メインディッシュ
三品目が登場。
<サラダ>
うわ普通。
バリバリと心地いい音がする。
「お客様申し訳ございません! 青虫とエスカルゴとバッタが混入して……
うわわ…… 何でもありません」
料理人は慌てて謝るがもうすでに口に入ってしまったのを見て必死にごまかす。
「どうです創作サラダのお味は? さきほど思いついた会心作でございます」
適当なことを抜かしやがって。何てものを食わせるんだ?
いくら不死身の魔王様でも腹を壊すのは免れないのだぞ。
「うむ。いい食感だ。タンパク質も豊富で。ただ三品目にしては味気ないがな」
はっきり意見と改善点を述べる。
「そうですか。では次回の参考にさせて頂きます」
どうやら創作サラダは好評のようで皆一瞬で食い終わる。
もう少しまともなものを食べさせろよな?
魔王様だからいいと言う問題ではないだろう?
でもここは我慢我慢。魔王様がこの程度のことで怒り狂って堪るか。
それに最悪タダにしてもらえばいいさ。
うわ…… それはいくら何でもセコイか。
続いて四品目。
「レンチンチャーでございます」
どうやら今度はご飯ものらしい。
至ってシンプルなチャーハンなのだが……
期待以下ではあるが普通の一品だから逆に調子が狂う。
まさか具の方がとんでもないことになってないよな?
食ってみて判断するしかなさそうだ。
「うんいい香りだ。強烈で鼻が詰まっていてもその臭みがよく分かる」
匂いもよく味も大雑把だが悪くない。
ちょうど飯を欲していたところ。
「はい世界各国の香辛料を使いましてライスを炒めたものです」
「ほうそれはそれは。道理で癖が強い訳だ」
「はい隠し味の代わりに三日ほど置きました。それをチンしたものです」
「ははは…… 凝っているな」
「どうです? 蕩けるでしょう? 明日には地獄のような苦しみが待ってますよ」
何と言うものを出しやがるんだ。もはやわざとだろう?
さっきから間違ったの失敗したのと言い訳ばかりの上に舌打ちまでする。
どうなってるんだこの店は?
「ボグ―! ボグ―! ボグ―! 」
怒りのボグ―三連発でどれだけ怒りに震えてるかを表現する。
本来人前ですべきではないのだが怒りを表現するにはちょうどいい。
「おいこら! 魔王様がお怒りになられてるぞ。いい加減まともなものを出せ!」
さすがは魔王様に忠誠を誓うだけある。魔王様がわざわざ出て行く必要もない。
大人しく見守るとしよう。
ここまですれば奴らだってふざけたことはもうしないだろう。
これ以上怒りに触れればどうなるか分かったものではない。
それは魔王様自身がそう思うからな。
「へヘイ! 今すぐ取って参ります」
口だけなんだよな。もう少し恐怖で震えてもらうかな。
「ボグ―! ボグ―! ボーグ―! 」
怒りの感情を高める。
「おい何をしてる? 今すぐにでもどうにかしろ! これ以上は危険だ! 」
慌てる。それほどどうしようもなく怒り狂っている魔王様は久しぶりだろう。
クマルの失敗だって笑って許したのだから。
「急げ! 超特急だ! 」
「ハイ! お許しを! どうかお許しを! 」
そうやって反省した振りされてもな。
こうして急かされるようにメインディッシュが運ばれてくる。
いい匂いだ。これは期待の一品だな。
それでは機嫌を直して料理の説明をしてもらいましょうか。
但しこれ以上のミスは許されない。
そんな緊張感の中震える手でメインのお皿を持ってくる。
もうこれはどうなるか分かること。
「これはこの村で取れた…… 」
つい滑って皿を投げてしまう。
「熱い! 何をしやがるこの野郎! 」
つい地が出てしまう。ああ何て情けない。しかしこれ以上の悪ふざけ許されない。
「申し訳ございません! どうかお許しください! 」
こいつらどれだけミスをすれば気が済むのだろう?
その時。クマルが目に浮かぶ。
クマルは常にミスをして俺の高度な願いをすべて叶えてくれた。
思い通りにコントロールできた。
だからこそ今回はクマルに免じて許すべきなのだろう。
それくらい当然だ。
いくら魔王軍の部下で右腕だとしても処分もせずお咎めなしではバランスが悪い。
他の者にも示しがつかない。だから今回のこともすべて笑って許すしかない。
クマルがいたから奴らも許された。
それだけ俺が甘やかした結果に過ぎないが。
「うむ。寛大な心で許そうぞ。急いで新しいものを用意するがいい」
こうしてすべてを水に流すことにした。
「では改めまして代わりの品を。メインディッシュとなります」
料理人と店主が謝罪してから新たな品を持ってくる。
さあこれでもう嫌がらせやおかしなことはしないだろう。
目が光っているぞ。そう思わせるのが魔王様のやり方。
「ほうそれでどのようなものかな? 涎がでそうだな」
お洒落にも銀色のフタがされている。
しかもそこから得体のしれない冷たい空気が漂う。
「うん? 冷たいぞ…… 」
「フタは自分の手で開けてもらってそれから…… 」
「ボグ―! 」
つい興奮して雄たけびを上げる。
「何を恐れているのですか? スパッと開けてみてください」
そうやって迫る料理人。まさかこの魔王様が怖気づくはずないだろう?
ただのこけおどしに過ぎない。
ではオープン。
シュワシュワと溢れた白いモヤのようなものが広がり全体を包み込むような感覚。
「これは一体何だ? 」
「ジビエ肉のドライアイス仕立てでございます」
気取った食べ物。ようやく満足のいくものが供された。
「寒気がしてきたが気のせいかな? 」
「どうぞお召し上がりください」
ジビエ料理とはこれはめずらしい。
「それでどのような動物の肉だと? 」
興味がある。臭いは強烈。味も濃い味付けで悪くはない。
「これはモンスター肉を作ったジビエでございます」
とんでもないことを抜かす料理人。
「はあ? もう一度申してみろ? 」
「ですからモンスター肉を使ったステーキでございます」
「ははは! 共食いさせるとはいい度胸してるな」
さすがに何とか堪える。果たして本当に堪えられるか?
愚かな人間どもの愚かな行為だと嘲る。
だが手下の魔王軍が黙ってはいない。
「おい! 何てことをしやがる! 」
料理人はモンスターに囲まれてしまう。
「これが当方の精一杯の歓迎の仕方。文句があるなら他に行きな! 」
「何だと? 魔王様に何てものを食わせやがる! 」
怒り狂うモンスターをもう誰も止めることはできない。
ついに取り囲まれてしまう料理人と店主。
「魔王様に謝って違うものを持ってこい! 」
恐怖で従属させようと大声を出す。
「しかしこれは当宿の自慢の一品でして……
文句があるなら食べなければいいだろう? 」
怖いもの知らずの料理人。それをどうにか宥めようとする店主だったが一転する。
「そうだ。今更何を言う! 」
もう収まりそうにならない。
こうして締めのデザートを残して魔王様はお食事を終える。
最後まで行けなかった。ちょっともったいないが仕方がないか。
いい時間稼ぎになっただろう。
続く




