寝れない事情
ついに動き出した魔王軍。
クマル司令官によってアーノ姫は悲劇に見舞われるのか?
もちろんアーノ姫は魔王様でもある訳で。
絶対に失敗しなければならない戦いがここにはある。
しかも気づかれてはいけない高度な作戦。
これはやらせであり八百長であり裏取引でもある。
手下や仲間に周りを巻き込むのは忍びないがこれもすべて丸く収めるためのもの。
どうしたって犠牲を払うことになる。
いわゆるコラテラル・ダメージって訳だ。
「魔王様お疲れでしょう。お眠りください」
爺さんが促す。
そんなやわではないのだが。それに寝れない事情がある。
クマルが心配だと言うのもある。
クマルが失敗したらどうしよう? いやそれでいいのか。
クマルが成功したらどうしよう? これがまずい事態を引き起こす。
でも実際のところ寝たらスタートに戻されそうなんだよな。
超絶お怒りモードの女神様を見ていたくはない。
妖精だって往復ビンタでは済まないだろう。
なるべくこの世界で粘って忘れた頃ぐらいに戻れたらな。
そんな希望的観測を描いている。
「とにかく横になってください。今魔王様を失えば士気が下がります」
爺さんはしつこい。
魔王様って不死身で健康体じゃないの?
これではまるでただの死にかけの爺さんだよ。魔王様は健康です!
「ほら体調が優れないではないですか? ご無理をなさらずに」
そう言われると何だか寒気が眠気だって。あれ…… 頭痛がするな。
「うるさい黙っていろ! 魔王様は健康だ! 」
もはや意地になってるだけだが命令は当然ながらしつこく勧められるのも嫌。
我がままと言われればそれまでだがそれほど意思が強くなければ務まらない。
「魔王様? 」
「うっせい! 早く行かぬか! 眠くなどない! 」
「魔王様! 魔王様! 」
こうして押し問答を続ける。
「もう我がままを言わずにお休みください! 」
そう言って手を叩くとすぐに配下の者が駆け付け五人がかりで押さえつけられる。
「おい何をする? 眠くないと言ってるだろう? 」
脅しに怯むことなくベッドまで連れて行く。
舐めたことに子守唄まで。
「ガキじゃない! 魔王様なんだぞ! 」
「ではおやすみなさいませ魔王様」
爺さんは出て行った。これで指示する者はいない。
後はこいつらを脅せば……
「おい囲むな! 何をする? 眠くなんかないんだ…… 」
当然まだ眠り足りない。まあここは素直に従うとしましょうか。
確実に女神様のところに戻されると決まった訳でもないしな。
それにできるだけ早く襲撃のことを国王に伝える必要がある。
ヒソヒソ
ヒソヒソ
「もう魔王様は眠ったか? この症状が現れ魔王様は穏やかになったと聞いたが」
「おい余計なことを! 魔王様に聞かれたらどうする? 」
「でもよう魔王様までなるとは思わなかったぜ。意外にも蔓延してるのかもな」
「ほらお前たち喋ってないでお休みになられたのだからもう行くぞ」
こうして一人ぼっちにされる。
眠りかけでウトウトした状態で聞こえるヒソヒソ話。
これでは嫌でも耳に入って来る。
症状? 蔓延? 一体何のことだ?
知らないところで何かが起こってるのは間違いない。
ああでも眠いからもうどうでもいいや。
こうして眠りにつく。
始まりの地。
「おい! おい! 」
頭を叩かれて覚醒する。
「ボグ― 魔王様に向かって何をしやがる! この愚か者めが! 」
「いつまで寝ぼけてるのよあんたは? 早く起きなさい」
妖精らしき女に無理やり起こされる。
「ぐおおお! 食ってやる! 」
「だからいつまでやってるんだって! 」
妖精は容赦がない。叩いたと思ったら無理やり起こそうとする。
どうやらこれ以上は無駄な抵抗らしいな。
<おはようございます>
目の前には絶世の美女。女神様がほほ笑んでおられる。
もちろん頭には来ているのだろうがな。それでも慈悲深い女神様だからな。
代わりにこのくそ生意気な妖精が叱責する。
「あんたふざけるんじゃないわよ! 一度ならずも二度までも」
怒りに震える妖精。
そう妖精の言う通り俺は言いつけを守らずに三度夢を見た。
そのせいでとんでもない事態に陥ってる。
素直に済みませんと言えたらな。
でもそれだけはできない。
謝罪をすれば罪を認めたことになる。
「これは不可抗力で…… 」
「我慢できずに寝たんでしょう? そして夢を見た」
「ははは…… そんなところかな」
どうにか笑ってごまかそうとするが残念なことに追及の手は緩まない。
「それで魔王様を気取ってると? あんたがいなくなったから焦ったわよ。
女神様だってお怒りになられているわ。ほら微笑みが薄いでしょう? 」
<まあまあそれくらいで>
これ以上は見ていられないと女神様が間に入る。
「あんなこと言ってるけどさっきまで鬼の形相だったんだから。
私のミスだって叱られてたんだから! 」
「遅刻してきたからな。確かにお前のミスだな」
「何ですって! 」
<まあまあ二人とも。ダメですよ人を恨んではいけません>
うわ女神様が優し過ぎて逆に怖い。それでも微笑みを絶やさないからな。
できるなら怒って欲しい。きちんと叱って欲しい。
こうしてついに過ちと罪が白日の下に。
続く