十二時の鐘が鳴るまでに!
大魔法を解放した魔女からバーニッシュエターナルを授かったアーノ姫。
ついに皆が救われる解決策が見つかったかに思われたが……
あれ待って? だったらなぜもっと前に提案してくれなかったの?
当然女神様も妖精も魔女の能力を知ってるはず。
「ねえ…… 」
追及せざるを得ない。
「いいかい? これは確実じゃない。いつ術が解けてもおかしくないのさ。
それを毎日恐れながら暮らすのは並大抵じゃない。
神経がすり減ってとてもまともな精神ではいられないよ。
これはもしもの時のとっておき。意志の強い者にのみ有効。
今はただ困ってる者の依頼受け細々と暮らしてる。それだと大魔法は必要ない。
魔法だって必要最低限さ。女神様もそのことを分かってらっしゃる。
自分はお助けキャラとしてこの世界に召喚された。
あんたとは僅かとは言え一緒にいた。孫娘のように思ってるんだよ。
だから情が湧いてこんな大魔法を使っちまったのさ。
たぶん女神様も私の大魔法のことは分かっていたと思うよ」
「お婆ちゃん…… 」
「孫娘や! 」
ついにアーノ姫と魔女は本当の意味で心を通わせた。
「ありがとう…… 」
「いいから行きな! もう時間がないんだろ? 」
魔女はすべて察している。
いつもそばにいて相談相手になってくれた貴重な存在。
今別れるのが非常に辛い。悲しくて悲しくて堪りません。
「そうだ。行く前にもう一度練習しておこうね。ほら早く! 」
魔女は授けたバーニッシュエターナルのおさらいをするように促す。
「バーニッシュ…… 」
「どうしたんだい? 声が小さい! それでは失敗するよ」
鬼のような魔女。ですがこちらの身にもなって欲しい。
あそこまで恥ずかしい言葉を真剣に?
バーニッシュエターナルなどと大声で叫ぶなど一国の姫ではあり得ない。
品位を欠いた動きであり言葉。恥ずかしさを通り越して苦しみさえ感じる。
でもこれがないとダメ。大声で叫ばないといけない。
それが運命と言うなら受け入れねばなりません。ですができるなら言いたくない。
「ほらもう一度! 」
「バーニッシュエターナル! 」
もう覚悟を決める。
「よしそれくらいでいいだろう。今の感覚を忘れるな」
「はい! 」
こうして恥ずかしい特訓をどうにか終える。
「ありがとう。一生忘れません」
「おいおい。まさか戻ってくる気がないのかい? 困った孫娘だね」
「それは…… 分からない」
「何を情けないことを言ってるんだい! きっと戻って来るんだよ! 返事は?」
「ハイ! 」
「うん。それでいいのさ。行っておいで! 」
魔女はツンデレラの時に使用したヘンテコな馬車を特別に用意してくれた。
「ほら十二時までに戻って来るんだよ。すべてを終えたら一緒に祝おうじゃないか」
どうやら今度は舞踏会場までは案内してくれないらしい。
招待を受けてるのは勇者・ノアとアーノ姫のみですからね。
会場は新しくオープン予定のカンペ―キ洞窟。
元は古びた洞窟で廃墟のようで誰も近づかない。
そこを勝手に改造して新しくしたのがカンペ―キ。
お洒落な会場に作り上げたそこは最期に相応しい場所。
「ありがとうお婆ちゃん! 」
抱きしめる。強く激しく抱きしめる。
「もう苦しいね。さあ行きな。もう時間がないよ! 」
これで二度目の別れ。
女神様が特別にお与えくださった一日。
そこで動かなくなった魔女にお別れの挨拶をした。
今再び別れの挨拶をすることになるとは思いもしませんでした。
ですがこれが本当に最後です。
「今までありがとうございます」
「嬉しいよアーノ。アーノと呼んでいいね? 」
「お婆ちゃん! 」
「アーノ! 」
こうしてついにアーノ姫は最終目的地へ。
まずはお父様との再会を果たす。
「アーノ姫よ! 愛しの我が娘よ! 」
感動の親子の再会に涙が止まらないお父様。
私はと言うとどうも醒めた目で見ている。
決してお父様が悪いのではありません。私が我がままなのでしょう。
これが二回目だからってきっちり演じて見せる。
まるで一回目のように。感動の涙を流す。
どうと言うことはありません。
「嬉しいぞ。久しぶりの再会につい涙が止まらない」
「ふふふ…… どうしたんですお父様? 国王として恥ずかしくないのですか?」
つい指摘してしまう。
でも国王は何も言わない。私としてもきっと会いたかったと思う。
でも本当は分からない。だって私のお父様は国王様ではないのです。
アーノ姫は仮の姿でしかない。
だから会いたかったかと言われたら確かに会いたかったとは答えます。
それがせめてもの優しさ。騙してる者へのせめてもの誠意。
「どうだ怖くなかったのか? 寂しくなかったのか? 」
優しく包んでくれるお父様。
お父様はかりそめとは言え私のお父様であり民のお父様でもある。
だから本来その愛情を一人で独占していいものではありません。
「はい。お付きの者もいましたし優しくしてくれた方もいましたので快適でした。
ただ暇だったのでそれだけは辛かったですがちっとも怖くも寂しくもありません」
お父様に心配させないように配慮する。
それが娘としての最低限の優しさ。
「ならばそれでいい。ではそろそろ帰るか」
国王はもうすべて解決したものだと思ってる。でもそれは違う。
まだやらなければならないことが残っている。
「ごめんなさいお父様。すぐに帰りますのでお先にお戻りください」
「何を言うか? 今すぐ連れて帰るぞ! 」
ここに来てコントロールを失う。どうしてこうなったのでしょう?
「お願いしますお父様! 」
「うーん。分かったよアーノ。ゆっくりするといい。
私は先に帰るとする。また宮殿で会おう」
こうしてどうにかお父様との再会を終える。
心苦しいですがこれも仕方ないこと。
さあ向かいましょう。最終目的地のカンペ―キ洞窟。
再び向かう決戦の地へ。
続く




