小国の王・ドクズ
ノアを連れカンペ―キ洞窟へと考えていたのに馬車には余計な者が一人。
「アーノ姫。ごきげんよう」
微笑みを浮かべ勝ち誇ったかのような幼馴染のブシュ―。
常に邪魔をし私たちの前に立ちはだかろうとする。
本当に現状を理解できてるのでしょうか? それはノアも同様。
まさかノアは本気でこの子と一緒になるつもり?
冗談でしょう? まったく釣り合いが取れてない。
ノアはただ恐怖のあまり逃げて来ただけ。本気じゃない。
本当に情けないんだから。
たとえどうであれノアには役目があるはず。
この世界を救うと言う立派なもの。しかもそれは誰にも知られてはならない。
だから今は少しでも早くカンペ―キ洞窟へ。
今回は難しいことは何一つない。
昨日とは違って能動的なものではなく葬られればいい。
ただそこにいればいい。存在すればいいだけ。
役割は私の方が重大である。
まず私の手でノアを葬る。続けて魔王を伝説の剣で切り刻む。
それらすべてを十二時の鐘が鳴るまでに完遂しなければならない。
「あらあらついて来てしまったんですね? ほら隊長追い出して」
まるで虫を追い払うようにできるだけ感情を込めずに命令する。
王命は絶対。王命は姫の命令を聞くこと。だから逆らえないはず。
「それはできません。王命では姫の我がままは聞くなと。
お前の判断に任せると言ってくださいました」
ノアは正気じゃない。お父様も。ここまで情けないなんて信じられない。
一体私はどうしたらいいのでしょう?
まるっきり言うことを聞かないノアに頭を悩まされるばかり。
とりあえず幼馴染も連れていくことに。
目的はノア。彼さえ連れ出せればそれで構わない。お付きがいようと関係ない。
それにしても忌々しい女。私たちの邪魔ばかりして。
いつの間にか馬車に潜り込んでるんだから。何と言う執念。
ノアの幼馴染。存じてましたがまさかここまでしつこく二人の邪魔をするとは。
ノアもノアです。どうして幼馴染に現を抜かすのか? 今ふざけてる時ではない。
異世界・ザンチペンスタン消滅の危機。本当に理解している?
でもここの者は何も知らない。報せたところで混乱を招くだけ。
言っても無駄なのはよく分かっている。だからノアの協力が必要なのに。
未だに逃げてばかり。本気で向き合わずに何を考えてるのでしょうか?
もう勇者・ノアでも何でもない。ただの臆病な村人。
「どうしたんですアーノ姫? 」
すべて理解してるくせにまるでこちらがおかしいかのような振る舞い。
「もういいです。二人で仲良くしていなさい! 」
心にもないことをつい言ってしまう。
馬車が橋を渡ったところで急にストップ。
これって確か…… 前にもあったような……
確かクマルによる襲撃だった。あの時はうまく逃げたんだったけ。
さあ今回もって…… そんなはずはありませんよね?
だってクマルは姫の見守り係で襲うはずがない。
魔王様の命令も受けてないはずだ。そうすると誰?
「どうした進まないが? 」
ノアが前に確認を求める。
ひえええ! お助け!
情けないことに一人先に逃げて行く。
さあ勇者・ノア。あなたの腕の見せどころですよ。
もうこれ以上はふざけてられない。ふざけさせもしない。
時間がないのですから。一体何のために私たちはここまでに来たのか?
本来ならノアが自らの手ですべてを終わらせられていた。
でもそのやる気もなく結局私がその役目を継いだ。
すべて知っているくせに自分は知らない振り。
それではどうして許されるはずがありますか?
「早く降りてこい! この時を狙っていたんだ! 」
どうやらただの山賊でも追跡者でもないらしい。
仕方なく言われるまま外に出る。
「そうだ。大人しくしていれば危害は加えない」
この人たちは…… 誰だっけ?
「小国の王・ドクズだ! まったく運悪く魔王軍に邪魔され計画はすべて水の泡。
どうしてくれる? ああん? 」
どうやらこいつらが蹴散らされた小国の王。まったくしつこいんだから。
「それで何の用だ? 」
まだ自信満々のノアが対応する。
「姫様を頂こうかな」
恐らく今吠えてるのがリーダーだろう。その後ろに控えるのが国王ドクズ。
そして数名の手下がいる。合計で五名。
魔王軍に蹴散らされてもうこれだけになったらしい。
「それはできん! 」
隊長としての自覚が出て来たらしい。もうちょっと早くして欲しかった。
欲を言えば洞窟の時にでも。
「あれ隊長…… どちらが姫様ですかね? 」
そう言って下品な笑いで近づき幼馴染に手を出す。
「汚らわしい手で触れないで! 」
幼馴染のブシュ―は気が強く状況判断ができない。
これ以上逆らえば捕まった時に酷い目に遭わされるのに馬鹿なんだから。
常識ですが彼女はその手のことには詳しくない。
「へへへ…… こっちのがどうやらお姫様のようですぜ」
ニタニタと笑い続ける。
「近づかないでって言ってるでしょう! 私を誰だと思ってるのよ! 」
そう言ってビンタを食らわすブシュ―。もう困った人。
ノアも止めればいいのにやる気もなく放置。
「違うそっちは…… 」
なぜかブシュ―が口を塞ぐ。どうやら私を守ってくれるらしい。
思ったよりも良い人。でもそうなら逆にこのままではいけない。
何とかしてあげなくては。でもどうすれば?
「勝負しろ! 」
そう言うとノアが剣を取り出す。
これはまさか……
ノアは現在魔剣を所持。これでは魔王様は倒せても人間は倒せない。
魔剣は魔王様専用。どうやらプラチナソードを置いてきたらしい。
こんな時に確認ぐらいしなさいよ。
まだ気づいてないってどういうこと?
さあここは私が何とかするしかないかな。
続く




