アーノ姫現実を知る
ロイデン村。
引き続きアーノ姫のターン。
現在フーツと異世界に散らばった愚か者探し。
「おいそこの者! 」
昨日話を聞きそびれた一人。前の方の長話に痺れを切らしどこかへ。
「ああ何だいその面は? 不細工だね」
遠慮なく口にするクレイジーな奥さん。今旦那は山に柴刈りに行っているそう。
「何だと! 」
「まあまあ。それよりもお話お話」
どうにかフーツを宥めて冷静さを取り戻させる。
モンスターなだけあって迫力満点。
「そうだった。そこのお前。この村でおかしくなった奴を知らないか? 」
どうも聞き方が下手でその上圧が強い…… あれ? 答えてくれそう。
「それは家の旦那さ。柴刈りに行くって出て行ったよ。
だけどきっとどっかの若い女とよろしくやってるに違いないのさ」
「おいおい断定はよくないぞ」
冷静さを取り戻したフーツが諭す。
「ほら男はいつもそうだ! もう知らないよ! 」
そう言って突き放し近くの川に洗濯へ向かう。
「どうしますフーツ隊長? 」
隊長は仕方ないと言って後について行く。
どこからともなくけたたましい警告音が。
女が川で洗濯をしていると上流から放水が開始される。
これは先日から降り注いだ雨が溜まって限界を迎えたため。
「ちょっと聞いてないよ? うわ流される! 」
大慌ての女に代わってフーツが回収してあげる。何て優しいモンスター。
「あんた…… 」
「ははは…… これくらいお安い御用ですよ」
村で人気が高いと言う嘘を真に受けて紳士に振る舞うフーツ。
何て扱いの楽なフーツなのでしょう?
魔王様ほどのカリスマもカンペ―キほどの能力もクマルほどの間抜けぶりもない。
結局は単なる普通のモンスター。
ただそんな彼にも転機が訪れる。
「嬉しい! 私を守ってくれたんだね? 」
そう言ってフーツに抱き着く奥さん。
「おい…… 何をする? 」
「いいじゃないか。感謝の気持ちだよ」
照れながらも受け入れるフーツ。
普通のモンスターの彼が思い描いた幸せがここに。
その時上流から大きなピンク色の果物がゆっくりゆっくり流れていく。
二人は抱き合ってるせいでその物体に気づかない。
それはある意味幸せなことなのかもしれませんね。
ボクだって多少は憧れる展開ですからね。
さすがに大声を出して邪魔するのはよくない。
桃は二人の側をゆっくり流れて行く。
そして下流へと姿を消した。
「ああ! 」
ようやく気づいたのか女が震える。
震えるようなこと? それとも現実に戻されただけ?
それにしても長いな。抱擁をどれだけ続ける気なのかしら?
「あの…… 」
一言文句を言おうとして口を開くもかき消されてしまう。
「お前何をしてるんだ! 俺は信じていたのに! 信じていたのに! 」
柴刈りから戻ってきた旦那とばったり。
足を挫いたらしく引きずっている。そのせいで切り上げたのでしょう。
「あんたこそ若い村娘に入れあげて! ふざけんな! 」
男が近づいてくる。女も容赦しないと睨みつける。
「それで二人に聞くがこの辺りに最近様子のおかしい村人はいなかったか? 」
フーツは状況判断もできずにただ闇雲に聞く。
これでは得られるものも得られない。
「この女だ! 」
「あんたでしょうが! 」
夫婦喧嘩に巻き込まれるフーツ。
あたふたして情けない限り。
ここは修羅場になる前に退散した方がよさそう。
フーツを見限って次へ。
その頃宮殿では魔剣探しに大忙し。
ノア隊長が仲間を引き連れて消えた魔剣を求めて宮殿内を探し回る。
「どうだ見つかったか? 」
「それがどこにも? 本当にあるでしょうか隊長? 」
「おいそっちはどうだ? 」
「ないな。お前が失くしたんだってな? 」
同じ部屋の仲間を伴って宮殿内を捜索中。
本来であったら全員に協力してもらいたいのだがそう言う訳にも行かない。
特に元隊長にでも知られたら厄介だ。
まだ気づいてないようだったがそれでも怪しまれていたのは確か。
ここで隊長の任を解かれたら動きが取れなくなってしまう。
そうなれば三日後にまで影響してしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
「本当に見当たらないのか? 」
「はい」
いくら尋ねても無駄なのは分かり切ってるがすぐに確認してしまう。
ここはいっそのこと宮殿警備隊にも手伝ってもらうかな。
だけど奴ら非協力的なんだよな。
「どうした先ほどから騒がしいようだが? 」
見かねた警備隊長が口を挟む。
互いを侵さない。そんな風に考えていてロクに口さえ利いてなかった。
「タームスか? 余計な口出しは無用に願いたい」
タームスが警備隊長になったのは我々がこの宮殿に来てから。
前隊長が追放されてタームスが副隊長から昇進。
タームスの策略だと噂されることも。だがそれは違う。
前隊長がなぜ追放されたかと言えば姫が誘拐されたから。
その責任がその隊長にあるはずがない。唆したのがタームスであるはずもない。
姫は魔女によって無事に保護されていて今はロイデン村で人探し。
それにしても姫の安全は確認できたのに無関係な前隊長が追放されるのだからな。
国王の乱心ぶりは目に余る。
「そんなこと言っていいのかな? 俺は魔剣がどこにあるか知ってるぞ」
何とタームスは居所を知ってると言いだす。それはまたおかしい。
なぜならボク自身どこに置いたか仕舞ったか覚えてないし仲間も心当たりがない。
だから当然タームスが知るはずがない。
「本当かタームス? 本当なのかタームス? 」
重要なことなので念を押す。
「ウソは言わない。ただ条件がある。お前には姫の居場所が分かるんだろう? 」
どうやら姫の情報と引き換えにその魔剣の在り処をを示すと言う。
それは吞めない条件。さすがに姫の安全が脅かされては元も子もない。
「それは…… 」
どうするか迷う。さすがに警備隊長だけあって国王に反旗を翻すとは思えない。
ここは彼の言に従うのが一番賢いやり方。
「分かった。その条件を呑もう。だから早く! 」
「そう慌てるなって。やはりあの噂は本当だったんだな? 」
「噂だと? 噂って何だ? 」
「お前が姫様を監禁してるって話だよ」
どうやら隊長になっても冷静で有能なボクに嫉妬しておかしなことを言う輩も。
「いいから早くしろって! 魔剣はどこだ? 」
「そうかこの噂も当たりらしいな。お前が眠り病に罹っているって。
眠り病に罹ると前後の記憶がなくなったり眠り続けるって」
相変わらず何を言ってるのか分からない。ボクを試す気なのか?
「眠り病など知るか! 早くしろ! 」
「だったら俺の部屋についてこい! 」
こうしてタームスの部屋にお呼ばれされることに。
続く




