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アーノとブシュ―による女の戦い

宮殿にて。アーノ姫によるノア連れ戻し作戦開始。

翼の生えた化け物の背からアーノ姫降臨。

「おお! 姫! アーノ姫! 」

まるで女神降臨のような神秘的な光景。宮殿内は一時騒然とするもすぐに収まる。

まさか誰も姫様が降臨したとは。ただの目の錯覚だと。

だから今回のことは偵察モンスターの暴走で騒ぎが収まった。

そのため報告もなし。


「おお姫様! ご無事で」

「ここにノアがいるでしょう? 隊長のノアを探して! いえ自分で探します」

もはや人任せにしていられない。今すぐ見つけ出さなければいけません。

こうして幼馴染ブシュ―と一緒にいるところを捕まえ話をつける。


「もうちょっとあなた! ノアに無理強いしないでよね! 」

幼馴染のブシュ―は知ってか知らずか止めに入る。

ついに対決か?

「アーノ姫。これ以上は無理を言わないでください」

白々しい。あなたが逃げて来たからこうなってるんでしょう?

ノアの煮え切らない態度にイライラが募りもう限界。


「あなたは勇者・ノアなのよ? この世界を救う義務がある。一緒に来て! 」

あれだけ強気だったノアが口を閉ざし俯く。仕方なく畳みかける。

「あなた隊長でしょう? ノア隊長でしょう? 」

「それは今は関係ないよ」

うまく行くと思ったのに冷静だ。


「関係ない? あなたは魔王討伐隊の隊長なのよ! なぜ戦おうとしないの? 」

「さっきから聞いてれば何なの? 私のノアを勝手に取らないでよ! 」

生意気な小娘が口を挟む。まさかこのアーノ姫に逆らうつもり?

でもあり得ません。彼女は田舎から来て無理やり住み着いたお荷物。

いわば隊には不要な存在。それなのに邪魔ばかりして。

隊長として甘やかさずに厳しくしていればここまで図に乗ることはなかった。


「お願いノア! 話を聞いて! あなたが動かなければどうにもならない」

「ふざけないで! ノアは私と結婚するんだから! 」

ブシュ―が食らいつく。今は黙っていて欲しい。

これは私とノアの問題。幼馴染の出る幕はないでしょう?

「冗談? 私が! 」

「何を言ってるの? 私でしょう? 」

「たかが幼馴染が口出ししないで! これはノアと私の問題なんですから」

煮え切らないので彼女の方をけん制する。

「馬鹿言わないで! 一国の姫なんだから異国の王子と付き合えばいいでしょう?

私たちの邪魔はしないで! 」

黙らせようとしたが正論を言われてしまえば返す言葉が見つからない。

口だけは達者な幼馴染には己の立場と身分を再認識してもらう必要がある。


「あなたはここにいてはダメ。国王様から許された者以外の立ち入りを禁止する。

ただの田舎の小娘がいていいはずがない。さあすぐに立ち去りなさい! 」

さあどうする? 跪いて許しを乞う? ふふふ…… 

あらあら長い軟禁生活にモンスターと触れ合った事で思いやりが薄れてしまった?

ですがこれもすべてこの世界を救うため。つまらない事で時間を潰したくはない。

「はあ? 馬鹿言わないで! 私はアーノ隊長のお供としてここにいるんです。

あなたの指図は受けません! 」

姫を前にきっぱりと言い放つブシュ―。肝が据わっているな。


「私は姫ですよ? それでも従わないと? 」

「関係ない! すべてはノアが決めること。あなたは出て来ないで! 」

「何ですって? ノアも何か言って! 」

「私たちの仲を切り裂かないで! ほらノア」

「ノア! 」

「ノアってば! 」

「悪い…… 」

逃げる最低な男ノア。本当にあなたは私の知るノアなの?

「もう分かった。ノアはあなたにあげる」

ここは一旦落ち着いて様子を見るとしよう。


「あれ…… アーノ姫ではありませんか」

宮殿内では姫の安否を気に掛ける者が。先ほどの騒動はまだ耳に入ってないよう。

しかし現在行方不明中のはずの姫が姿を見せたことで宮殿内は再び大騒ぎ。

事情をよく知る国王の元へ。


再会。

「どうした。先ほど会ったばかりだろう? もう寂しくなって戻って来たのか?」

国王は現状をまだ完全には理解してない。

このままではまずい。時間がないと言うのに宮殿内に閉じ込められてしまう。

「戻って来てくれて本当に嬉しいよ。何か必要なら言ってくれ」

気を遣う国王。我が最愛の娘ですからね。

こちらとしてもすべてを終えたら再び戻ってこようと思っている。

でもそれはボクじゃない。本来の姫様なのだ。

今はボクだ。まだ分裂した三人の一人に過ぎない。

この世界が消滅する前に何としてでも食い止める。

それがアーノ姫の意思。


「お父様お出かけしたいのですが…… 」

国王はお許し下さるはず。娘には甘いですからね。

「ならん! お前は理解してるのか? 狙われたんだぞ? 襲われたんだぞ?」

聞く耳を持たない困った国王。


「こんなにも頼んでるのに? それでもダメだとおっしゃるのですか? 」

顔をおさえ涙を堪える演技をする。

「おいアーノ。困らせるな」

もう少し。もう少しで娘思いで優しい国王は落ちる。いえ理解して頂けるはず。

もう声も発さない。後は察してくれればいい。

表情と仕草で国王をノックアウトしてみせる。


「ねえお父様? 娘の我がまま聞いて下さい」

「まったく仕方ないな。ではキスをしろ」

国王乱心。汚らわしい。

何と親子でそんなはしたない真似できない。

不謹慎すぎるお父様。これでは民に嫌われますよ。

もう本当に最低! 失望した! どうして男ってこうなの?

つい怒りから国王を軽蔑してしまう。


「そんな顔をしないでくれ。分かった訂正する。

キスはしなくていい。そして好きにしていい」

国王は参ったと俯く。

「ありがとうございますお父様。では好きにさせてもらいます」

そう言って頬に軽くキスをする。

これは挨拶みたいなもので特段何か意味がある訳ではない。

アーノ姫の記憶ではそうなっていますがどうでしょう?


「まったく世話の焼ける姫だな。しかし一人では行かさんぞ。

お付きだけでもダメだ」

再び前のようなことがあってはならないと厳しい。

「それでしたら隊長に。いろいろお世話になりましたから」

「そうだな。イマイチ信用ならんがノア隊長なら文句あるまい。では待ってろ!」

こうして思惑通りノアを連れて行くことに成功した。

王命だから断れず逆らえもしない。我がまま姫の思い通りに動いてもらいましょう。

 

馬車を用意してもらい二人っきりで出かける。

もちろん目的地は今朝訪れたカンペ―キ洞窟。最終目的地ですからね。

二人っきりでゆっくりと。

しかし目論見は崩れてしまう。

馬車にはもう一人余計な者が。


                  続く

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