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目指せスローライフ

戦隊メンバーから逃れるため、自ら異世界に転移したグリーン。果たして異世界で念願のスローライフを満喫することは出来るのであろうか?

 目の前に広がるのは、まさに俺が夢にまで見たスローライフの世界だった。


 「せ、成功したぞ!!」


 透き通るような青空に、どこまでも広がる草原。遠くには、ゆったりとした川が流れ、木々が心地よく揺れている。小鳥のさえずりが穏やかに響き、まるで童話の中に迷い込んだような錯覚を覚えた。


 ふと視線を向けると、石造りの可愛らしい町並みが見えた。丸みを帯びたレンガ造りの家々が並び、家の前には色とりどりの花が咲いている。どの家も手入れが行き届き、住人たちが互いに挨拶を交わしながら、のんびりとした時間を楽しんでいるようだった。


 市場には新鮮な果物や野菜が並び、焼きたてのパンの香ばしい香りが漂う。子供たちが遊び回り、陽気な音楽を奏でる楽団が広場で演奏している。ここは、争いもなく、人々が自然と共に生きる、まさに理想の世界。


 グリーンは静かに深呼吸をする。


 「ここだ……俺の求めていた世界だ……!」


 そして、町の郊外に小さな一軒家を見つけた。


 緑に囲まれた木造の建物。庭にはハーブや果樹が育ち、裏には小さな畑もあった。まさに喫茶店をするには理想的な条件が揃っている。


 「よーし、俺はここで、静かにコーヒーを淹れ、のんびりと客を迎えるぞ。」


 事前準備が効いた。翻訳マシーンが機能して、一切言葉には困らない。さらにこの世界でも金は高価だったので、この家の主に十分な対価を払って、購入することが出来た。


 「アニメを観て沢山予習をしたからな。ふふふっ…。」


 これまで二度、喫茶店作りをした経験が活きた。とくにアマゾンの店は、ほぼ自力で作り上げたので、ノウハウは完璧に理解していた。

 (そう考えると、連中も少しは俺の役に立ったのか……いやいや、そもそも異世界まで逃げなきゃいけなくなったのは、あいつらのせいじゃないか……)


 「あー、やだやだ。異世界にまで来て、あんな連中のこと思い出すなんて…今はこの世界を楽しもう!」


 こうしてグリーンは、順調に喫茶店の準備を進め、1ヶ月が過ぎた頃にはすっかり小洒落た喫茶店ができあがっていた。


 喫茶店の店内は、落ち着いた木の香りに包まれている。アンティーク調の家具が並び、暖炉が温かな光を放っていた。カウンターの上には、元の世界から持ってきた自慢のコーヒーマシンと、香ばしい豆が並んでいる。


 グリーンはカップにコーヒーを注ぎ、一口飲む。


 「はぁ……最高だ……」


 外の景色を眺めながら、グリーンはついに手に入れたスローライフを満喫し始めた。


 ……


 喫茶店がオープンしてから3日が過ぎた。

 コーヒーの味はもちろん、こだわり抜いて作られたスイーツや内装が話題となり、僅か3日でそこそこ繁盛するに至っていた。


 「せっかくスローライフに憧れて始めたのに忙しくなって困ったなぁ~。」

 これまでの忙しさと違い、なにか充実したものを感じ、心は満たされていた。


 (あー、こんな生活がずっと続けばいいなぁ……。)


 そう思った瞬間、店のドアがバタンと勢いよく開き、どこからどう見てもお姫様みたいな格好をした少女が血相を変えて入ってきた。どうやら追われているようだ。


 (マズいな…嫌な予感がする……。)


 そして姫らしき少女は、グリーンに向かってこう言った。

 「悪い奴らに追われています。どうかお助け下さい!」


 (やっぱり……。)


 「へへへっ、お転婆なお姫様だな!大人しく俺たちに着いてきな!」

 そして案の定、世紀末みたいな格好をした荒くれ者が、ドアの向こうから現れた。


 (今までそんな格好の奴どこにもいなかっただろう…。)


 そして当然のようにグリーンの後ろに隠れる姫。

 (やっぱり、そうなりますよね……ハイハイ、分かりましたよ…。)


 これがヒーローの性分で、困っている人は助けないと気が済まない。姫を庇うように荒くれ者の前に立った。


 「てめぇ、何者だ!邪魔するなら、腕の一本や二本、覚悟するんだな!」


 ファンからは空気と呼ばれる程、存在感が薄かったグリーンだが、実力は他のメンバーと遜色ない。街の荒くれ者など赤子の手をひねる様なものである。


 2人の荒くれ者を瞬殺した後、有無を言わさず姫諸共、店の外に追い出してしまった。とにかく厄介事に関わりたくなかったからである。


 それからすぐに店を臨時休業にし、隣の国まで行って、何日か過ごす事にした。


 「丁度いい旅行と思えばいい…まだスローライフだ。まだ大丈夫だ…。」

 そう自分に言い聞かせて、隣国を満喫しようと思い、街へ出た。


 その瞬間…


 「あ、あなた様は昨日の…!」

 聞き覚えのある少女の声がした。


 (マジかよ、こっちの国の姫かよ…。)


 「いえ、違います。」

 慌てて、他人のフリをするグリーン。


 「その突き放した様で、どこか優しさを感じる雰囲気。間違いなく、昨日の殿方で御座いますわ!」


 「まだスローライフ、まだスローライフ、まだスローライフ……。」

 グリーンは自分に言い聞かせながら、姫の反対側に逃げようとした…が、姫に腕を掴まれて、逃亡失敗。


 「昨日のお礼も兼ねて、是非御父様にご紹介させて頂きますわ!」


 (くっ……仕方ない、きっと逃げた方がややこしくなるだけ。すぐに終わらせて、スローライフに戻ればいいだけだ…。)

 グリーンは観念し、大人しくお城へ連行された…。


 やたら推しの強い姫にグイグイと手を引かれながら、玉座の間に通された。そしてそこにはいかにも異世界の王っぽい王様が鎮座していた。


 「昨日の件、魔王軍の最強クラスの幹部から我が一人娘マリアンヌを救ってくれたことに感謝するぞ。礼として貴殿に褒美を取らす。なんなりと申せ。」


 (なに?アイツら、そんなに強い奴らだったのか…。)


 「王よ。滅相もございません。私は人として当然のことをしたまでです。褒美など要りません。ただ…ただ平穏に暮らせれば、それで結構です。それでは失礼します。」


 (褒美なんて貰ったら、何をさせられるか分からん。ここはとっとと帰ろう…。)

 グリーンは、一刻も早くスローライフに戻るために褒美を辞退した。しかし、それが良くなかった……。


 「な、何と…!ほ、褒美を受け取らぬとは……なんという男だ…!!」

 王様は驚愕し、周囲は騒然としている。


 (ん?なんかマズったか…?)

 グリーンは背中から冷や汗が出てくるのを感じた。


 横にいたいかにも大臣みたいな奴が大きな声で騒ぎ出した。

 「王よ!紛れもございません。この者こそ、伝説の勇者にございます!!」


 「へっ…?何言ってんの、おっさん……。」


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