混乱続くも現世消滅危機回避 タームスの狙い
引き続き勇者・ノアのターン。
宮殿警備隊長のタームスから招待を受ける。
「おいここを一人でかよ? うわ…… 広いな。豪勢な部屋だな」
圧倒されつい見入ってしまう。我々とは待遇が違う。
あまりに違い過ぎて嫉妬するレベル。
さすがに警備隊長にもなれば一人部屋を用意される。おまけにとんでもなく広い。
「ボクのところなんか狭くてしかも四人だぜ? ははは…… やってられないよ」
「ほお? 国王様に文句があると? 」
「いや違う。ただ…… それより早く!
見せびらかすために呼んだのではないだろう? 」
まだ完全に信用した訳ではない。相手の出方を窺っている。
まさかとは思うがボクを嵌めようとしてないか?
ずっと口を利かずに対立していた相手。ある意味ライバルだぞ。
そんな奴なら心の隙を突くのもお手のものだろう?
さあ魔剣を餌に何をさせようと言う気だ。包み隠さずにすべてをさらけ出せ!
どんな奴にも裏の顔がある。立派に見えても裏で何をやっているやら。
ボクだって裏と言うか三つの顔を持ってる訳で。
あれ? この光る剣に見覚えがあるような気がする。勘違いかな?
「これだ。勝手に持って行け! お前が遊びに来た時に置いて行ったものだ」
遊びに来た? タームスは意外な答えを返す。
「はあ? 俺たちそんな仲だったっけ? 」
「いや…… お前が勝手に仲良くして勝手に遊びに来たんだ」
仲良しはさすがに誤解だと訂正する。親友などではないと恥ずかしがる。
どうやら記憶がない時に随分お世話になっていたらしい。
「それより姫様だ。国王様には一日でも早く元気になってもらいたい」
交換条件を覚えていたらしい。これではさすがに誤魔化せそうにないな。
「実は…… お前にだけは真実を話しておこうと思う。ボクがその姫様なんだ」
「ははは! その話なら前にも聞いた。冗談はいいから本当のことを話せ」
どうやら記憶にない時は意外にもこいつと一緒にいたらしい。
だがボクはちっとも覚えてない。自分のこととは言え初耳だ。
本来なら妖精がその辺をカバーしてくれるのに女神様にべったりだからな。
お助けキャラとしての役割を完全に忘れているよなあいつ。
その影響をもろに受けるのがボクと言う訳だ。
「アーノ姫は山奥のロイデン村にいる」
ここまでしてくれたなら応えねばならないだろう。
「本当か? それならさっそく国王様に報告だ! 」
「待て! 待ってくれ! 恐らく姫は隠れ家に戻る。明日にでもな」
これは一種の賭け。タームスが信用できると踏んだから包み隠さずに。
「それでは今からロイデン村に行っても無駄ってことだな? 」
考えを巡らせ今からでは入れ違いになると理解してくれた。
ただ明日にも帰ると言うのはただの願望であり解決しない限り戻りはしない。
それだけとても重要なミッションを与えられた。
「そう言うこと。ボクも国王様には恩義があるからな。
国王親子を会わせてやりたいと思っている。
それで相談なんだが国王様をボクの指定する場所に連れてきて欲しい」
タームスは思い悩む。さすがに即答は無理だろう。
「待ってくれ! それは国王様を姫に会わせるためなんだよな? 」
「そう言うことだ。なるべく邪魔者を排除したい。話が漏れては危険だからな」
「よしその提案に乗ろう。それでいつどこに? 」
「場所は今日中に決めるつもりだが日時は三日後の早朝を予定している。
ボクも行けたら行くが二人の再会を邪魔したくない」
思いを伝える。なぜか国王から会わせないようにしてると思われている節がある。
だからタームスもそれを察知して動き出したのだろう。
「だったら俺も一肌脱ぐとしよう。ただ俺は知っての通り宮殿警備隊長だから。
三日後にはどうにかなるかは分からない。ただ協力は惜しまない」
こうしてタームスの協力を取りつけ国王親子の再会の段取りを決める。
「ほれ持って行け! 大事にしろよな」
ついでに魔剣も我が手に戻った。
魔王様を打ち倒せる唯一の剣。
これで準備万端。後は三日後にすべてを賭ける。
ロイデン村集会場。
魔王様が降り立つ。
ロイド村集会は緊急集会を開催。
議題は当然あのこと。
「村長よろしいのですか? 」
「そう言うな。儂とて困っておるところだ。早く出て行ってもらわんと」
「村長! 奴です。奴がやってきました! 」
大騒ぎの出席者。一体どうしたのだろう?
「何だこれは? 」
つい議題が目に入り動揺する。
『化け物をどう退治するか』
こんなことを集会で話し合うとは一体どういうつもりだ?
歓迎していると思ったのにこれはどうやら勘違いだったらしい。
「ボグ―! ボグ―! 」
怒りを表現してみる。
「魔王様がお怒りになられている。直ちに謝罪と撤回を! 」
手下は冷や汗もの。こんなことをされたらこの魔王様が怒り狂うと知ってるから。
「ああん? あんたら何を言ってるんだい? 勘違いしちゃ困るよ。
化け物退治するんだから。あんたも仲間に入るかい? 」
どうやらシラを切ろうとするらしい。いい度胸だ。
果たしてこの魔王様にそんな茶番が通用するかな?
「ボグ―! ボグ―! ボグ―! 」
怒りに任せてボグ―三連発。
「バカ野郎! 早く魔王様に謝らんか! どうなっても知らんぞ! 」
怯む手下。基本的短気で凶暴なのが魔王様。
とは言えこの魔王様はちょっと違うぞ。
「それでお前たちは何をやってるんだ? 」
とにかく何でもいいから情報が欲しい。少なくても明日には何とかしなければ。
明日とは言ったものの実際は今日中。時間が経てば経つほど焦りが見えてくる。
冷静に冷静にといくら言い聞かせたところでボグ―と吠えてしまう。
これは一種の焦りの遠吠え。
「見れば分かるだろう? この村にやって来た化け物を退治しようと言うんだよ」
代表に出てきたところを見るとまとめ役か何かだろう?
「その化け物とは? 」
「あんたらには関係ないよ」
白々しい言い訳を続ける。
どう考えてもこの魔王様と魔王軍だと言うのに。
その頃始まりの地では……
「どうなさいました女神様? 」
<はい。それがカウントダウンが止まった模様です>
「本当ですか? 」
<まだ混乱は続いてますがどうやら現世は救われたようです>
「ふう…… 助かった。これで愚か者の流入も止まる」
<はい。喜ばしい限りです>
「ではさっそく…… 」
<いえ。急がずとも。片割れ探しに集中させてあげましょう>
こうして現世はどうにか消滅の危機から逃れた。
残るは異世界のみ。
続く




