伝説の実を知る者
ロイデン村。
魔王軍は伝説の実探しに必死になるあまり相手にされない。
「おい! 」
「ひいい…… お許しを! 」
「待て! 待ってくれ! 話だけでも…… 」
まただ。逃げてしまう。うまく行かないもの。
恐ろしいほどの凶悪面で迫るものだから全然話が聞けやしない。
捕まえてもすぐに逃げられる。これではいくら魔王様でもお手上げ状態。
そもそも根本的な問題がある。村人は慣れていないのだ。
山奥の村ではモンスターは珍しいだろうからな。
村を回るが手掛かりは一向に掴めない。
やはり一つに絞るべきだろうな。でもどちらにせよ難しいのは確か。
村の宝にも口を噤むし怪しい人物についても語ろうとしない。
当然と言えば当然。まだ信用されてない。
果たしてそう簡単に信用されるだろうか?
「悪いが何か知ってることがあったら教えて欲しい」
手当たり次第村人を捕まえて在り処を探るを繰り返した。
「ああ…… あんたも探してるんだってね。あの実を? 」
「そうだ。何か覚えてないか? 」
「さあね。悪人には教えられないよ」
きっぱり断られてしまう。これではもう何もできない。
もはや実力行使するしかない。あるいは脅すか。
それにしてもあの三人組に出会えたところまではよかったんだが。
村の者から随分嫌われてるらしい。それはそうだよな。
この見た目の上にやって来ることは破壊だからな。
気に食わないものを力の限り排除してきた実績がある。
誰も本心では魔王様を相手にはしたくない。
それがひしひしと伝わってくる。
あそこまで村を挙げて歓迎してくれたのになぜか冷たい。
やはり考えが甘かったか。態度を翻すことは何ら不思議ではない。
もはや我々は彼らにとって脅威でしかない。
人探しはまだどうにかなりそうだが肝心の不老不死の実がどこにあるやら。
これはもう無理。新たな作戦で臨むしかない。
「お前ら! 誰でもいい。不老不死の実の在り処を知る者はいないか? 」
「ああ何だ。それなら爺さんが知ってるよ」
ようやく進展があった。脅さずに粘り強く聞いたのがよかったんだろうな。
しかし爺さんとはまた面倒臭そうだな。
より詳しい者に話を聞く。
「ほらあっちで遊んでおいで」
「そいつらはお前の子供か? 」
「失礼。自分はここで皆の話を聞いています。医者がいないのでその真似事を」
常に緑色の服を着るこだわりがあり訳の分からないことを言う狂った男。
「答えになってないぞ! それで今の子は何だ? 」
「ああ暇な時によく遊んであげてるんですよ」
村の希望とも宝とも言うべき子供。
彼らを含めて子供は僅か。今月生まれたばかりの子を含めても十人も行かないそう。
十五才になるとこの村では大人扱い。
そして一年後のお祭りの時に儀式を行うことで正式な大人の仲間入りとなる。
「だったらこの魔王様が食っていいか? 」
「ははは! このおじさん面白いこと言うな。そうだろ? 」
男は笑いながら子供たちに問いかける。
「魔王様だってよ。格好悪いな」
「それよりも顔が怖い。いや怖すぎる。不気味だぜおっさん! 」
「そうだそうだ」
三人とも無邪気。決して悪気があるのではないのだろう。
冷静に冷静に。ここで怒っては魔王様の威厳が保たれない。
ホラ笑えばいいんだ。
「はっはは…… 怖くないよ」
「ウソを吐け化け物め! 」
遠慮がない子供たちに追い詰められる形の魔王様。
情けないがこれくらいでないと相手も心を許してくれない。
ただこのルックスだから。こういう時はマイナスに働く。
「ボグー! 」
つい我慢の限界。雄たけびを上げてしまう。
「きゃあああ! 」
そう言って恐怖したかと思えばもう一度やれと催促。
しかし魔王様のプライドもあるから一切無視。
でも子供は必要以上に囃し立てる。
ボグ―と真似てみる。しかも何度でも。もう一度やらないと収まらない雰囲気。
「ほらもう一回」
「いい加減にしろ! 食っちまうぞ! 」
ついいつもの調子で。まずかったか?
子供の言ってることを真に受けて魔王様が怒り狂っては笑われるだけ。
「ダメだよ。悪口を言っては。ほら遊んでおいで」
「はーい」
男の周りをまとわりつく小さな三人組。
「いや…… 子供って本当にかわいいんですよね。あなたもそう思いませんか?」
男に悪気がまったくないのはよく分かる。だが仮にも魔王様。
そんなことを言えば俄然興味が湧く。
「ボグ― 」
「そうそう。かわいいですよね。でも最近生意気になって。
ほら一番大人しく見えるでしょう?
そうあの男の子です。もっと弾ける笑顔を向けてたんですけどね」
愚痴を零す相談係兼医者の男。
「ああごめんなさい。勝手に話してしまって。でも好みも変わったみたいで。
お肉が大好物だったのに一切食べなくなって。それであの子の母が相談に来られた。
でもまだほんの子供だから。急に味覚が変わることも……
おっとそれで何でしたっけ?
話好きな上に長いと言う弱点をさらけ出した男。
もうこれくらいで勘弁してもらいたい。
「ああそうでしたね。不老不死の実についてでしたね。
私が担当してる患者さんにそのような妄言を吐く者が」
男に案内してもらうことに。
でもこいつにしろ村の者にしろなぜこうも魔王様を信用する。
この世界を破滅に導くことしかできないただの支配者。
「この家です。ではお先に」
そう言ってお爺さんの様子を見る。
すっかりその能力をいかんなく発揮している。
ごっふぉふぉ
苦しいのか何事か喚いている老人。
「じいちゃん。いつものあの話を聞かせてやってよ」
「おお。人相が悪いな。本当に人間かい? 」
大事な話はせずに笑うのみ。だんだんと頭に血が上りだした。
「いい加減にしろ! 不老不死の実はどこにある? 」
もう優しくしていられない。これはいつまで経っても終わりそうにない。
「ゴホゴホ…… 済まんな。この体だから色々大変でな」
「そんなことはどうでもいい! それよりも不老不死の実はどこだ? 」
思い切って聞くレベルを超えて魔王様直々に脅迫をする。
とは言えすべてこっちが悪いのではない。もう少し真剣に協力してもらえたらな。
「ああそれなら崖のとこに。黒い実がある。それが伝説の実だと言われている」
そう言うと疲れたと寝てしまった。
続く




