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魔王様の危険なお食事

ロイデン村。お食事処。

ターゲットの愚か者をついに確保。

これにてミッションコンプリート。

後のことをアーノ姫に化けた魔女にすべて任せてお食事に。

ただここまで来てのお預けだから士気も下がってるだろうし言い訳も難しい。

手下を宥めつつロイデン地方の郷土料理を堪能することに。


「魔王様。のんびりしていて本当によろしいのですか? 」

急げと催促する。まさかこの魔王様に逆らうつもりなのか?

「ははは! 何を言う? この魔王様に抜かりなどない。大人しく見守ってろ!」

これくらい強く言わないと聞かないからな。

「しかし不老不死の実を目の前にし足踏み。何とももどかしいではありませんか」

反論があるようだ。しかしそう簡単なものではない。


魔王様としては絶対にこれ以上動けない。動けばそれだけマイナスに。

だが魔王軍にとってはこれ以上ゆっくりできない訳で。

お互いの置かれた状況が正反対だからどうにももどかしい状況が続くことになる。

「いいから食わんか! せっかくの歓迎だ」

当然歓迎などするはずがない。中身が何かも分からない。得体のしれない食べ物。


「里で採れたキノコでございます」

さっそく来たな。ではまず一口。

シンプルに塩のみで食せとのこと。

この地域伝統のキノコを使った一品。それはそれは美味そうだ。

味見も毒見もせずにかぶりつく。


うわああ!

大声で駆けて来た料理人。その手には包丁が。

この魔王様を刺すつもりか? それはあまりに大胆過ぎないか?

ただ攻撃される分にはどうにでもなるが。

そんなことをすれば村に一軒しかない店が潰れるぞ。


「どうしたお前たち騒々しい! 」

店主が窘める。

「申し訳ありません! よく似ていたものでつい間違えてしまいました」

頭を深々と下げる料理人。どうやらこの男たちが食材調達を任されたのだろう。

「わざとではないのです。これは不運な事故で。どうぞお許しください」

そう言って言い訳するがちっとも要領を得ない。


「ああん? どう言うことだ? これが何だと…… 」

シンプルに毒キノコだそう。しかも強毒性らしい。

「美味いな。うん美味い。魔王様も食べてみてください」

毒キノコだと言うのに魔王軍の奴らは平気らしい。

「この刺激がいいんだよな」

「そうそう。普通のキノコでは出せない痺れにヒリヒリ。これが癖になる」

どう考えても危険なものを勧めやがる。こいつら狂ってるな。

魔王様を何だと思っているのだろう?

「どれどれ…… うん確かに。これは美味いな。よしお代わりを頼んだぞ! 」

刺激があまりにも強いので癖になり止まらなくなる味。

パクパクと箸が止まらない。

それにしても間違えてこんなに大量に毒キノコを? 絶対にわざとだろうな。


「美味ですよね魔王様」

「おいそれ以上食うな! 」

「何でですか魔王様? ケチケチせずに…… 」

甘やかし過ぎたな。これは後できちんとお仕置きしないとな。

「結構なお味で。さあ次を頼むぞ」

さすがに全部食い尽くせない。店に悪いからな。


「ちっ! 」

舌打ちをする店主。毒殺を狙ったらしい。

気をつけなければ怒りは相当なもの。しかし我々は奴らに何かした覚えはないが。

ただ害をもたらす輩は徹底的に排除に動いたのだろう。分かるがやり過ぎだ。


手を叩いて次を要求する行儀の悪い奴ら。

「バカ野郎! 急かすんじゃない! 」

「しかし魔王様…… 急いで飯を食ってしまわないと時間が無くなります」

どうも魔王軍の奴らは余裕がない。

頭がさほど回らないのかどいつもこいつも同じようなことを言う。

こっちだって早く済ませ隠れ家に戻りたいわ。しかしそうもいかない都合がある。


絶対に姫と接触してはならない。

それが守られなければ罰としてこの世界が消滅してしまう。そんな罰ゲーム嫌だ。

冗談では済まされない展開。もうどうすることもできない。

とにかく今は一分でも粘って時間を稼ぐ。疑いの目で見られようと構わない。

ここはゆっくりじっくりと。


二品目が供される。

「ゲテモノの刺身でございます」

「ゲテモノだと? 魔王様に何てものを食わせる気だ! 」

手下が興奮するので止めに入る。

「いや待て。それでこれはどんなものだ? 」

「はい近くの湖で取れた珍魚で通称ゲテモノ」

フライにするのが一般的だが今回は特別にそのまま刺身にすると。


実食。

「参りました! 」

おおおお!

歓声が上がる。魔王様にも苦手なものもあると大騒ぎ。困った奴らだな。

生魚はちょっと…… これは転生前の記憶がそのまま。

毒キノコは食べるところまでは普通で違和感はない。しかも初めてだから。

それに対して生魚は匂いにしろ味にしろダメなのだ。

やはり通常通りフライにするべきだろう。


「うん? 何だこれ…… プヨプヨ動いてるな」

何かと神経質な手下の一人が目ざとく動くものを発見。

「これは一体何だ? 」

「ハイ…… 単なるプランクトンで…… 」

「ウソを吐くな! 正直に白状しろ! 」

手下たちが迫る。魔王軍は品がないと言われそう。


「そのあの…… アニーサ。精霊アニーサが祝福しているのです」

何だか訳の分からない言い訳を繰り返す。

「ウソを吐くな! これは何だ? 」

「事実でございます。アニーサとその妹アニサカスです」

姉妹の精霊だと無理のある説明を受ける。


「まあよい。これは口に合わない。下げてくれるか」

「ちっ! 」

「ああん? さっきから舌打ちばかり。何か不満や文句があるのか? 」

「いえ滅相もございません。では次に参りましょうか」


さあそろそろメインディッシュかな?


                 続く

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