難敵
どうやらカンペ―キ洞窟には魔王軍以外にも化け物が潜んでいるらしい。
当然魔剣は通用しないし火も効果なし。
無敵のダンジョンマスターを倒すにはどうすればいい?
しかも一匹だけではなく兄がいると抜かす。
それにしてもどうして私は助かったんだろう? 女神様の加護か?
奇跡的に食われることはなかったが正直どうしてなのかまったく分からない。
結局倒すことも倒されることもなく引き分けに終わり協力を得ることに。
「ついでにその兄ちゃんの弱点を教えてくれると助かるんだけどな」
最後の最後まで頼ろうとする悪い癖が出てしまう。
もう三時は過ぎただろう。さあ何としても早くたどり着かないと。
本当にタイムアップになってしまうその前にアーノ姫の元へ。
「弱点? 弱点などあるはずが…… 」
そこで止まる。これは何か秘密があると見て間違いない。
「お願いだ! こっちは急いでるんだ! 」
プレッシャーをかけ急かしてみると焦った化け物がうっかり口を滑らす。
「馬鹿な! 教えられるはずがないだろう…… うわ言っちまった」
そうこれは墓穴。なければ答えようがないし思いつきようがないのだ。
考えずに堂々としていればいい。それができないのが奴なのだろうが。
騙すようで悪い気がするがこれもすべて消滅回避のため。
奴だってこの世界が消滅したら困るだろう。
それに相手の弱点を突くのは当然のこと。基本中の基本。
「意地悪せずにすべて話してくれ。俺たちの仲じゃないか! なあ頼むよ! 」
今さっき戦った敵ではあるがもう仲間。と言うのはあまりにも都合がよすぎる?
もはやどんな手を使っても突破しなければならない状況。
グズグズしていれば消滅は免れない。ここは心を鬼にして強引に頼み込む。
「そんなこと言われてもよ…… 」
よし動揺してるぞ。畳みかければ今すぐにでも吐いてくれる。
さあもう時間がない。これ以上粘ってどうする? 楽になろうよ。
「聞いてくれ。別にお前の兄ちゃんを倒さなくてもいいんだ。
ただどかす方法があれば教えて欲しい」
できるなら格好よく倒したいがほぼ無敵の怪物に構ってられない。
ここは急いで突破することの方が大事。
「いやその…… 」
困ったな…… まだ迷いがあるらしい。ではその迷いを吹っ飛ばしますか。
「あーあこの服気に入っていたんだけどな。汚れちまったよ」
「それは…… 」
こいつはとんでもない化け物。ほぼ不死身と言っていい。
だが私だってそれは同じ。
今日一日は勇者・ノアの時間。すべてを終わらせるために作られた一日。
だからたどり着くまでは無敵なのだ。
本来だったらこの化け物に食われて消化されていただろう。
でも私には使命がある。だからやられることはなかった。
ただどろどろに服が溶けてとても着てられない。
早いところ新調しないと感動的な再会の場面が台無しになる。
それではあまりに格好悪い。
「クソ! 痛いところを! 分かった。だったらいいことを教えてやる」
そう言って耳を貸すように言われる。
少々気持ち悪いし怖いが今日は完璧な上に無敵だからな。
こうして最後の番人と対峙することに。
間もなく六時と言うところ。
あれから二時間以上が経った。
歩きに約一時間。待ちに一時間少々。
教えてくれた通り最深部に繋がる扉の前で鎮座する化け物。
最後の関門として立ち塞がっている。
さあどうするかな?
見ることさえ憚れる醜悪な面構えで動いただけでも地響きが起きそうな巨大生物。
圧が物凄く尋常じゃない涎の量。下手に近寄れば食われてしまうだろう。
そうでなくてもあの唾に触れると溶けてなくなるのは間違いない。
それだけに弱点はないように思えるが次に戦う時に備え研究しておきたい気も。
ただどうなろうとどうせ次はないのだが。
なぜなら消滅すれば当然だが回避できてももうこの洞窟に行くことはないだろう。
そろそろ六時だな。だとすればもう間もなく動き出すはず。
時間には正確だと聞いたが。
涎を垂らしながらトイレタイム。
食事はここで済ませてもトイレだけはここでは無理。
自分の異臭で目が回るし息もできないほどだと弟からの証言がある。
話ではご飯は五時頃に済まし六時にトイレに籠る。もはや習慣となってるらしい。
それもきっかり十分。それが限界だから当然多少早めに終えるだろうが。
少なくても移動も含めて十分はある。それだけあれば当然最深部へ抜けられる。
さあ準備万端。
頻りに辺りを気にする化け物。
化け物でも食うものは食うし出すものは出す。
それが自然の摂理。動物であれば当然逃れられない。
ただ化け物が動物かは微妙なところ。
下手に我慢すれば苦しむことになる。私でもそうなのだからあの大きさなら尚更。
私も一度は試したことがある。それでも十日でギブアップ。
大量のブツであえなく撃沈。
おっと吐き気がしてきた。考えるのも思い出すのもやめよう。
では観察はこれくらいでいいな。
化け物は地響きを立てて自分用のトイレへ歩いて行く。
歩いてると言うことはまだ間がある。余裕があるのだろう。羨ましい限りだ。
最深部へ繋がる扉の前に鎮座した化け物がついにその場を離れトイレへ向かった。
まだ十分ある。ゆっくり化け物が来ないように警戒しながら歩き出す。
明るい! 何て明るいんだろう? 漏れた光から扉の向こうから温もりを感じる。
さあ急ごう。化け物が戻って来る前に。
大丈夫。まだトイレで用を足してるはずだ。
続く




