異世界の手引き
始まりの地。
ついにすべてが白日の下に。
「それで魔王になった? 本当に信じられない。せめて村人にしなさいよ」
妖精はおかしなことを言う。俺だって選べるなら無難なものにしたさ。
たぶん姫の次は魔王様だったのだろう。
もし仮に四度目の夢を見ていたら恐らく国王になっていたのかと。
勇者と姫だけでも大変なのに魔王様まで演じられるはずがない。
しかも切り替えを失敗すれば疑われる羽目に。
これまでもかなり強引で無理なごまかし方をしている。
「無理だって。そんなの選べるはずがない」
「あんた全然反省してないでしょう? 」
「いやそんなことはまったく…… 」
「だったらほら早く! 」
正座を強要する。かわいらしい妖精さんはまるで鬼のよう。
仕方なく言われるまま受け入れる。
「最低限それくらいしなければね。どうです女神様? 」
<しっかり反省するのです>
「しかし女神様! 俺はただ寝ただけですよ。
そちらの手違いでこんな悲惨でおかしなことになったのでは? 」
言い訳しつつ人のせいにする。
これでいい。これでこそ立派な魔王様。
そもそも自分にだけ非があるなら受け入れもしよう。でも違うよね?
<反省するのです>
「ですからそちらのミス…… 」
<反省! >
ダメだ。どう足搔いても言い逃れられない。
女神様はすべてお見通しだ。
では方向転換。
「そんなことよりも姫が危ない。急いで戻らなければ! 」
「あんたね。ただ説教を喰らいたくないだけでしょう? 」
「違う! このままでは魔王様と姫が出会ってしまうぞ。それでもいいのか? 」
急がなければ今日にでも。それを阻止できるのは俺だけ。
こんなところでのんびりしていられない。
本当はお茶でも飲んでゆっくりしていたかったけどそうもいかなくなった。
「はいはい。襲撃を回避しても姫と勇者が出会うでしょう? 同じことじゃない」
妖精はこの状況を正確に分析している。とても心強いが逆に面倒でもある。
「それに今度の襲撃作戦が失敗するよう手を打ったんでしょう? 問題ないって」
「いや…… 不安なものは不安なんだ。急がなくてはならない。協力してくれ!」
<どうやら充分反省しているようですね>
女神様に救われる。女神様は過ちを寛大な心でお許しになられた。
一度だけでなく二度。それでも足りずに三度までも。
どれほど慈悲深いのか? だからこそ応えなければいけない。
応えてこの世界を守らなければならない。
ははは…… 何だかおかしな展開だな。
俺のせいでおかしなことになったのにまるで俺は救世主のよう。
実際は現世より送り込まれた破壊者。救世主とは逆を行く者。
「分かりました女神様。それではここからは作戦会議と行きますか」
とりあえず三人で話し合う。当然人間は俺一人。他は女神様と妖精。
人間とは言えないがここは便宜上三人としておこう。
それは魔王様の時も魔王軍に関しても同様。
種族や属性ではなく分かり易さを優先させる。
「まずはサポートする身として…… 私は勇者意外に同行できないの。
だからアーノ姫には別に魔女を。恐らくどこかその辺にいるはずだから。
魔女はこちらサイドだから安心していい。
ただ魔女であることに変わりないからそこだけは気を付けて。
こちらからは話しかけられない決まりなの。早く見つけてもらってね。
魔女と合流できればたぶん姫の方は彼女が何とかしてくれるはずだから」
「後は魔王だけど…… どうやら奴ら魔王城を離れどこかに住処を移したみたい。
あそこだったらどうにか入り込めたんだけど。違うとなると簡単にはいかない。
あなたにすべて任せるしかない。配下の者を手なずけて動きやすくするのよ」
「うんうん。それでそれで」
「後は絶対に三人を合わせないように。何が起こるか分からない。
それとあんたが三役をやり易いように眠り病をはやらせておいた。
これで少しは怪しさが軽減されるでしょう」
さすがは妖精。自分の失態をどうにか取り戻そうと必死だ。
俺もそれに協力してやるのがスジだろうな。でもチートイだと意味ないけどね。
あれ? 今現世の記憶が蘇ったような気が。でも役に立ちそうにない情報。
睡眠不足はこのことが多少影響してもいる。
「それで伝えたいことはもうないのか? 」
偉そうに聞く。
妖精は気にせずに続ける。へへへ…… 後でお仕置きされるのかな?
「これは推測だけどあなたが夢を見るまで普通に勇者も姫も魔王も生活していた。
不思議なことにあなたが乗り移った時だけ物語が動くようになってる。
たぶんそれ以外では内圧にも外圧にも影響を受けるかと。
要するに無難な展開が続く。もし変化を加えたいなら乗り移って行動してね。
恐らくあなたの意思が優先されるはず。
でも今は慎重に様子を見ること。それと急ぐ。
当然気を抜かないこと。分からないことはなるべく周りから情報を得るように。
理解してると思うけどあまり聞き過ぎると疑われるから気を付けてそれから……」
「おい書きとれないだろうが! メモ用紙が黒く染まるぜ」
「もうバカなんだから! 頭にしっかりインプットしておきなさいよ!
それが無理ならこのノートを開いてね」
『異世界の手引き』
これには基本的なことが載っている。問題は応用だが……
これで何とかなるかな。
さあ急いで戻るとしよう。
続く