魔女の家
鍵を開け秘密の部屋へ。
「お邪魔します」
一応断ってからそうっと入って行く。
うん? 中には大したものはないみたい。
テーブルの上にただカップがぽつんと。
注がれた中身は完全に冷え切ってしまっている。
その横に薬草みたいなものが。
何かを作ろうとしていた?
とても飲み物には見えない。一体これは何だろう?
秘密の部屋の捜索に没頭していると急に外が騒がしくなった。
「アアン? 誰が姫様だって? わたしゃあそんなんじゃないよ」
「いやお前だ! 」
「しつこいねあんた。違うと言ってるだろう? 」
「いいやお前だ! お前に違いない! 」
外からお婆さんとクマルの言い争うような声がする。
「馬鹿なんだねあんた? 」
「ふふふ…… おい婆さん! 大人しく姫を渡さないと痛い目に合うぜ」
クマルがお婆さんに襲い掛かる。
「ほらよ」
杖を向けるとクマルは空へ。
絶叫が響き渡る。
「まあいいかこれくらいで。ほらもう悪さするんじゃないよ」
クマルは空高く舞い上がるとそのまま落下。すごい勢いで地面に叩きつけられる。
人間なら即死レベル。でも頑丈なモンスターだからただ痛いとだけ。
さすがは魔王様配下のモンスターだけあってタフ。
「この…… 覚えてろよ! 」
捨て台詞を吐いて逃げ帰る情けな過ぎるクマル。
何て素晴らしいのでしょう?
きちんと役割を果たしたクマルに拍手を送りたい。
見込んだ通り。ヘタを打って帰っていく。どんな言い訳をするのか楽しみ。
それにしてもいとも簡単に撃退すこのお婆さんは侮れない。
「あの…… 」
「何だいお客さんかい? 今日は何かと忙しいね」
見た目のみで大したことないクマル。とは言えきちんと撃退したお礼を述べたい。
ついでに家を荒らしたお詫びもしたい。まさかお怒りにならないでしょうね?
「初めまして。私どもは馬車の旅をしています。
あの化け物に襲われ大変怖い思いをしていました。ついこの家に隠れた次第です」
ここは前に出ずにお付きの者に任せる。
さすがに姫を狙ったとなれば何か嗅ぎつけるかもしれませんから。
彼女が何者か分からない以上余計なことは話せない。
「ああ姫様なんだってね」
お婆さんはすでに正体を見抜いてる。
「何のことでしょう? 私どもは馬車に乗っていただけで…… 」
お付きの者にすべて任せてはみたがお婆さんの方が一枚上手らしい。
「占いに出てたよ。偉い方が訪ねてくるってね。部屋を荒らしたでしょう? 」
不敵な笑みを浮かべる。
まさかこのお婆さんは伝説の占い師? それとも……
「申し訳ありません! 姿が見えなったもので。緊急時なのでお許しください」
ここは任せずにしっかり自分の口で許しを得る。
「別にそれは構わないさ。だが隠しごとはなしだよ」
仕方なく自己紹介をする。たぶん問題ないでしょう。
「わたしゃ魔女さ。よろしくね」
不気味な見た目のお婆さん。
杖で撃退したところからまともではないとは思いましたが。魔女とは驚いた。
魔女? 魔女と言えば女神様が何か言ってたような気もする。
「そのカップに触れたかい? 」
「いえ…… 不気味なので近づきませんでした」
「それが正解さ姫様。これはね動物の血だよ。それを混ぜたもの。
下手に触るとただれるから気をつけな。怖いよ。
そもそも鍵かけたんだから入るんじゃないっての! 」
魔女は動物の血と木の実や薬草などを調合して新薬を作ってるらしい。
「今はほれ眠り病が流行ってるからさ。覚醒を促す薬を作ってたんだ」
覚醒を促す薬…… 何て危険な響き?
「それでもう一つの方は? 」
いろいろ漁った結果本棚にも。書に隠れるように黒っぽいものが。
「ああん? あんたプロなのかい姫様? 」
「いえ滅相もございません。それでこれも? 」
「想像に任せるね」
「では何インが入ってるんですか? 」
思い切って聞いてみることにした。踏み込み過ぎたかな?
「カフェインさ。最近はこれが手放せなくってね。
どうだいあんたも寝不足なんだろ? 」
魔女はすべてを知っているかのようにズバズバ言い当てる。
「へえそれはすごいですね。それで占いと言うのは? 」
このお婆さんが優秀なのはよく理解した。危険は承知でもう少し近づくことに。
「占いかい? よく当たるって評判なんだ。ただの趣味だけどね」
魔女は暇な時に占いをしてるそうで随分上達したんだとか。
「ぜひボクを占ってくれませんか? 」
「いいよ。どうせ趣味だからね。金をとるようなケチな真似はしない。
でも必ず言いつけを守ること。それができなければ占いはなしだ」
考えるまでもないこと。お願いすることに。
「ではさっそく。手を見せてごらん」
こうしてお近づきの印に占ってもらうことに。
続く