動き出した魔女
十二日目夕刻。カンペ―キ洞窟。
アーノ姫は勇者・ノアと共に玉座の間へ。
最終目的地へと向かってるところ。お供のノアの様子がおかしい。
元からどこかおかしな部分はありましたがそれがより際立った感じに。
「どうしたの? 」
「済まない。どうも呼んでいる気がして」
そう格好をつけるノア。神経質になってる?
「だから今は幼馴染のことは忘れて! それが彼女のため」
「そうだけど…… 」
煮え切らないノア。もう情けないんだから。ここまでとは思わなかった。
あれほど消滅を回避してからにしたらと言っても聞きはしない。
今守るべきは幼馴染でもなければ国王でもない。このアーノ姫なのです。
それが王命でもあるはず。余計なことに気を取られては困ります。
「でも…… 」
再び繰り返すノア。もういい加減にしてよね。どうしてこう優柔不断なの?
まるで昔の自分を見ているみたいでイライラする。
実際ついちょっと前まではノアだった。ノアの記憶がある。
隊長にまで上り詰めた輝かしくも懐かしい思い出。
実際のノアはこんな感じ。ノーマルモードのノアにはまったく魅力を感じない。
うーんもう嫌になるほど。どうしてこうなの?
もっと格好よく強くあって欲しい。それはぜいたくなのでしょうか?
ただ自分を自分で貶してるようだから罪悪感がある。
「ほらこの道を進めば見えてくる…… あれおかしいな迷った? 」
ノアが無駄に感傷的になるからつい目の前のことが疎かに。
その挙句に迷ってしまう。
目の前にいたはずの案内役がいつの間にか姿を消す。
カンペ―キの指示である以上きちんとした道先案内人のはず。
だから逸れたのはこちらのミス。
「ノア分かる? 」
地図でもあればいいんでしょうけどね……
「戻ろう! 来た道を戻ればいいだけ」
現在時刻は七時を回ったところ。まだタイムリミットには時間がある。
だからノアの意見を素直に聞くつもりなんだけど頼りないからな。
「おいどうしたんだ? 戻ろう! 」
ノアは強く勧める。それは分かってるんだけど…… 心が拒絶する。
どうしたのでしょう?
「大丈夫。まっすぐ行けば魔王のところまでたどり着けるんだから」
姫だからその手のことには疎い。知らなくても何も困らなかった。
そもそも洞窟の地図など存在しない。この道が完成したのは最近のこと。
あるはずがないのです。ここは直感に頼りましょう。
まっすぐの道をただ進めばたどり着けるんだから心配ない。
「おい何をしてる! 」
逸れていたモンスターの姿が見えた。
「こっちでしょう? 」
「馬鹿野郎! それだと迷い込むぞ! 」
親切な案内役は二人を連れ戻す。
さあこれでいいのです。
「あの…… 我慢できないんだ」
ノアの情けない発言。こちらが恥ずかしくなる。
「分かった。ここらでトイレ休憩としよう。
十分後に出発するからそれまでに済ますんだぞ」
どこで? トイレなど見当らない。
まさかこの壁にしろと? 私は姫なのですよ? 冗談ではありません。
そんな風に逡巡しているといきなりノアが目の前で。
あまりにも自然で堂々としてるのでつい反応が遅れてしまう。
きゃああ!
つい大声が出てしまう。
「もうこれくらいで何を? 」
もう嫌! 私はアーノ姫なのですよ? 下品極まりないんですから。
本当に何を考えてるのでしょう?
こうしてどうにか漏れることもなく迷うこともなく。
その頃魔女は慌てていた。
「ちょっとこの辺に洞窟はないかね? 」
村人に聞いても首を振るだけ。未だに手がかりはつかめない。
「誰か? 誰でもいいんだよ」
これなら直接アーノ姫に聞いておけばよかった。
魔王の手下の名前がついた洞窟。
この際名前はどうでもいい。場所が分かればそれでいいのだが。
「ああそう言えば昔塞がった洞窟があった。確か最近化け物がうろついていたね」
「見たのかい? 見たんだね? 」
「いやただの噂さ。何でも熱心に穴掘りをしてるんだとか」
どうやらそこが例の新しい隠れ家。カンペ―キ洞窟。
最終目的地なのでしょう。
「酔っ払いほら吹き爺のゲップに聞くといいよ。場所も教えてくれるだろうから」
詳しい男の話を聞くことができた。
「それはありがたい。どこにいるんだい? 」
「今は川で水浴びをしてるところだ」
魔女は急いでゲップのところへ。
「ああん? 俺に何の用? いや酔ってないよ。シラフさ。ゲップ…… 」
自己紹介をするゲップ。なぜかすぐに分かる嘘を吐く。これでは信用できない。
「あんた臭いね。何を飲んだんだい? 」
「水だろう? 色は着いてたな」
「うわ…… 臭い! いい加減にしなよ。体を壊すだろうが! 」
「うるせい! それで何の用だ婆さん? サインならやらんぞ! 」
ゲップはシラフだと言うが信じられない。
「そうだった。あんたの体調を気遣ってる時じゃなかった。
この辺に洞窟はないかい? 確かモンスターが住み着いてる洞窟があるって」
要件を伝える。
「ゲップ…… ああ親切なモンスターが迷った俺を送り届けてくれたんだ。
えへへへ…… 俺って運がいいよな」
「それで場所はどこだい? 」
「ああそれなら。あっちの方」
アバウトな酔っ払いゲップ。これではまったく信用できない。
「ほら地図を書いておくれよ! 」
「ああいいぜ。でも何でだ? 何でそんな危ない場所へ行くんだ? 」
男に事情を話す。だがもちろんすぐに忘れるだろうな。
「それは大変だな。まあ頑張ってくれや。ゲップ…… 」
労いの言葉を掛ける。ゲップも忘れない。
こうしてどうにか洞窟へ。
ここからは魔法を使う場面も出て来るだろう。
大魔法の弱点を伝えきれずに行かせてしまった。
こうして魔女も洞窟へ。
間もなく一日が終わる。
その時決着がついてなければこの異世界・ザンチペンスタンは消滅する。
なぜなら魔王のターンになれば誰も止められなくなるのだから。
残念だがそれが運命。止めることのできない災厄。
続く




