消滅予定都市・ザンチペンスタン
異世界・ザンチペンスタンについて妖精から詳しい話を聞く。
それでも分からない場合はノートを見るようにと。
『異世界の手引き』改訂版を渡される。
「待って。最後に大事なことを忘れてた。これは女神様からお願いします」
もったいぶって女神様に。まさか責任逃れか?
こうなったのもほぼお前のせいだろう? 今更責任回避してどうする?
元々二人が監視を怠ったから俺が酷い目に遭ってる訳で。その罪は重い。
もし訴えたら勝てるだろうな。だがどこの誰に訴えればいい?
ああ女神様! お教えください。この迷える子羊にどうかどうか寛大なご慈悲を!
何っちゃって。ははは…… おっとふざけ過ぎた。
<実は大変なことが分かったんです。あなたは一か月以内に消え去ります。
なぜならこの世界が消滅するからです>
予言者はことあるごとに妄言を吐く。だが実際に消滅したことは一度もない。
だからこれは信じるに足らない嘘や妄言。
ただそれは現世のお話。ではこの入り組んだ異世界ではどうか?
女神様はここでは絶対。信じるに足りる存在。
嘘を吐くはずもないしいたずらに人心を惑わすような真似をするとも思えない。
それに非常に興味深いお話でもある。
ああでも面倒臭いな。明日にしてくれないかな。今は姫の安否が気になる。
あのクマルに襲われてるかと思うといても立ってもいられない。
うーん。どうしようこれから?
「女神様どうかこの迷える子羊をお救いください! 」
慈悲深い女神様に救いを求める。
<いいですかよく聞いてください。このままでは一か月以内に消滅します。
世界があなたの存在に耐えきれなくなり消滅してしまうのです>
何度も何度も消滅と言う物騒な言葉を口にする女神様。
俺はどうすればいいんだ? ここは聞き流すか?
聞かなかったことにできたらどれだけ楽か。
それでも現実は変わらない。恐らくこのイカレタ世界は消滅するのだろう。
しかも俺が不用意に眠ってしまったばかりに取り返しのつかない事態に。
どうしたら…… 一体どうすればいい?
「回避する方法はないんですか女神様! 」
回避方法さえ分かれば異世界でスローライフができる。
無理して戦う必要も意味もない。
だがそれは甘い考えらしい。女神様は口を閉ざす。
「女神様! 女神様! 」
<残念ながら今のところ解決策は見つかっていません。
解決にはどうにか一人になる必要が。ただその方法も今私には分からないのです>
「そんな女神様…… 」
<心配はいりません。必ず何とか方法を見つけます。
それまでは決して出会わないように。それだけは絶対に守っていただかないと>
「それはもちろん」
女神様に誓う。
出会うことは何としても避けなければならない。
もう今はふざけてる時ではない。使命を果たす時だ。
<では行くのです。解決方法が見つかり次第お教えしますのでどうか無事で。
あなたの行動で他者まで巻き込むことにも。それは本意ではないでしょう? >
この際他の奴はどうでもいいが確かに罪悪感があるよな。
新しく転生した異世界を消滅の危機から救う。たとえ己を犠牲にしても。
格好いいがこれは己の罪。自業自得でしかない。
「では女神様」
<頑張ってくださいね>
こうして転生に失敗した俺は運命に立ち向かうことになった。
再び旅立つことを決意する。ただ寝るだけだけどね。
さあ次は誰の世界にお邪魔することになるのかな?
消滅予定都市・ザンチペンスタン。
「おい起きろって! いつまでも寝てると眠り病にかかるぞ」
河原で横になっていたところを仲間に見つかってしまう。
あーあせっかく気持ちよく寝ていたのによ。起こすんだから困った奴だな。
「何だよお前かよ! 」
「ははは…… 機嫌の悪い奴だな。さあ急ぐぞ! 」
「ああん? どこに行く気だ? 」
おっとまた聞いてしまった。まずいまずい。
寝起きで機嫌の悪い振りをして再び聞く不自然さをカモフラージュする。
さあ勇者・ノアの番だ。
「だから謁見だろうが! 俺たちは国王様の命でやって来たんだからな」
知ってることはそれだけか? ちっとも役に立たないな。
「謁見って? まさか姫はいないよな? 」
「それは当然いるだろう。優しく微笑んで励ましてくれるはずだ」
勝手な妄想しやがって気持ち悪いな。どいつもこいつも気持ち悪い。
誰がこんな奴らに優しく微笑むかっての。揃いも揃ってバカばかりか?
おっとついついアーノ姫としての感情が見え隠れしてしまう。
「いいから行くぞ! 」
トレードは容赦がない。
「面倒臭いや。悪いがボクはここで寝てるぜ」
絶対に会えないのでどうにか我がままを通す。
「いいから早くしろ! 謁見に遅刻したら俺たちの命がない」
確かにそれもそうか。何と言っても相手はこの世界を司る国王様だからな。
しかし連帯責任とは辛いな。
ここは文句を垂れずに渋々従うことにした。
こうしてついに宮殿に入る。
勇者・ノアは果たして国王様に姫のピンチを伝えることができるのか?
続く