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夢のような出来事

引く続きアーノ姫のターン。

ミッションコンプリートしロイデン村から戻ってきたところ。


ドンドン

ドンドン

いつの間にか寝てしまったらしい。窓の外からの連打音で目が覚めてしまう。

どうせまたクマルでしょう? 非常識なんだから。

目をこすり立ち上がる。

雨が降って来たのか微かに雨音が混じる。


ドンドン

ドンドン

もう人がせっかく気持ちよく寝てたのに邪魔をする。

一体誰がこんな隠れ家にやって来ると言うのでしょう?


いつの間にか魔女は姿を消したらしい。

もう肝心な時にはいないんだから。

仕方ない。お相手しますか。

お客を中へ入れることにした。

それにしてもこんな夜中に一体何の用があると言うのでしょう?

急用だとしてもやり過ぎ。本当に迷惑なんだから。


「あなたは…… 」

勇者ノアの姿があった。これは一体どういうこと?

決して出会ってはならない存在だと言うのにその彼が目の前にいる。

ああ! どうしたらいいの? どうしたら……

驚いたことにもう一人いる。

同じく出会ってはならない存在。


「あなたはまさか…… 」

魔王様の姿を捉えた。

これはどうなってるのでしょうか? まるで悪い夢を見ているよう。

ついに運命の日前日になぜか三人が集結してしまう。

さあこれから何が起きることやら。


ボクたち三人は互いに会ってはならない。

出会うことを許されない関係。

だからこそ常に相手の位置を確認して互いに距離を取り合っていた。

ノアが宮殿に行けばアーノ姫は隠れ家に。魔王様が動けばノアが留まる。

そうして鬼のいない鬼ごっこを続けて来た。

それがなぜか運命のいたずらで出会ってしまった。

会いたいと思っても会えないのにいつの間にか集結。


ドンドン

ドンドン

いやああ! 来ないで!


ドンドン

ドンドン

いやああ! お願いもう止めて!


いやああ!

「どうしました姫様? 」

「消滅する! 消滅…… 」

「姫様? アーノ姫? 」

目の前には醜い魔女の顔が。

年齢不詳の見た目。深い皺が顔にも手にも。

助かった…… どうやら悪い夢を見たらしい。

「本当に大丈夫ですか姫様? あまり心配させないでくださいね」

「ああ変な夢を見たみたい」

「それはそれは可哀想に。さあお水でも飲んでゆっくりおやすみなさい」

「うんありがとう…… 」


夢を見るのって久しぶり。

眠ってしまえばノアか魔王様かあるいは女神様のところに。

今回は僅かな時間とは言えきちんと夢が見れた。

でもそれは何か変化したことになる。予兆?

まるで物語の終わりを意味しているかのよう。しかもこれとは違う何か……

ああどうしたのでしょう? もう自分ではどうすることもできない。

終わらせたくないのに……


酷くうなされていたらしい。汗がびっしょり。

着替えなくてはならないほど。

どうやらこの世界の消滅は止められそうにない。


不吉な夢…… でもそれは違う。ボクが望んだ夢に違いない。

魔王様はどうか知らないが勇者・ノアとは一度じっくり話したいと思っていた。

ボクがアーノ姫になってる時はおそらく通常のノア。

ボクが転生する前の立派な勇者。

興味がないと言えばウソになる。それは魔王様だって同じこと。

でもこれってどう言うことだろう?

プラスに考えれば願いが叶ったと言える。

でももしそうではなくただ次に行かないとすればこれほど悲しいことはない。


たぶん期限は残り三日。

女神様の話を総合すれば明日は勇者・ノアとして過ごす。

そして…… この世界の崩壊を食い止めるために決断しなければならない。

それはとてもとても辛い決断。

ボクの我がままやつまらない願望で躊躇すれば世界即ちボクたちが終わってしまう。

すべてが終わってしまうことになる。

それだけはどうしても避けなければならないこと。


頑張ってね勇者・ノア! この世界を救ってね。

自分が転生しただけでなく三つの人物に乗り移ったことで不安定となった世界。

それを改善するためには一つになるしかない。

考えても考えてもこれ以上の作戦はなかった。

もう覚悟を決めるしかないのでしょう。

残念ですが世界を消滅させる訳には行かない。

それだけは分かって欲しい。特に勇者・ノア。

すべては彼に掛かってる。彼と言うか自分と言うか。

もう一人の存在である者たち。


「どうしましたか姫様? 眠れませんか? 」

魔女は心配そうに見つめる。

「ねえ三人が一人になる以外の方法ってないの? 」

もうこの際だから思い切って聞いてみることに。

魔女である以上その辺のことも誰よりも詳しいはず。

ただ女神様に打つ手がないのだから無理なんでしょうが。

これは藁をもつかむ話。


「まずこれだけは申し上げておかなければなりませんね」

そう言って昔話をするように語って見せる。

今夜が最後だと思うと何だか寂しい気がするな。

「いいですか? 一人になることを恐れてはなりません。

元々が一人の人間だった。それが三つに分裂して今の姫様ができあがった。

それはとても信じられない奇跡だと思います。

だからなるべくこのままでいてもらいたい。

しかし同時に厄介な存在でも。決して一人になることを恐れてはならない」


「大事なのでもう一度。これまで過ごしてきた日々を思い感情的になるのは当然。

とは言えこの世界では一人。それこそ今まではお試し期間。

どれが正しいのか己で判断するべき。

そうでなければあなたの存在意義はなくなってしまう。

もう姫様だとも勇者だとも魔王様だとも思わない。

ただあなたと言う存在が試されている」


「今こそ一人になるのです。分裂した三つの魂を合わせる。

そのためには器を一つに決めそれ以外を排除するのです。

これこそが明日以降のあなたに課された使命。

いくら抵抗しようと世界の摂理は変えられない。

変えてはならないのです」


「さあ姫様。アーノ姫よ今は寝るのだ。そして人類の未来のために行動するのです。

それがあなたに残された使命。最後の使命。

その使命を必ず果たしてくれると信じているよ。

長くなったがこの国ためにも人類のためにもその判断を誤らないで貰いたい。

切に願うところさ」


まるで子守唄のように心地よい響き。

もう怖くない。そしてもう迷わない。

ボクは決断する。この世界にために。皆の幸福のために。


「おやすみ姫様。ゆっくり寝るといい」

こうして最後の挨拶を終える。

もう残されていない。

世界の終りまでのカウントダウンが開始される!


                 続く

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