裏切りのノア
十二日目。アーノ姫行動開始。
さあ参りましょうか。最後の場所へ。
国王と別れカンペ―キ洞窟に入る。
何度となく来た場所。魔王として見学に。
ノアとしても幼馴染と迷った苦い思い出の場所。
案内役もなく真っ暗な洞窟を歩くのは姫でなくとも男であろうと危険。
やっぱり魔女のサポートがないとダメみたい。
最悪クマルでもいい。私を最深部まで誘って欲しい。
恐怖のあまり声が出てしまう。
「ノア! 勇者・ノア! 」
最愛の人の名を叫び続ける。
大声を出せば敵に気づかれる恐れもあるが構いません。
今私は無敵なのですから。
ふふふ…… 敵とは一体誰のことでしょうね?
少なくても魔王率いる魔王軍ではないでしょう。
他国が人質に? それもあり得ません。近くには魔王軍が見張りを立てている。
その合間を縫って誘拐するなど到底できるとは思えません。
だとすれば宮殿内の裏切り者が牙を剥く? ですがそれも考え辛い。
魔王にしろ勇者にしろその辺のことは感じ取ってるでしょう?
勇者だった頃はそこまでではなかったが。
恐れるのは大型肉食獣と言うことになります。
ですがもう太陽も昇っている。問題はないでしょう。
「ノア! お願い返事をして! ノア! 」
きっと心配して姿を見せるはず。
「アーノ姫…… お呼びでしょうか? 」
ようやく問いかけに反応してくれた。
「あなたは勇者ですよね? そして私たちは結ばれる運命」
まるで既成事実であるかのように断定。
これは迷っているであろうノアを勇気づけるだけでなく安心させる意味がある。
「私とアーノ姫が? 」
ランダムな動きをするノア。
彼は前回のボクであるが決して同一人物とまでは言えない。
前回の欠点が消えてより立派な勇者になることだって。
その逆も当然あり得る。
「そうです! 勇者・ノアはこのアーノ姫を救うために存在するのです。
それだけは決してお忘れのないように」
「ははは…… 私はそこまでの人間ではありません。買いかぶり過ぎです」
想いが違う。まだ私への強い想いがそれほどない。あっても薄ぼんやりしたもの。
それがよく分かる。ずっと彼の心を支配してたのはボクだから。
これは比喩とかではなくただの事実。
「思い出してノア! 思い出して! 昨日のことでしょう? 」
どうにかノアに振り向いてもらいたい。
最後の最後に抱き合ってタイムアップを迎えたことを思い出して欲しい。
決して出会えない二人が奇跡の再会を果たした。それだけでも尊いこと。
今改めて再会しようとしている。
「申し訳ありません! アーノ姫は大変素敵で上品な魅力あるお方です。
だからこそこの私では釣り合いが取れません」
てっきり強い絆で結ばれてると勝手に思っていましたがどうやら違ったらしい。
ノアは自分に自信がないのか控えめで決して応えようとしない。
前とは似ているようであってもまったく違う。別の存在。
これは想定外のこと。一体どうすれば振り向いてくれるのでしょう?
「謝らないで! 私ではダメだとそうおっしゃりたいんですか? 」
「いえ…… そうではなく。私では不釣り合いだと申し上げているのです」
ノアの気持ちを簡単に変えられそうにない。
「いい聞いて? あなたは私と結ばれるの! それが運命なのです。
だから余計な気を回さずにうんと言って! 」
もう強引にでも頷かせる。もう今こんなところで押し問答しても無駄。
早く! 早くしないと!
どこまで情けない勇者なの? ここまで私に言わせて断るだなんて。
今はそう言う状況ではないでしょう? 本当にこの人は何を考えてるの?
「でも私は…… 」
どうやら二人の間を切り裂こうとする邪魔者が存在するらしい。
「まさかまだ気にしてるの? 」
「まだも何も。いくら姫様でも無理は行けません。
私には幼馴染のブシュ―がいます。ご理解ください」
ここに来てノアがごねる。
「あなたね! せっかくあなたから受け継いだ思いを無駄にする気? 」
どうしてここまで頑ななのでしょう?
「済みません。こればかりはどうしても…… 」
幼馴染思いの立派なノア。でもここでは逃げでしない。
「お願い! この世界の危機に立ち向かって! 勇者・ノア! 」
アーノ姫の強い思いを乗せて訴えかける。
「ですから姫様…… 」
「どうしてもだめ? 」
「何度も言ってる通り。私には相応しくないのです」
頑固なノア。まさかここまでとは思いもしませんでした。
どうしたらいいのでしょう?
確かに勇者・ノアから受け継いだのに。これでは崩壊は免れない。
どうすることもできないの?
これでは魔王の策略に嵌ってしまう。
魔王は十一日目て姿を見せないと言う反則技で危機を逃れた。
でも今回はそうはいかない。
最深部にたどり着く前に魔王を捕まえて引き立てて行く。
今の私は最強で無敵。たとえ魔王でも抵抗はできない。
ふふふ…… おかしな話ですね。
普通逆ですものね。姫を捕らえるのが魔王。
でも今回はこのアーノ姫様が直々にひっ捕らえる。
そうしてノアに続いて魔王を処分する。
ただそれもバーニッシュエターナルが不発に終わった場合ですが。
どの道目の前にノアと魔王が揃わなければならないのですが。
本当に困った。
私の前に立ちはだかる邪魔者の正体。
それはブシュ―でもなければ魔王でもない。
おそらくノア自身だろう。
バトンを渡しながら邪魔をしようとは何とも始末の負えない勇者である。
裏切りのノアと言ったところでしょうか?
続く




