異世界転生
夜遅く。都内某所。
「お疲れ様です」
中小企業で名前だけ管理職の俺は残業代もロクにもらえずにタダ働きも同然。
毎日のように夜遅くまで働かされ朝早くに出社。
このままではダメだと上に掛け合うがハイハイと諭され考えておくとだけ。
もちろん考えてるはずもなくどんどん睡眠時間が削られていく。
早く寝れて三時。遅ければ四時。そんな毎日だ。
「ああまた明日」
その明日がまた来るのかと思うと嫌で嫌で仕方がない。
日々積み上がっていくこの紙束をどうにかしてもらいたいものだ。
せめてペーパーレス化が進めばこの机がきれいになるのは間違いない。
ただ会社にはその気もないしそうなったところでデータに代わるだけ。
それでは仕事量は減らない。変わらないどころか増える可能性もある。
このどうしようもない状況を理解してもらうには紙束の山を見せるのが有効。
大体この量をどうこなせと言うんだ?
もうすべてをぶちまけてやりたい。
でもそうしたところで回収作業が追加されるだけ。
ただでさえ紛失の危険性があると言うのにそんな愚かなことはできない。
理性とかそう言う問題ではない。
ふう…… 疲れる。
やりがいだけではもう本当に体が持たないぞ。
大体俺が頑張っても他の奴らがサボっていたら何にもならない。
トントン
トントン
書類をまとめてさあこれで今日の分はおしまい。
残りは明日に回す。もう仕方ないこと。帰ることを優先する。
ふう…… 疲れた。そろそろ帰るかな。
戸締りを確認してから帰途に就く。
駅に通じる細い抜け道は現在工事中。
夜間はストップしているとは言えさすがにまずいよね?
仕方なく遠回りして駅前通りに…… いやそんな時間の無駄はしない。
ここを通れば一本早く電車に。そうすれば十分早く寝れる。
たかが十分だがその誘惑には勝てない。
導かれるように細い道へ。
『危険! 近づくな! 』
工事中の看板を蹴飛ばして憂さ晴らしをする。
ははは…… どうせ気付きやしないさ。
うわ…… まずいこの角度では防犯カメラに映る。
俺だという決定的証拠を残す前に急いで逃げなければ。
危ない危ない。どうにか回避成功。
急いで通り抜けようとしたその時だった。
違和感があった。
地面を歩いていたはずなのに勢いよく駆けるとその地面が消えてしまっていた。
うわああ! 助けて!
一体何が起きたんだ? 確かにちょっと悪いことしたけどさ。
この程度でバチって当たるもんじゃないだろ?
何でこうなるんだ?
こうして真っ暗な世界に吸い込まれていった。
まあいいか。これでぐっすり眠れるさ。
始まりの地。
<勇者よ。目を覚ますがいい>
どこからともなく聞こえる女性の声。何とも心地がいい。
俺は勇者じゃないから関係ないよね?
<これ! 目を覚ますがよい勇者よ! >
前よりも口調が厳しい。イライラしてるのがよく分かる。
でも俺には関係ないからさ。
<関係大ありです! 早く目を開けるのです! >
うわ…… 人の心を読むとは恐ろしい。占い師か何かだろうか?
でもそれでも俺は目を覚まさないぞ。意地でも目を開けるものか。
<これが最後です! 勇者よ目を覚ますのです! >
もう我慢の限界らしい。でももう少し粘ってみるか。
再び寝たふりで揺さぶってみる。
<ふざけるな! >
無理やり叩き起こされることに。
強制起床って体によくないよ。
「もう眠いのに…… 何ですか? 」
目の前には女神様がお怒りになられていた。
<あなたは不幸な事故によりお亡くなりになりました>
「嘘…… 嘘だろ? どうして! そんな…… まあいいか」
コケる女神様。一体どうしたのだろう?
<マンホールのフタが開いていたため可哀想なことをしました。
我が力であなたを転生させたいと思うのです>
そう言うと呪文を唱え魔法をかける。
「どこへ? 」
<ザンチペンスタン。あなたの転生する勇者が暮らす世界です>
「面白そうだな。ではさっそく」
<申し訳ありません。少々手配が遅れていまして。
あなたをお連れする妖精の到着が遅れてまして…… このままでお待ちください>
女神様が姿を消す。
そうは言ってもすることもないしな。
ふわああ。何だかあくびが。異常な眠気が。
そう言えば寝てなかったんだよな俺。
上が失敗ばかりするから俺が尻拭いするんだよないつも。
どうしてあんな会社に入ったんだか。
それにしても眠いな。
うん…… これは?
ちょうどいいところに布団がある。
温かそうで気持ちよさそうだ。これならきっといい夢が見られるぞ。
ではさっそくお休みなさい。
でも寝れるかな? 枕変わると眠れなくなるんだよな俺。
神経質って言うか我がままらしいんだけど。
それに真っ暗じゃないと気になって眠れない。
スイッチは……
続く