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身代わりのブシュ―

突然の襲撃。

誰かと思えば魔王軍が蹴散らし存亡の危機に陥った小国。その王・ドクズ。

魔王との争いが激化する中でまだつけ狙っていたとは思いもしなかった。

つい油断してしまった。その隙を突かれた形。


どうやら魔王軍にさらわれる前から関係が悪化していたよう。

頑固なお父様が断ったことで激怒したドクズが一方的に恨みを募らせた。

そのような噂話をお付きの者が口にしていた。


「かかってこい! 」

絶体絶命のピンチでついに覚醒したかと思われたが違ったらしい。

ノアは無謀にも五人を相手に魔剣で挑む。

急ぎ過ぎてプラチナソードを置いて来たのでしょう。

確かに魔剣は魔王には有効ですがそれ以外には効果がない。まったくない。


「へへへ…… 逃げた方がいいと思うがな。まあいい」

下っ端が一斉にかかって来る。

「行くぞ! あれ…… 」

ようやくミスに気づいたらしい。

「どうした? 口だけか? 」

挑発を続ける男たち。これも作戦?


「タイム! 悪い…… この剣ではなかった。ちょっと取りに行って来る」

そんな言い訳通用するはずがないのに。ノアったら馬鹿正直なんだから。

「馬鹿か? 怖気づきやがって! 情けない野郎だ」

「違う! 剣を間違えたと言ってるだろう? ちゃんと相手するから待ってくれ」

まだ言い訳してるよ。もう格好悪いな。こっちが恥ずかしくなる。

これは遊びでもなければ稽古でもない。

真剣勝負。負けたら終わりなのにどうも軽い。


「よし捕らえろ! 」

もはや抵抗不可能と見た敵側のリーダーが動く。

ついに傾国の美少女アーノ姫が囚われてしまう? ああ何てことでしょう?

ちょっと待って…… それではこの世界が終わってしまう。

それだけは何としても阻止しなければならない。

こんなところで捕まる訳にはいきません。でもどうすることもできない。

ノアを信じたばかりに窮地に陥る。


「姫! アーノ姫! 」

ノアはようやく現実に気づいたらしい。もう悪ふざけしてる時ではない。

「邪魔をするな! よし連れて行け! 」

あれ? まだ私は自由…… どうしたのでしょう?

「へへへ… 無駄な抵抗はせずに大人しくしてくだせい姫様」

「触らないで! 」

「おー気が強いね」

そっちはブシュ―で…… どうやら勘違いしてるらしい。

態度が我がまま姫そのものだから無理もないか。

実のところアーノ姫は上品で聡明なお方なんですよ。


大体顔を見比べれば一目瞭然なのにそれをしないで本当に間抜けなんだから。

絶世の美女アーノ姫と田舎の貧相な身なりで土塗れの小娘を一緒にしないで欲しい。

生まれも育ちもまったくの正反対。比べること自体が間違っている。


「ちょっと待って…… 」

ダメだ。いくら違うと言っても聞く耳を持たなければ無意味。

なぜかノアまでが放心状態で助ける素振りさえない。

あなたの大切な幼馴染でしょう? それはこっちとしては鬱陶しい存在でしたけど。

それでも一緒に旅をする仲間でその上勘違いとは言え身代わりにさせてしまった。

罪悪感に押し潰されそう。


こうしてブシュ―は囚われる。

「よし。姫以外に興味ない。お前らは国王にでも報告するんだな。だははは! 」

そう言うと大笑いで行ってしまった。

ブシュ―? どうして身代わりなど…… ああ私はどうすればいいの?


再びノアと二人きりになった。

さあこのチャンスを逃しません。

「ど…… どうしよう? 」

震えるノア。まだここに来ても覚醒できずにいる。

それはとても残念ですがこれも仕方ないこと。


恐らく異世界・ザンチペンスタンで仲間と共に成長していく物語だったのでしょう。

しかし手違いがあってボクが三体に入り込んだためにその成長を阻害してしまった。

勇者・姫・魔王が決して出会ってはならない歪な世界へと。


中途半端な成長で隊長になるだけなった勇者・ノア。

元々人間性と麗しさに秀でたアーノ姫。

互いに戦いを通じて強い心と判断力を磨くはずが……

恐怖の魔王様。中途半端に演じたことで本来の極悪非道の魔王様には程遠いものに。

三者ともにまだまだ。戦いと冒険の種類が変わったためにこのような事態に。

それでもどうにかなっていたのはお助けキャラの面々が上手く動かしていたから。

とは言え限界は見えている。


姫は一日ぐらいでボロが出るようなことはない。

ノーマルモードになってもそのまま演じられていた。

魔王様だって成長やレベルアップは関係ない。一日や二日恐怖の魔王様でいられる。

ですが勇者・ノアは違う。

レベルアップもできずに人間性も磨けずに心も強くない。

逃げてばかりの情けない主人公。

ノーマルモードになれば粗も出るに決まっている。

だからどうにかすべきだった。ですがそこまで気が回らなかったのが実情。

お助けキャラにしても妖精や魔女でもどうにもならなかったでしょう。

せめてノアに信頼の置ける仲間でもいれば違ったかもしれないが今更意味がない。

ああいくら現状を嘆いても始まらない。でも嘆かざるを得ない。


これが私が直面する本当のザンチペンスタン。

間もなく消滅する世界に現れた救世主?


ガンガン

ガンガン

ノアが一心不乱に叩き始めた。

一体何をするつもり? まさかこの消滅の危機から逃れる術を得たのでしょうか?

だとすれば復活のノアとなりますが…… 期待はしないことにしましょう。


「どうしたのノア? 」

「目覚めたんだ! ついに閃いたんだよ! 」

まずい。おかしなことを言い始めた。早く止めないとどうにもならなくなる。

「それは木? 」

「ああもう少しでこの世界が消滅する。その時この方舟が必要になるんだ! 」

ノアはもう正気を失っている。恐怖のあまり現実逃避を起こしてる。

そんな人間をどう説得して導けと言うの? もう限界でしょう。


                 続く

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