを打ち砕こうとするアーノ姫を求めてるはずがない。


「時間は後二時間を切りました。どうでしょう? 決戦の前にお食事などは? 」

ノーマル魔王は紳士的だ。私たちに近い存在にまでなったらしい。

それだけに消すのは惜しい存在。ですが私は躊躇しません。

「そうね…… どうするノア? 」

さっきから震えが止まらないノア。

情けないことに魔王の圧力に呑まれようとしている。


「大丈夫ノア? 」

心配ももちろんありますがここでしっかりしてくれないと困るのよね。

「いや震えて仕方ないんだ。だって魔王だぜ」

子供のようなことを。隊長でしょう? 

しかもただの隊長ではなく魔王討伐隊の隊長。

魔王の助けを得て隊長にまで上り詰めたがやったことは僅か。

山賊を蹴散らせたりクマルを追い払ったりしただけ。

後は逃げ続けた。それがノアの現実。

でもそれは仕方ないこと。まだ子供ですからね。

勇者にはまだ程遠い存在。それが今のノア。だからこそ私の助けが必要になる。


「どうした? 最期の時を有意義に過ごそうと言うのだぞ? 」

魔王の悪くない提案。まだ二時間ある。焦る必要はないでしょう。

でも今魔王の思い通りにさせてはいけない気も。昨日も結局姿を現さなかった。

大人しく今のように最後の晩餐の席につけば簡単だったがそうはしなかった。

ですが魔王とは言え完全に不死身ではない。

魔剣に怯える情けない魔王でしかない。


               続く

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