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託された願い 抱き合ってタイムアップ

もうタイムリミットまで三時間を切った。

急いでアーノ姫と魔王様を消さねばならない…… そうか消せばいいんだ?

何も手に掛けなくてもいくらでも回避方法があるじゃないか。

問題はどうやって消せばいいか。

魔女の力を使えばもしかしたら可能?

封印した大魔法を復活させれば対象を消すことぐらいわけない。

もしこのまま魔王様が協力しないようならやはり魔女の大魔法しかない。

待てよ…… 魔王様をどうにかするにせよ大魔法を復活させるにせよ時間が必要。


肝心の魔王様は未だにその姿を見せない。

もはや魔王様などと敬称をつけるのも忌々しい。

もう魔王でいい。魔王は一体どこに行った? 何をしてる?

せっかく気持ちの整理がつきこの世界の消滅危機に立ち向かう覚悟を決めたのに。

すべてを知っていながら己の欲のために謀るとは思いもしなかった。

裏切りの魔王に鉄槌を下したいがそれには魔王を捕らえねばどうにもならない。


この段階で魔王が姿を見せないなら思い切って他の手に出るしかない。

異世界ザンチペンスタンは私の過ちで新たに作られた不安定な世界。

勇者か姫か魔王のどれか一つが生き残るしかない。


確か女神様が言ってたよな。二人に分裂した男の話。

アーノ姫と魔王の活躍で無事に保護した現世からの転生人。

勝手に寝て二人に転生した間抜けな男の顛末。

地味な転生をした二人を捕らた件だがあの時言っていた。

二人を端と端に置いて決して移動させないようにする方法もあると。

結局どうしたかまでは報告を受けてないが……


もしこの方法が正しいなら二人を手にかけずに消せば済む。

魔王は別に始末してもいい。二人を何らかの方法で消せば殺さずともどうにか。

ただそれだといつまで経っても消滅の危険性が残るのだが……

ダメだ! 俺自身も消えなければならない。もう次に託すしかない。

ここは保留するべきだな。


「いいかよく聞いてくれ! 私は君を手にかけられない。だから消滅を免れない」

「そんな! それなら一体何のために私たちは戦ったの? 」

アーノ姫の決意が固い。情けないことを言っても聞く耳を持たない。

そんなの分かり切っていたこと…… 

でも全員が生き残る選択肢がある以上選ばない手はない。


選ばないのは間違ってる。大体女神様が言うことがすべて正しいとは限らない。

勇者も姫も魔王もこの世界において三人の存在が消えたら何の意味もない。

だから俺はすべてをアーノ姫に託すことにした。


「分かってくれ。俺には君を手にかけることはできない。

たとえこれが定めだとしても運命だとしても。その運命に逆らうのもまた運命」

どうにか理屈をつけた。つけないとただ臆病風に吹かれただけと思われかねない。

私は情けなくもないし臆病でもない。ただ一番可能性の高い方に賭けるのだ。


「今更…… 本気なの? 」

「本気だ! もう君に賭けるしかないと本気で思ってる」

「ノア…… 分かった。やってみる」

「ありがとう。これが私なりの救い方だと思う」

そもそも私では救えない。結局のところこの世界を消滅させる側だったのだ。

私以外の人物がこの消滅予定都市を救うべきだ。


「よしでは今からすべての作戦を話す。君はその通りに行動して欲しい」

ついにすべてを託す決意をする。


「ノア! 」

「アーノ姫! 」

互いに歩み寄り抱き合った。

もう一日が終わろうとしている。

今日が終わるまで。タイムリミットを迎えるまでずっと抱き合うことに。


「ノア…… 」

「大丈夫。心配しないでアーノ。君なら絶対に大丈夫だ」

「ノア。でも私怖い…… 」

「それは自分も同じさ。だから怖くない。さあもう一度繰り返して」


時刻は間もなく十二時を迎えるところ。

もうお互いに何も話さずにただ抱き合うだけ。

結局ノアは方舟を作ることもなくすべてをアーノに託した。

これが正しいのか間違っているのかはアーノが責任をもって見届けるべき。


うおおおお!

魔王様の雄たけびが響き渡る。

どうやら魔王様もすべてを悟ったらしい。


タイムアップ!

ついにノアの時間は終了した。

これからはアーノ姫のターン。

三人とも意識を失い元の場所に戻される。

きつく抱き合った二人は再び離されてしまう。


消滅予定都市で再び繰り返される悪あがき。

はっきり言って今回が最後と言っていい。

魔王はそこまで甘くない。

三日目はない。二日目が事実上の最終日。

仮に魔王が約束通り我々に手を掛けてもこの異世界が平和になることはない。

なぜなら魔王様の本当の目的は邪魔な人間を排除し自分たちの国を作り上げる事。

そこには国王も姫も勇者ない。ただ従わない者は徹底的に排除する。

仮に消滅を回避したとしても魔王の絶対支配の元で世界は暗黒時代へと突入する。

これでは消滅を回避した意味がまったくない。

だから今日決着つけなければ世界は終わりを迎えることになる。


決して平穏は訪れない。どんなに願おうがザンチペンスタンは終わってしまう。

それが変えられない事実である以上二日目のアーノ姫にすべて託さざるを得ない。

しかし魔王は一日目と同様何をしてくるか予測がつかない。

従って魔王には充分気をつける必要がある。

逃げようとする素振りがあればすぐに察知し取り押さえるべき。

これ以上魔王に振り回されてはならない。


                続く

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