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嫌な予感

アーノ姫危機一髪。


ううん?

いつの間にか馬車に揺られている。

「どうしました姫。勝手に話を遮っておいて黙るなんて」

お付きの者が立腹気味。

「ボク…… 嫌な予感がするんだよね」

ようやく姫のターン。

急がないとクマルにさらわれてしまう。のんびり馬車に揺られてる時ではない。


「姫様! 唐突に何をおっしゃいます? おかしいですよ」

からかってると思ってるのだろう。

アーノ姫が普段どのように振る舞ってるか分からない。

突然変なことを言う困った姫ならいいんだけどな。

どのみち急いで現状を知らせる必要がある。今目の前に迫る危機。

それは決して冗談や悪ふざけなどではない。

魔王様からの伝言でもある。それをそのまま伝えるのは無理があるから。

だからこんな風に伝えるしかない。

それは姫であるボクだけでなく周りが気が付かないとダメ。


「でもボクの勘は昔から外れたことがないの。

馬車ごと谷底に落ちそうな予感がするの。その前に脱出しよう」

これは勘なんかではない。自分が命じたのだから当然起こるに決まってる。

「ではどうしろと? 」

意外にも聞き分けがある。どうしよう? まだ何も考えてない。

ただクマルなら大丈夫と思って油断しては痛い目に。対策は立てるべきでしょう。

「まず馬車を降りましょう。そして歩くのです」

真に迫る演技で説得する。

とりあえず崖に差し掛かる前に馬車から降りることに。


ぎゃああ!

どこからともなく雄たけびが聞こえる。

これは間違いない。クマル。

何も考えずに馬車に向かって突っ込んでくる。

これではすべてを知る者でなくても誰でも簡単に回避できそう。


化け物に驚き腰を抜かお付きの者。

護衛役の男はすでにどこかへ逃げてしまった。

残るは馬車に一人。ここは二人だけで立ち向かわなければならない。

「大丈夫? 動ける? 」

今ここで一人になったらやられる。いくらクマルでも失敗はあり得ない。

何とかしなくては。でもどうすれば?


「姫様! あそこに小さな家があります。急いで隠れましょう」

クマルが間抜けにも雄たけびを上げたせいで逃げる隙を与えてしまった。

とにかく襲撃者に気づかれないように慎重にそれでいて急ぐ。

お付きを抱えた上に慣れない急ぎ足で転びそうになる。

クマルは異変に気づいたらしい。

馬車にはもう人は乗ってない。

急いで辺りを見回すがこちらに気が付く様子はない。


どうにか小さな一軒家にたどり着いた。

追っ手を警戒しつつ慎重に中へ。

ふう…… 疲れた。もうこれで一安心。

一軒家には誰も住んでいない。

随分前に引っ越したのだろう。


「姫様。はて…… こんなところに家などありましたかな?

いつも通ってる道なのにおかしいですね」

お付きの者が恐ろしいことを言い出す。

まさか私を怖がらせるつもり?

そんなのいちいち覚えてない。それに今日初めてだから分かるはずがない。


「ははは…… 何を言い出すの。おかしいですよ? 」

「しかし姫様だってご存じでしょう? 」

うーん。この手で来たか。何て答えればいいのか窮する。

「ボクはいつも景色を見てるのではありません。ただ馬車に揺られてるだけです」

下手な言い訳をするがこれはたぶん間違っていないはず。

「そうでしたね。どうやら私の勘違いでした」

「そんなことより腰は大丈夫? 」

「はい。今は何とも…… どうやら一時的のようで」

「とにかく中を見てみましょう」


中は殺風景で何も置いてない。机と椅子ぐらいなもの。まるで生活感がない。

ホコリもまだたまっていないのを見るとほぼ毎日掃除しているのでしょうね。

「ちょっとこちらへ」

部屋に鍵が掛かっている。

何度回してもガチャガチャ言うだけで開きはしない。

どこかに鍵が落ちてないか探すとすぐに椅子の影の下に隠れるように落ちていた。

さあこれで開かずの扉が開くでしょう。

期待に胸を高まらせる。本当にドキドキするな。

一体部屋には何があるのか?


「待ってください姫様! 開けるのはまずいのでは? 」

常識人のお付きはこれ以上勝手なことはするなと窘める。

だがそんなこと言っても興味が勝り手が止まらない。

勝手に人の家に入り今勝手に秘密の部屋を開けようとしている。

家主に見つかったらただでは済まされない。


あれ…… こんな呑気にしていていいのだろうか?

クマルのこともあるしそもそも約束だってある。

今から馬車を飛ばしても完全に遅刻でしょうが。

それでもここで探検してる余裕はない。


「止めましょうよ姫様」

怖気づいたお付き。でももう遅い。

「いいから早く開けて! 」

「もう知りませんからね。怖い思いしても自業自得ですからね」

こうして鍵を開け中へ。


             続く

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