父と娘の再会
カンペ―キ洞窟付近。
ガサガサと草の揺れる音がすると無防備なアーノ姫が姿を見せる。
おお…… 何と美しく気高く可憐なのだろう。
遠くからでも容易に感じ取ることができる。さすが一国の姫。
率直に言って感動さえ覚える。
自分で鏡を見た時よりもその衝撃は大きくけた違い。
やはり内から見るのと外から見るのとでは違うものなのだろう。
より美しくなっている。しかしその美しい姫を手に掛けなければならない。
しかも今日中にだ。妖精の忠告を受けたとは言え迷う。
分かっていたことだがあまりにも残酷な運命。受け入れがたい。
ついに勇者と姫のご対面か? 緊張するな。
でもその前に親子の再会を見届けることに。
不測の事態に備えて見える範囲で隠れる。
照れてるのか国王の動きが緩慢だ。
それにしても随分と老け込んでしまったな。
この十日ぐらいの間に十歳は老け込んだろうか?
姫を思うあまり眠れずに魔王軍との攻防でも精彩を欠いていた。
どうやら精神的疲労で参ってしまったのだろう。
無理もない。心労が祟りそれがもとでご病気になられでもしたら大変だ。
突然の別れからずっと再会を夢見ていた国王。
口癖のようにアーノはまだかやいつ会えるのかなど毎日うるさいぐらい。
追及をかわすのもいい加減面倒になっていた。
その時を迎えたと言うのになぜか照れてばかり。
まずは親子の再会を果たしてからこちらの用事を済ます。
では邪魔にならない程度にもう少し離れたところで様子を見守るとするか。
私は一応はまだ国王の指揮下にあるのだから。
離れてすぐに魔王軍に遭遇。どうやらカンペ―キの部隊らしい。
「おいお前そこで何をしている? 」
魔王様を恐れる情けない奴らのくせに生意気な口を利く。
うわ…… こんなタイミングで来なくても……
二人に気づかれる前にどうにかしないと。
「まったくお前たちは…… カンペ―キの教育がなってないようだな」
自分は人間に変装した魔王様だと伝える。
そうするともう青くなる。青くなったまま立ち去ればいいのだが知恵を働かせる。
「ウソを吐くな! 魔王様には先ほどあったばかりだ! 」
どうやらハッタリは通用しないらしい。
「ボグ―! ボグ―」
魔王様のように雄たけびを上げれば怯む。条件反射になってるようだ。
「ふざけるな! 調子に乗るな! 」
そう言って向かって来る。
「おいやめろって! 気づかれたらどうする? ここは静かに戦おうぜ」
「何だと! たかが人間の分際で何を抜かす! 」
ついに戦う羽目に。
五匹のモンスターが円状に広がって仕掛ける。
相当恐れられてるんだろうな。私が何者か正体が掴めないからな。
元魔王様であるのは間違いないが忠告しても聞きやしない。
ではとっておきのをお見舞いしますか。雑魚を相手してるほど暇ではない。
モンスター対策用に度数の高いお酒を用意。
下品にも酒を盛大に吹き周りをお酒塗れにしてから火をつける。
こうすることで結界を張る。
「動くな! それ以上近づけば容赦しないぞ」
一応の忠告。
だがその結界をいとも簡単に踏み越えたところで火を放つ。
自分にはファイヤーの魔法もないのでこんな原始的な方法を使うしかない。
「うわやめろ! 何をする! うぎゃああ! 」
一気に五匹まとめて火あぶりにする。
一応は忠告したのに結界を破って侵入したからこんな目にあう。
もう物語も終盤だからな手加減はしない。
もう魔王様として手下どもへの慈悲はないと言っていい。
あるとすればクマルぐらいだろうな。当然奴も向かって来ればそうはいかない。
五匹を倒し邪魔者は排除した。
しかし魔王様として過ごした日々で奴らの弱点は嫌と言うほど。
モンスターは火に弱いのだ。脆く崩れ落ちてしまう。
その醜悪な見た目から想像がつかないほどの脆弱さ。
おっと…… 邪魔が入ったな。さあ二人はどうしてるかな?
「お父様? 会いたかった! 」
「ははは…… うんうんそうだろう。そうだろう」
そう言って優しく抱きしめる国王。
感動的な再会の場面に立ちあえて嬉しく思っている。
「実はこのためにノア隊長が付き添ってくれたんだ。隊長? どこだ? 」
国王は私を紹介しようと叫ぶがさすがに応じる訳には行かない。
なぜなら我々は秘密の関係にあるからだ。
仲間であり恋人だったりと同じ目標のために戦った同志。
たぶん今の彼女は忘れてるだろうがきっと会えば思い出すに違いない。
一時的に記憶喪失になった彼女を助ける恋人であるかのよう。
それほどロマンチックなんだろうがこれがギャグでファンタジーだから。
どうしたって感動より笑いが先に来てしまう。
「お父様? どなたかをご紹介なさるんでしょうが私には分かるような気が」
アーノ姫も昨日までの記憶を多少なりとも持っていたらしい。
これなら出会ってすぐにでもすべてを思い出すだろう。
「いやどうやら隊長は恥ずかしがりのようだ。ははは! 」
「ふふふ…… もうお父様ったら」
親子の何気ない会話。まるで平和な世界そのもの。
だが実際はあと三日もすればこのヘンテコな世界は消滅してしまう。
「なあアーノ姫よ。どうだもう宮殿に戻ってはくれぬか? 姫がおらねば」
まだ何一つ解決してないが国王の中ではすべてが終わったと考えてるのだろう。
「ハイお父様! ぜひとも。ですが私にはやることがあるんです」
アーノ姫は退くことなく己の運命に立ち向かおうとしている。
そうどうしようもない運命に誘われてしまう。
すべての事情を知っている私には複雑で胸が痛む。
続く




