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銀子と僕と自己肯定  作者: まきりょうま
第6話 ゴースト・タウン
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第6 話-1

 翌日はまるで、旅行気分だった。アメリカンさんに連絡すると、彼女も参加してくれることになった。明日の出勤は21時だから、昼間は大丈夫だそうだ。ブルさんは、残念ながら法事で不参加だった。

 参加者は、大竹さん、斉藤さん、範子さん、郁美さん、温子さん、アメリカンさん、そして僕だ。総勢7名。僕は学校をずる休みした。

 車は、2台で行く手もあった。しかし、

「1台で行けばさ、車の中で作戦会議ができるじゃん」と、範子さんが提案した。

「そりゃ、そうだ」と、大竹さんと斉藤さんが同意して決まり。早朝にレンタカー屋で、8人乗りのハイルーフ車を借りた。

 みんな、気分が高揚していた。車内は、小学生の修学旅行みたいな騒ぎだった。一歩間違えば、酒盛りが始まりそうだった。

「ねえ。到着したときのこと、考えとこうよ」と、範子さんが言った。「進。ほら、昨日みたいに仕切って!」彼女はそう言って、僕の肩をバシバシ叩いた。彼女の隣で、郁美さんが大きくうなずいていた。

「はい・・・」僕は、正直まごついた。でも、昨夜から考えていることを披露した。「銀子が、見つかる前提ですが・・・」

「うん、なあに?」と、温子さんが聞いた。

「 ① 銀子が、一人でいる。

 ② 銀子が犯人か、犯人の協力者と二人でいる。

 ③銀子が、犯人と協力者と三人でいる。

 この、三つのパターンが考えられます」

「そりゃそうだ。それで?」と、斉藤さんが運転席から聞いた。

「① 銀子が一人でいる。の場合は、簡単です。彼女を助け出して、地元の警察に保護してもらえばいい。犯人は、銀子のいる別荘を自由に使える立場の人です。上手くいけば、今日中に捕まります」

「よし、了解。次は?」と、大竹さん。

「② 銀子が犯人か、犯人の協力者と二人でいる。この場合は、やっかいです」と、僕は言った。

「俺、小学校のとき、空手習ってたんだ」と、大竹さんが両腕でファイティング・ポーズをとって見せた。

「まず俺が、タックルで相手を倒す。約束する」と、斉藤さんが言った。

「ねえ。二人とも格好いいんだけど、もし犯人が、家に閉じこもっちゃったら?」と、温子さんが不安そうに言った。

「郁美がさ」と、範子さんが言った。「犯人が銀子を人質にして、立て篭もるかもって」

「そうかー。それやられたら、手も足も出ねーな」と、がっかりした様子で大竹さんが言った。

「追い詰められた犯人が、人質を殺すってよくある話だよな」と、斉藤さんが言った。

 修学旅行気分だった車内が、静まりかえった。みんなすっかり、シュンとなってしまった。

「ねえ」と、アメリカンさんが口を開いた。「犯人が、樹里のそばにいるとは限らないんじゃない」

「それはそうだね」と、範子さん。

「犯人は、俺と斉藤で抑え込む」と、大竹さん。

「その間に、私たちが樹里を助け出す」と、アメリカンさん。

「よし。その手で行くか」と、斉藤さん。

「郁美がね」と、範子さん。「犯人が銀子と一緒でも、離れるまでじっと待とうって」

「長期戦だね」と、アメリカンさん。

「ここまで、来たらね」と、温子さん。車内はにわかに、戦闘モードへ変わった。

「③銀子が、犯人と協力者と三人でいる。ですが、僕は可能性は低いと思ってます」

「何で、そう言い切れる?」と、斉藤さんが厳しい口調で聞いた。

「そう考える理由は、エデンが蓼◯に来るのが、キッチリ土日であることです。犯人は、平日は規則正しい生活をしているようです。今日は金曜日ですから、これまでのパターン通りなら、エデンは来ない」

「なるほどね」と、範子さんが言った。

「それからこれは、思いつきに過ぎないんですが・・・」僕は、モゴモゴとしゃべった。

「何だ?」大竹さんが聞いた。

「犯人と協力者が、一緒にいることはないんじゃないかと・・・」なかなか、言いにくいことだった。

「えー、何で?」と、温子さんが聞いた。

「つまり、犯人の二人は、銀子をシェアしているんじゃないんか?土日祝日は、銀子は誘拐実行犯のもの。月曜から金曜までは。蓼◯の近くに住む協力者のもの。二人はバッティングしないことで、協力関係を維持しているのでは・・・?」

「ヘェ〜。そんなもんなの?」と、範子さんはとても不思議そうだった。

「100%賛同じゃないけど、進の言わんとすることはわかるよ」と斉藤さんは、車を100kmで走らせながら言った。

「賛同できないところって、何?」と、温子さんが聞いた。

「俺が犯人だったら、銀子を他の男に触らせないよ。犯罪まで犯して、手に入れたんだ。自分一人で独占するよ」と、斉藤さんは少し熱くなって答えた。

「斉藤の言い分は、わかるなー」と、大竹さんはうなずきながら言った。「要するに、嫉妬の問題だろ?嫉妬で、独占するか。嫉妬を我慢して実際的になり、平日は他の男に託すか。進は、この犯人が後者だと言うんだな」

「まあ、勘なんですけど・・・」

「その協力者だって、普段は働いてるわけでしょ」と、温子さんが言った。「昼間は、銀子一人かもしれない」

「その人が私みたいな仕事してたら、昼間の方が時間あるよ」と、アメリカンさんが言った。

「郁美がね。結局、現場に行かないとわかんないって」と、範子さんが代弁した。

「そういうことだ。現場に行くしかない」と、斉藤さんが言った。

 僕たちは、推測に推測を積み重ねていた。推測の一つを取り上げれば、確率は80%かもしれない。でも僕らは、その推測から新たな推測を引き出した。それも、確率80%としよう。そしてさらに、推測から推測を導いたとしよう。


 0.8 × 0.8 × 0.8 × 0.8 × 0.8 × ・・・ = 0.8 を大きく下回る


 こういう結果になり得る。だが、恐れてはいけない。僕ら人間は、あまり頭が良くない。未知のことに対して、推測を重ねてゴールまで描く。これが、「仮説」だ。仮説を描いた者は、予想外の結果にくじけない。これまでの仮説を微調整して、立ち直れるからだ。大事なのは、仮説と実行だ。部屋の中にいては、新たな事実をつかめない。現場に行き、自分たちの仮説を確かめることだ。

 僕はこのところ、びっくりするほど前向きだった。つい最近までは、逃亡生活でヘトヘトだったのに。自宅から逃げて、あちこちをフラフラするのはとても疲れる。自分に落ち度がある場合は、なおさら逃亡するしかない。銀子がいなくなって、僕の頭は彼女のことでいっぱいだった。銀子を想うことで、僕は家を忘れることができた。

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