もしものために女神様決断する
その頃現世では……
キャピタルのとある病院。
異世界転生の原因となったマンホール落下事故の被害者が入院中。
現在も意識不明の重体のまま。心肺停止となっている。
ここからの生還はまずあり得ない。
奇跡でも起きない限りそのままお亡くなりになるパターン。
残すは家族への確認作業のみ。
医者が死亡診断書にサインすればそれでお終い。
現実的にも社会的にも確定してしまう。
その時が刻一刻と迫っている。
「先生が来ましたよ」
最後の淡い期待も打ち砕かれるのか?
再び始まりの地。
異世界の行く末を見守る女神様と妖精。
「まだ今のところ正式には亡くなられてないみたいですよ女神様」
<分かっております。まだ望みがあると信じています>
「ではまさか…… 」
<はい。少なくても彼は助かるかもしれませんね>
そう。異世界への転生をあまりにも急いで進めてしまったから。
完全に息が絶える前に招き入れてしまった。いわゆる仮死状態。
当然だが現世と始まりの地とでは時間の流れが違う。それは異世界も同じ。
現世が一時間の場合始まりの地では約一日となる。
異世界でもそれはほぼ同じだが細かくは異なる。
その微妙な違いを読み間違えたから一日多くなった訳で。
まだ正式に亡くなっていない者を召喚したのは運命のいたずら。
もし心肺停止していても衝撃を与えれば蘇生する可能性もゼロではない。
ただ仮に蘇生しても僅か一分かそこらで息を引き取ってしまうことがほとんど。
家族と最後の挨拶に。
「仮にもし女神様があの男を復活させることができたら。この世界は…… 」
妖精はそこで口を噤む。
楽観的なのは決して悪くないができることとできないことがある。
それと復活とは厳密には違う。生きてる者が生き返ることも復活することもない。
元々生きているのだから。
そのことに気づいたから妖精も口を閉ざした。
<そうですね。少し本気を出せば現世に戻ることも可能でしょう>
「でしたらさっそく…… 無駄に戦わなくて済む」
<誰が望んでいると言うのですか? >
「あの愚か者が望んでいるかと…… 」
<果たしてそうでしょうか? あの日までの彼を見る限り現世に戻りたいとは>
「しかし異世界が滅ぶならその方がいいに決まってます」
<ですからそれは異世界が滅びると言う事実に基づいた相対的なもの。
比較すれば確かにそうでしょうが現世に絶望していたことに変わりがありません。
そんな方を無理やり現世に戻すのはどうでしょう? 彼のためにはならない>
「そんな! でもせっかくすべてがうまく行くかもしれないのに選べないと? 」
<そんなことはありません。彼が本当に現世を望むならその扉も開かれるべき。
そうでないなら安易に我々が勝手な行動を取るべきではないのです>
「だったら今からでも彼を説得して…… 」
<それは最早私たちの領域を遥かに超えてます。ここは大人しく見守りましょう>
「では私たちは何もできないと? このまま指を咥えて見ていろと? 」
<いえ。すべてが失敗してもいいように準備すべきでしょうね>
「ではまさか…… 」
<はい。後のことを頼みましたよ>
女神様はついに現世に降り立つ覚悟を決める。
現世で不運な事故で一度は亡くなったと思われた男の魂の回復のために。
ただ女神様はそのままでは下界には降りられないので変身することになる。
<では行ってきます>
こうして始まりの地から女神様が旅立たれた。
もしもの時に助かる命があるならば助けるのが女神様の役割。
それを自覚してるから現世にまで干渉する。
しかし本来なら自ら決着をつけるべき問題。
ただ今回は思いがけない幸運と信じられないほどの幸運が重なった。
幸運と幸運が重なることで今まで決して起こり得なかった奇跡が。
もちろん寝たことで三体に変化した不運は変わらないのだが。
思いがけない幸運とはずばり愚か者との関係を深めたこと。
本来であれば最初だけ。一転生者にここまで深く関わることはない。
それともう一つ。現世が消滅の危機を逃れたこと。
そして信じられないほどの幸運とはまだ仮死状態なだけで生きていたこと。
ではこちらも用は済ましておきますか。
異世界・ザンチペンスタンには他にもう一組招かざる客が。
皆の協力もあって二人は姿を見せる。
一人は魔王様に返り討ちに遭った身のほど知らずの賞金稼ぎ。
クマルによって小さな離島に隔離された。
今ザンチペンスタンの者たちは皆動きを止めている。
こんなことはまずないだろうからこの機会に異分子である彼らに会うことに。
妖精は女神様の代理をする形で小さな島へと降り立った。
これは大きな賭けだ。そもそも女神様不在に妖精が留守を預からないでどうする?
それでも絶体絶命のピンチでは行動あるのみ。
仮に留守してる間に転生者が始まりの地にやって来ても無闇に寝ない限り大丈夫。
今のところ転生者の情報はない。とは言えいつ来るか分からない。
急いで用を済ます必要がある。
ただ無断で寝るような愚か者はいないだろうが。
愚か者の傾向は偏見ではあるが若い男に多い気がする。
さあ急いで用件を片付けるとしましょうか。
名もなき離島にはこれと言って大きな生物は生息してない。
さすがに彼もここでサバイバル生活を強いられるとは思っていなかっただろう。
この無人島で軟禁されている。
魔王の手下の監視下に置かれ行動の自由を制限されている。
現在そのモンスターがいないのが現状。
狭くない島を飛び回ること一時間でようやくそれらしき人物を発見。
相変わらず賞金稼ぎの性は抜けないのか獲物を見る目は鋭い。
だがそれは魔王様でもなければモンスターでもない。当然人間でもない。
獲物は魚だ。仕掛けを作りより効率的に獲物を捕る技術が向上している。
おっと何て豪快な食べっぷりなのでしょう? 私には到底真似できない。
離島でのサバイバル生活が板について来たようだ。
続く




