急接近! 二人の距離
引き続きアーノ姫のターン。
「お邪魔します」
律儀に挨拶するも当然廃屋なので人はいない。
魔女に言われるまま中へ。とりあえず廃墟と化した一軒家で一休み。
うーん。お世辞にも住みたいと思えるようなところではありませんね。
ホコリ塗れで息もできない。まあ今の隠れ家も似たようなものですが。
ああ早く掃除係のクマル来ないかな。
「ほら姫急いで! 」
すぐに家の前を魔王様一行が通り抜けていく。
その間廃屋で身を低くしてじっとしている。
こんなことをしてもまったくの無駄。でも少しでも回避しようとした結果。
「大丈夫。もう魔王は通り過ぎちまったよ。あっちだって遭遇したくないのさ」
報告を受け恐る恐る隙間からこっそり。ようやくこの目で魔王様の後姿を捉える。
この世界に来て十日近く経ちますがここまで接近したのはこれが初めて。
緊張と恐怖でもう震えが止まらない状態。
だっていきなりですからね。心の準備もまだ。
もしタイミング悪く出会っていたらと思うと……
ボクだけでなく世界そのものが消滅する。
ちょっとした気の緩みが世界を巻き込んでこれまでの苦労がすべて水の泡に。
魔王様が目の前を通ったがどうやら問題はなかったらしい。
と言うことはお互いが認識するほど近くでなければ問題ないのでしょう。
そのことが分かっただけでも収穫かな。
「姫…… あんた分かっていたんだろ? なぜ黙ってたんだい? 」
追及が始まる。相手が魔女では隠し通せない。仕方ないのですべて話すことに。
「さあ何のことだか。フフフ…… 」
「惚けるんじゃないよ! 」
「もう…… 実は魔王様も不老不死の実探しをしてまして」
「通りでモンスターがいる訳だ。でも魔王様がそんなこと…… 」
どうやら気づいてしまったらしい。
「そうです。ボクがつい…… いい口実だと思ったから」
「何がだい? もっと詳しく言いな! 」
嵌められたと憤る魔女。まさか自分が利用されたと思いもしなかったのでしょう。
ボクだって本当はすべて伝えたかった。
でも未だに自分の都合を優先する魔女を信用できない。
「はい。分かりましたよ。女神様の命でしたら仕方ありませんね」
ついにすべてを告白することに。隠していては信用は得られないですからね。
「よかった…… 」
「ほら安心しないの。ここに来たと言うことは覚悟があったんだろう? 」
「いえ…… あなたが珍しくついて来いって言うから。ただそれだけ」
「何にしたって助かったんだ。さあこのチャンスを生かそうじゃないか」
今回のことを肝に銘じて決して近づかないことを確認。
「絶対に近づかない。それだけは守るんだよ。いいね? 」
そう迫るが念を押されなくても分かってる。
「ハイ以後気を付けます」
「よろしい。随分素直だね。何か企んでないかい? 」
素直過ぎのが逆に疑わしいとは酷い言われよう。
ボクにしろ魔女にしろもう少し人を信じてもいいもの。
「それでこれからどうしよう? 」
過ぎたことはもういい。これからが大事。切り替える。
「すぐにでも下山したいがね生憎目的のブツが見つかってないんでね」
「目的のブツって? 」
「それはもちろん伝説の不老長寿の実。あれさえあればいくらでも金儲けが……」
邪な心を持つ魔女。
「はいはい。そうでしたね。でも本当にここにある? 」
目的地に着き現実のものになってから急に怖くなってきた。
「きっと大丈夫さ。魔王軍を出し抜いて先に手に入れよう」
目が本気だ。魔女の目的が何か分からないとこのまま協力するのもな。
とにかくこの廃屋から脱出するのが先決でしょうか。
「それで? 」
「今日はここで留まるのがよいかと。明日以降はまた考えましょう」
これでこの廃屋で泊まるのが決定的になった。
その頃。
勇者たちは広場でささやかな祭りに参加。
音楽とともに狂ったように踊りだす。
同部屋の陽気な仲間が興奮して加わる。
「面白そう。私も踊る! 」
そう言って音に会わせて独自のダンスを披露する幼馴染。
あれ…… どうしたんだろう?
一度音楽が収まると再び響き始める。
今度は随分と速いテンポの曲でそれに合わせて広場の者が踊りだす。
「ほら早く! 」
彼女にしつこく誘われるが動じない。
ボクは皆が楽しそうに踊っているところを見るだけで満足。
さすがにこれ以上は付き合いきれないよ。
「隊長どうしたんですか? 」
さも踊るのが当然と言うようなおかしなプレッシャーを掛ける。
まさか奴らが正しいのか? ノリの悪いボクは最低なのか?
いやいやそんなことはない。ここで見ているだけですごく心が満たされる。
これ以上ないほど気分が高揚する。
それを表現するために踊るのは確かにそうなんだけどさ。
嫌なものは嫌なんだよね。
そんな風に強硬な姿勢を貫いてると音楽が消え終了。
もう思い悩む必要は無い。
「さあ並んで並んで! 」
今度は行列ができる。何かと様子を窺っていると子供たちが次々に。
お菓子が配られたのか皆満足そうに笑っている。
でもそのうちふざけ合いに発展するから面倒なんだよな。
何だか小さい頃を思い出すぜ。と言ってもこの世界の話ではないが。
「もう! 情けないんだから」
踊らかなったことに不満を述べる。
気持ちは分かるがそれはあまりに短絡的過ぎではないか?
「よしそろそろ戻るぞ! 」
お菓子の行列の次は大きなボールが。
これを使って皆で蹴り合う。
「ちょっと待ってくださいよ。せっかくのお祭り。最後まで見て行きましょうよ」
「しかしもう時間が…… 」
そう言っても誰も賛成してくれない。仕方なくもう少しいることに。
まったくはしゃぎ過ぎなんだよな。
続く