カウントスリー
異世界・ザンチペンスタンの消滅。
自身が蒔いた種が愚か者たちに受け継がれていく。
一つの体に一つの魂が基本。
三つの体に一つの魂が入ったためにおかしくなった。
それを解消するために残りの二体を処理しなければならない。
もはや避けて通れない。究極の選択を迫られている。
そして同じような状態の愚か者を見つけ出さないとやはり消滅してしまう。
たとえ女神様の言う通りに動いてもその愚か者を処分しなければ意味がない。
なぜこんなことになってしまったのだろう?
異世界に召喚されたあの日に寝てさえなければこんな面倒な事態には。
いやマンホールから転落しなければこんなおかしな世界に来ることもなかった。
あのマンホールのフタが開いていたのがすべての元凶
いや違うな。そもそも夜遅くまで働かされてたのが原因。
そのせいで近道をしようとして運悪く落ちた。
すべては社長が悪い。上司が悪い。
でもその肝心の社長の名前が思い出せない。
いつも人には厳しいこと言ってるくせに自分には甘い。
その分を私たちがサポートあるいは尻拭いをさせられていた。
まったく頭にくるぜあの社長。
ダメだ。せっかく頭に浮かんだものが歪んでいく。
もう顔さえ思い出せない。どんな会社だったかさえきれいさっぱり。
どうして? もう現世に未練がないから?
こんな目に遭わせた者の正体を忘れたくないのにそれでも薄れていく。
「うおおお! 消えていく! 」
<心配なさらずに。過去の記憶はドンドン薄れて行きます。
あなたはもう異世界の住人です。恐れる必要はまったくありません>
女神様は心を見透かしたように助言する。
「そんな…… 」
<それが定めなのです。では頑張ってくださいね>
女神様に説得され励まされる。
「待ってください! 」
もう戻るように指示を受けるがまだ謎が一つ残っている。
「もう一人はロイデン村に必ずいるんですよね? 」
<またですか? はい当然ロイデン村のどこかには>
「仮に見つけて捕まえたとしてどうやって異世界崩壊を阻止するつもりですか? 」
気がかりは他にもあるがこれが最大の疑問。
「ああそれなら何個か方法があるから心配しないで」
女神様の代わりに妖精が説明する。
「まずは合体させる。元々が同じ魂。血と血を混ぜ合わせれば一つに…… 」
<ああそれ以上はいけません! >
女神様は妖精を叱りつける。これは秘密で人間には決して漏らしてはならいと。
「いいではありませんか女神様。この愚か者のやる気がでればそれだけプラスに」
<しかし…… 女神様として認める訳にはいきません>
厳格な女神様といい加減な妖精。お互いを補い合う理想的な関係。
対立してるように見えてきちんと計算され尽くしている。
と言っても女神様なのだから当たり前か。妖精だって馬鹿じゃない。
たまにいい加減でどうしようもないけれどそれでも優秀なお助けキャラだから。
「まあまあ。では女神様は外してください」
女神様がいると何かと不都合だと妖精が無理やり迫る。
<もう分かりました。好きにしなさい! >
「はーい。好きにします」
粘り勝ちの妖精は好き勝手振舞うことに。
「いいあんた。これは秘密だからね。誰にも言ってはいけない。
約束を守るならすべて教えてあげる」
女神様に仕える妖精ならすべてを知っていても何らおかしくない。
ただ物凄く生意気だから誤解されやすい部分もある。
「分かった。続きを聞かせてくれ」
「ちょっといい加減じゃないでしょうね? 」
念を押す意外にも冷静な妖精。
「決して口外しない。これでいいだろう? 」
「ううん。どうも信用できないのよね。
あなたは異世界を消滅させようとした愚か者ですから」
疑いの目を向けられたまま。どうも妖精はボクのことを誤解してるようだ。
「信じてくれ。この通りだ! 」
懇願する。
こうして極秘情報を入手。
「まず断っておくと。今その者がどこにいるかは知らない。分からない。
そこまでこの異世界を把握していない。捕まえた後のことだけど……
合体が基本。それが無理なら今あなたたちが血眼に探してる伝説の実。
願いを叶えればいい。これで解決。
仮に無理だったり二人が拒否するなら遠くに離すしかない。
この異世界には最北端の島ってのがあってそこに一人を。
もう一人を最南端の島に閉じ込める。
ただこれは物凄い危険が伴うこと。
彼らが島から脱出すればその日のうちに爆発する。
絶対に島から逃げ出さないよう見張るしかない。
後はどちらかがどちらかを消滅させれば回避できる。
これは今のあんたたちと同じ方法。
それから他の者が一方を処分すればそれでおしまい」
妖精の話だともっと他にも方法がありそうだ。
「ではとにかくもう一人を捕まえれば彼らによって消滅することはないと」
「そう気楽でしょう? そもそも二つの体に憑依するのは特殊で稀なこと。
それなのにあなたたはそれを軽々と超えて三体だからね。
こっちからしたらふざけるなと言いたい」
可愛らしい見た目に反して言ってることは強烈。こっちがまるで悪いかのよう。
ただ彼女もこの世界に来た者のお世話がメインのはず。
それなのにちっとも協力せずにただ女神様のサポート。
「ありがとう。これで全力を傾けられそうだ」
「だったら早く解決しに行きなさいよ! もう時間がないんだから! 」
そう言って送り出す。
さあこれで再び異世界に戻るとしよう。
今回は女神様と妖精から貴重な情報を得られた。
異世界へ。
続く




