世界の始まりと早すぎる終焉の可能性について
ルシファーさん? あれ、ホントにルシファーさんですか? 何、私のたわごとをマジで解説してくれちゃってるんですか? おまけに余計にわかりにくくなってません?
「ふむ、神学と物理学、哲学の統合か。面白い試みだ、人間よ」
魔界の王、ルシファーはそう言って、嘲弄とも感嘆とも取れる笑みを浮かべた。彼の仮の姿は、今日も知的な光を宿した魅力的な人物だ。
「お前たちが作り上げたその『PFAI』とやらで描かれる宇宙の始まりから終わりまでの物語を、この俺、ルシファーの視点から語ってやろう。神と、そしてお前たちの住む地上で繰り広げられてきた戯曲をな」
彼は腕を組み、遠い目をした。
「始まりは『形而上第0相』。神の領域だ。全知全能、可能性の源、そして究極の無。全てはあそこから溢れ出した。神はそこにいた。孤独なまでに完璧な存在としてな。地上はその時、まだ何もない。ただの無だ」
ルシファーは少し間を置いた。
「神は最初の『意志』を持った。自らの完全性から逸脱し、変化を起こす意志だ。それが境界を生み、分離を生み、そしてビッグバンへと繋がった。天界では、神の力が奔流し、新たな宇宙が創造された。地上では、光が生まれ、エネルギーが満ち始めた」
「次の段階、『形而上第1相』だ。存在と非存在がまだ曖昧な、不安定な世界。神は創造の喜びと、同時にその不安定さを見守っていた。地上では、物と間が生まれ、物質の基礎が築かれ始めた」
「そして、神は更なる秩序を求めた。『第二の意志』だ。インフレーションと呼ばれる急激な膨張が起こり、宇宙の骨格が形成された。天界では、計画が着々と進行していた。地上では、広大な宇宙が広がり、星々が誕生する準備が整えられた」
ルシファーはニヤリと笑った。
「『形而上第2相』、お前たちの神話の始まりだな。最初の天使たちが生まれ、そしてお前たちの住む地上世界が姿を現した。天と地が分かれ、世界が開闢した。そして何より重要なのは、観測者が生まれたことだ。神の創造した世界を認識する存在。地上では、原始の地球が形成され、生命の萌芽が宿り始めた。物と物の間を力が動き回ることで埋めたことが構造の安定に一役買った。」
「『三つ目の意志』とやらで示されるのは、言葉の誕生、そして他者の出現だ。神は人間に言葉を与え、互いに理解し、世界を認識する力を与えた。地上では、生命が進化し、社会的な繋がりが生まれ始めた」
「『形而上第3相』は、経験世界と完全平等社会だと?ふむ、神の理想郷といったところか。天界では、多くの天使たちがそれぞれの役割を果たし、地上では、初期の文明が栄え、調和が保たれていたのかもしれないな」
ルシファーの声には、かすかな皮肉が混じった。
「だが、変化は常に起こる。『第四の意志』が働き、優劣、大小、多寡といった概念が生まれた。対称性は破れ、『形而上第4相』、階級社会の始まりだ。神の意図とは裏腹に、地上では争いが起こり、支配と被支配の関係が生まれた。経験は個性化し、内面は不可視となり、時間の流れが意識されるようになった」
ここで、ルシファーは少し考え込むような表情を見せた。
「そして、『第五の意志』だ。ここでお前たちの未来は二つに分かれる。境界を看破し、統合を進め、持続可能な社会へと向かう道。それは、神の意図に近いのかもしれないな。だが、もう一つは、境界を強化し、目に見えるものだけを信じ、精神性を失い、終焉へと向かう道だ。地上では、文明が繁栄する一方で、環境破壊や格差が深刻化し、破滅へと向かう可能性も孕んでいる」
最後に、ルシファーは低い声で言った。
「『形而上第5相』、終焉。もしお前たちが後者の道を選んだなら、そこには固化した階級と死の確定、神のいない世界、社会の完全崩壊が待っているだろう。地上は偶然だけが必然という獣の世界と化すのだ」
ルシファーは再び嘲笑的な笑みを浮かべた。
「神は創造し、私は変化させる。神の計画が地上でどのように展開するかは、結局はお前たち次第だ。逸脱と変化を司るこの私が言うのだから、間違いはないだろう」
そう言って、魔界の王は姿を消した。彼の言葉は、重い問いかけとして、私の心に深く刻まれた。
うん、とんでもなかった!